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張本勲コラム

【張本勲の“喝”】打高投低が目に余る。投手には理不尽、打者は打撃技術が劣化する/張本勲コラム

 

ホームランが野球の花だというが本当にそれだけでいいのか


 打高投低があまりにもはなはだしい。今のプロ野球は8割方バッターが有利な競技になっている。

 今シーズンもペナントレースが開幕して早々にホームランが乱発されている。8対7や10対9の試合が面白いというが、1対0や2対1の試合も緊迫したいいゲームであるはずだ。もちろん、バッターの技術が上がって打撃戦が増えているなら素晴らしいことだが、そうではない。

 ホームランが野球の花だというが、ルールや環境を捻じ曲げて生み出しても意味がない。ピッチャーとバッターが同じ条件でぶつかり合ってこそ、ファンに喜んでもらえる本物の野球を見せることができるはずだ。

 例えばほかのスポーツ界を見れば、ボクシングや柔道は階級を設けて公平な戦い、勝負を演出している。それがプロ野球はどうだ。ドーム球場で風の影響を受けず、人工芝に助けられて打球は鋭く内野の間を抜けていく。その上、どの球場もどんどん狭くしている。ヤフオクドームにはホームランテラスができ、今年はZOZOマリンにホームランラグーンができた。ピッチャーにとってはたまったものではない。こんな不公平な戦いをしているのはプロ野球だけだ。これではピッチャーとしてプロ野球を目指そうという少年・少女たちもいなくなってしまう。

 読者の皆さんも想像してみてほしい。皆さんのご子息、ご息女が投手だったら、と。あまりにピッチャーが不利だと憤慨するのではないか。

 何より、どう考えてもボールが飛び過ぎている。統一球が導入されているはずだが、そろって飛ぶボールに統一してどうする。ボールが飛べば、ピッチャーが損をするだけではすまない。バッターの技術もどんどん落ちていってしまう。下半身主導の理に適ったバッティング技術などはいらず、上半身を鍛えてゴツンとたたけばこすったような打球でもスタンドに入ってしまうのだから。

 しっかり技術を磨き、しっかりボールをとらえなければ打球は飛ばないし、野手の間を抜けてはいかない。そうした環境を取り戻さなければ、バッターの技術はさらに落ちていくことになってしまう。

 今のアメリカの野球はとにかくフライを打てという。だが、それでは監督の采配などいらない。ただ黙って選手がホームランを打つのを見ていればいい。これでは野球が雑になる。駆け引きの妙も薄れていく。引退を表明したイチロー(元オリックスほか)も会見で「頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつある」と言っていたではないか。アメリカの野球はすでにダメになりつつあるということだ。何度でも書くが、すべてアメリカに追従する必要はない。このままでは日本の野球もダメになってしまう。

 明らかに条件が違っている。今のままではあまりに理不尽な話である。日本国民は正義と平等を重んじる民族のはずだ。

 ではどうするか。逆の発想だ。有利過ぎるバッターの条件をピッチャーと平等にしなければいけない。方法はいくらでもある。ストライクゾーンを広くするだけではアンパイアの好不調に左右されてしまうかもしれない。ならばボール一個分、ホームベースを左右に広げればいい。確実に内角と外角のストライクゾーンがボール半個分ずつ、広くなる。

 もう一つはマウンドの高さを一律で高くする。そうすればピッチャーの投球に角度とスピードがつく。乱暴な意見と思うかもしれないが、野球の歴史を勉強してみてほしい。アメリカではそうしたルールの変更を平気でやるし、そもそも球場ごとにマウンドがバラバラだ。今回の話とは逆になるが、かつて投高打低が激しかった時代、1969年に一律でマウンドを低くしたことがある。日本はアメリカのダメなところばかり見習い、そうした柔軟なところは見習おうとしない。もちろん、ラッキーゾーンを取り払うことは真っ先にやらなければならない。

張本勲(はりもと・いさお)
1940年6月19日生まれ。広島県出身。左投左打。広島・松本商高から大阪・浪華商高を経て59年に東映(のち日拓、日本ハム)へ入団して新人王に。61年に首位打者に輝き、以降も広角に打ち分けるスプレー打法で安打を量産。長打力と俊足を兼ね備えた安打製造機として7度の首位打者に輝く。76年に巨人へ移籍して長嶋茂雄監督の初優勝に貢献。80年にロッテへ移籍し、翌81年限りで引退。通算3085安打をはじめ数々の史上最多記録を打ち立てた。90年野球殿堂入り。現役時代の通算成績は2752試合、3085安打、504本塁打、1676打点、319盗塁、打率.319

写真=BBM

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