週刊ベースボールONLINE

張本勲コラム

【張本勲の“喝”】巨人・原辰徳監督は“大監督”になれるだろうか/張本勲コラム

 

巨人の原監督は歴代の“大監督”の系譜に名を連ねられるだろうか


 80年以上のプロ野球の中で、私は4人の監督のことを“四大監督”と呼んでいる。水原茂さん(元巨人監督ほか)、三原脩さん(元西鉄監督ほか)、鶴岡一人さん(元南海監督ほか)、そして川上哲治さん(元巨人監督)だ。その次、という言い方は悪いかもしれないが、西本幸雄さん(元阪急監督ほか)や廣岡達朗さん(元西武監督ほか)、野村克也さん(元ヤクルト監督ほか)、森祇晶さん(元西武監督ほか)などが続く。

“四大監督”とほかの監督の何が違うのか。もちろん一番は結果だ。大きなゲームに強いということもあるし、いずれも監督としてのカリスマ性を備えていた。そして、戦い方を知っていた。相手の弱点と長所を知り尽くした上で駆け引きをすることができ、勝負に徹して時に非情とも思えるような采配を振ることができた。グラウンドの上では選手たちを平等に扱い、決して好き嫌いで起用することはなかった。

 選手たちは新しい監督がやってくると、春季キャンプからオープン戦にかけて「ウチの監督は大丈夫だ」「これはダメだ」と評価していくものだが、この4人のような監督には自然と信頼を寄せていくことになる。なぜなら「勝たせてくれる」監督だからだ。もちろん、試合には勝ち負けはある。ただ、例え試合に負けたとしても、勝つためにやるべきことをやっている、その姿を見れば、選手たちはついていく。

 例えば巨人をV9に導いた川上監督は後楽園球場のベンチにスッと入ってくるだけで、選手たちはもちろん、用具係などの裏方までビリっと雰囲気が引き締まったと聞く。眼力も素晴らしかった。それは選手に限らない。スカウトに転身していた内堀保さん(元巨人)をキャンプで内野のノッカーに、コーチだった武宮敏明さん(元巨人)を外野のノッカーに起用したのもそうだ。

 とにかくうまかった。捕れるか捕れないか、ギリギリのところに次々と打ち込まれていくノックが巨人の強さを支えた一端であることは間違いない。私も巨人に移籍した際は、練習量とともにそうした伝統の息づいたノックに感心したものだ。

 同時に川上監督は論理的な非情さも持ち合わせていた。高田繁(元巨人)が新人の年に二軍に落とされたことがあった。レフトとショートの間に落ちた打球を見て、川上さんはレフトを守る高田の責任だと判断したという。高田も守備には自信のある男だ。「あれは自分のボールではない」と涙を流していたという。

 しかし、川上さんにしてみれば「守備がうまいからこそ、お前のボールではないか。お前が行けばボールは落ちなかった可能性がより高くなる」ということだった。監督が毅然としてこうした判断を下せば、チームは必ず引き締まる。自分が目指す野球をはっきり示し、選手に厳しく求める。こういうことができる監督が今の時代にどれだけいるか。

 野球に対するアイディアという点では三原監督だ。私が日本ハムでプレーしていたときに球団社長になられたのでよく話をさせていただいたが、三原さんと1時間話せば、野球に対する新しいアイディアを2つ、3つは聞くことができた。“二番最強説”はその最たるものだろう。今でこそアメリカでは二番に強打者を置くことがあるが、最初に打ち出したのは三原さんだ。西鉄監督時代に強打の豊田泰光さん(元西鉄ほか)を二番に据え、“流線型打線”と呼ばれた強力打線で一時代を築いた。

「なぜ二番なのですか?」と尋ねたことがある。すると、「一番が出れば一気に攻め立てることができる。一番がアウトになっても、二番が最強なら塁に出る確率は高い。そこからまた三番、四番につながる。ピッチャーはワンアウトでランナーに出られるのは嫌なものなのだ」とおっしゃっていた。「なぜ」「どうして」に対する答えを明確に持っていた。

 少し前の話だが、巨人の原辰徳監督は一軍と二軍で5選手を一気に入れ替えた。チームの刺激になったことは間違いないだろう。坂本勇人丸佳浩などを据えて二番を重視してもいる。果たして三原さんの野球を勉強したのだろうか。以前も、原監督になった今年の巨人はやるのではないか、と書いたが、そうした細かい部分から監督の資質というのは見えてくるものなのだ。

張本勲(はりもと・いさお)
1940年6月19日生まれ。広島県出身。左投左打。広島・松本商高から大阪・浪華商高を経て59年に東映(のち日拓、日本ハム)へ入団して新人王に。61年に首位打者に輝き、以降も広角に打ち分けるスプレー打法で安打を量産。長打力と俊足を兼ね備えた安打製造機として7度の首位打者に輝く。76年に巨人へ移籍して長嶋茂雄監督の初優勝に貢献。80年にロッテへ移籍し、翌81年限りで引退。通算3085安打をはじめ数々の史上最多記録を打ち立てた。90年野球殿堂入り。現役時代の通算成績は2752試合、3085安打、504本塁打、1676打点、319盗塁、打率.319

写真=BBM

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング