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張本勲コラム

【張本勲の“喝”】ただの“いい人”ではとても監督は務まらない/張本勲コラム

 

巨人のV9において川上監督の存在が絶大であったことは言うまでもない


 プロ野球の監督をやってはいけない人、やらせてはいけない人もいる。「やはり野に置け華(れんげ)草」と言うではないか。会社組織でも誰もが社長になるわけではない。監督に向かない人には、監督をやらせてはダメなのだ。

 ある監督は5回を前にピッチャーを代えるべき場面でも、マウンドへ行ってピッチャーに「どうする?」と聞いていた。勝っても負けても5回までは投げたいと思うのがピッチャーだ。投げたいと言うに決まっている。それで続投させた挙句、カンカンと打たれて点を取られる。そこでようやく「やっぱり代わろうか」。人はいいのかもしれないが、監督には向いていない。

 川上哲治さん(元巨人)はエースの堀内恒夫(元巨人)であっても、5対3で勝っている4回二死からランナーを2人出せば「守っている野手の雰囲気が悪くなる」と言ってスパッと交代させていた。

 結果論でモノを言う監督もダメだ。ピッチャーやキャッチャーに「なんであんなボールを投げたんだ」「なんであんなボールを投げさせたんだ」と問い詰めるのは本当に頭のいい監督のすることではない。ピッチャーもキャッチャーも、相手バッターの強みや弱点などは知っている。その上でさまざまな選択をしている。その選択が誤ったものだと思うなら、まず最初に答えを出してやらなければならない。結果論で選手をいじめても何もいいことはない。

 球団もしっかりと吟味して監督を選ばなければならないということだ。生え抜きだから、功労者だからというだけで、監督に向かない人を選んでは本人にも気の毒な結果になってしまう。監督は何十人もの選手たちの人生を背負っているのだ。人がいいだけではプロ野球の監督は務まらない。

 野球は勝負事だ。監督はまず勝負師でなければならないし、選手にとっては自分を成長させてくれる監督、勝たせてくれる監督がいい監督なのだ。私が考える“四大監督”である水原茂さん(元巨人監督ほか)、三原脩さん(元西鉄監督ほか)、鶴岡一人さん(元南海監督ほか)、そして川上さんの中にただの“いい人”は1人もいない。

 それぞれに個性があり、クセがある。だが、いずれも勝負師であり、カリスマ性を備えた方たちだった。令和の時代には、そんな昭和の大監督たちに匹敵する監督が現れるだろうか。

張本勲(はりもと・いさお)
1940年6月19日生まれ。広島県出身。左投左打。広島・松本商高から大阪・浪華商高を経て59年に東映(のち日拓、日本ハム)へ入団して新人王に。61年に首位打者に輝き、以降も広角に打ち分けるスプレー打法で安打を量産。長打力と俊足を兼ね備えた安打製造機として7度の首位打者に輝く。76年に巨人へ移籍して長嶋茂雄監督の初優勝に貢献。80年にロッテへ移籍し、翌81年限りで引退。通算3085安打をはじめ数々の史上最多記録を打ち立てた。90年野球殿堂入り。現役時代の通算成績は2752試合、3085安打、504本塁打、1676打点、319盗塁、打率.319

写真=BBM

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