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噂のHOPEに直撃

開幕から未だ無失点!巨人・中川皓太がたどり着いた考え方とは?

 

開幕から連続無失点を継続中の中川皓太


良い意味での開き直り「もういいや」が好結果に


待望のリリーバーの誕生だ。開幕から12試合連続の無失点救援を継続中(5月5日時点)で、原辰徳監督から厚い信頼を寄せられている。期待されるのは、昨季引退した鉄腕・山口鉄也が長らく担っていた8回。チームの勝敗を大きく左右するポジションだ。
取材・構成=坂本匠、写真=小山真司

 今季最初の出番は広島との開幕カード第2戦(3月30日、マツダ広島)。2点リードの8回にマウンドに立つと、鈴木誠也に内野安打こそ許したものの、後続を断って無失点でクローザーのR.クックへバトンをつなぎ、今季初勝利(原辰徳監督復帰後初勝利)。以降、5月5日まで13度の登板機会でいまだ失点はゼロ。与四球もゼロ(死球が1あり)で、安定感のある投球を披露し、勝ち試合、または接戦の終盤のマウンドを支えている。

――開幕から無失点投球を継続中です。2016年のプロ入りから過去3年と比較すると、最高のスタートと言えるのではないですか。

中川 良いスタートが切れたと思います。ただ、ここまで3年間やってきたことと、技術的な部分では大きく変えたものはありません。もちろん、オフのトレーニングを含めて、現状からのレベルアップということに毎年取り組んではきていますが、新しい球種を覚えたとか、分かりやすい変化はなくて……。自分としては、いつもどおりに投げて、「結果が良い方向に行っている」という感覚のほうが強いです。

――心の持ち方や、試合に臨むにあたっての心構えはどうですか。

中川 しいて言うなら、気持ちの面の変化は挙げられるかもしれません。昨年までは自分の持っている力以上のものを出そうとするところが強くあったのですが、空回りするだけで、結局良い結果にはつながりませんでした。自分を実際よりも大きく見せようとしていたんですね。

――プロに入って、活躍したい、目立ちたいという思いは、誰もが持つと思います。それがパフォーマンスに影響を与えていたと。

中川 振り返ると、自分で自分のクビを絞めていただけのような気がしています。立ち向かうべきは相手バッターなのに、マウンドで独り相撲をしていて、それに気づけていなかったと思います。で、今年に関しては、自分の持っている以上の力を出そうと考えるのをやめました。高望みせずに、自分の持っている力、出せる力だけを出そうと。どう頑張っても、自分の出せる力は限られているわけで、10のものを12には見せられないですよね。であれば、そういうのを望むのではなく、限りなく10を出せるように頑張る。今、できることを確実に、です。

――そのことに気づかされるキッカケがあったのですか。

中川 誰かに言われたとか、そういうことではなくて、3年間、プロの世界で投げてきて結果が出なかったわけで、大卒の4年目に突入しますし、良い意味で開き直りというか、「もういいや」と。そう言うと悪く聞こえますけど、自分の中ではプラスにとらえていて、物事を楽に考えようとシーズンに入ったことが、良い結果につながっているのかもしれないですね。

――自分を飾り立てることなく投げることを心掛けて、結果、開幕12試合連続無失点です。いま、どういう心理状況でマウンドに立っているのですか。

中川 もちろん、結果に対して気分は良いですし、目の前のバッターを抑えたい、与えられたイニングを抑えたいという気持ちは、これまで(過去3年)と変わりません。ただ、いまゼロで抑えているからといって、満足もしていないですし、1試合1試合、任されたところで頑張り続ける。ペナントレースが終わるまで、その気持ち、姿勢は持ち続けると思います。

――1年目に2試合、2年目に18試合、3年目に30試合と着実に登板機会を伸ばしてきました。ここまでの経験も、今年のパフォーマンスに生きているのではないですか。

中川 1年目から年々、一軍に帯同する日数も増えてきました。一軍にいることでチーム全体の雰囲気、勝敗へのプレッシャーを感じられますし、仮に自分がその日の試合に投げなかったとしても、ブルペンにいるだけで二軍では感じられない遥(はる)かにすごい緊張感を味わうことができます。実際、昨年は30試合に登板して経験を積むことができましたし、長く一軍にいたことは今年につながっていると思います。

今季は開幕から重要な局面での出番を任され、4月27日のDeNA戦では8回1イニングをゼロ封。10試合連続無失点としてこの日のヒーローに


指揮官やエースが強いボールを評価


 勝負の4年目を迎えている。昨季はチームの左腕としては最多の30試合に登板。前述のように経験についてはある一定の満足感を示したが、一方で悔しさもにじませる。当初は先発投手として期待されながら中継ぎに配置転換。最終的に勝ちパターンではない立ち位置で終わり、17年と立場が変わらなかったためだ。しかし、原辰徳監督体制となり、開幕からのパフォーマンスで着実に信頼を勝ち取りつつある。

――監督以下指導スタッフが大きく入れ替わりました。これはプロ入り後初めての経験だったと思います。

中川 原監督になって最初の昨年秋のキャンプはアピールするためにとても大事な時間だったと思うのですが、ケガをしていて参加ができず、正直不安もありました。ただ、いま、こうして投げさせていただいて、無理をしてケガを長引かせるようなことをしなくて良かったなと。春のキャンプも二軍スタートでしたが、ケガは治っていたので、結果さえ残せば見てくれていると思っていたので、焦りはなかったです。

――その後、開幕一軍をつかみ、現在に至るわけですが、原監督の評価を高めたのが開幕3戦目の広島戦(3月31日、マツダ広島)での登板でした。出番は1点リードの8回、桜井俊貴選手の後を受け、無死一、三塁の場面です。最初の打者を併殺打(三走は生還で一時同点に)、続く打者を三振に切って取り、失点を最小限に食いとどめたことを指揮官は絶賛していました。

中川 先ほどお話しした気持ちの面で考え方が変わったということにつながるのですが、正直に言うと、自分の出したランナーではなかったので、「1点はしょうがない。最少失点で抑えよう」と気楽に考えて、マウンドに向かいました。昨年までだったら、この状況にプレッシャーを感じて、「1点もやりたくない」という考えになり、もっとピンチを広げていたかもしれません。

――ちなみにですが、東海大時代は先発投手で、プロ入団当初も先発をする機会も少なくありませんでした。ポジションについてはどのような考えを持っていますか。

中川 昨年も初めは先発を期待されていたので、先発でいきたかった気持ちもありましたし、いまでも先発をしたい気持ちはゼロではないです。ピッチャーで言うと、先発が一番華があるというか、試合では一番長く投げ続けることができて目立ちますよね。そういうポジションで投げたい、という気持ちはピッチャーなら誰もが持っていると思うんです。でも、プロで中継ぎをやらせてもらって、先発にはない中継ぎのやりがいと良さを知りました。例えば、緊迫した場面で登板して、流れを断ち切る。これはまさにチームの勝利に直結する仕事で、アマチュアのころは経験したことがない、なんとも表現できない緊迫感と、抑えたときの達成感があります。そういう意味では、先発も、リリーフも、良いところがあって、どちらがいいのか決められません。

――開幕からの好投もあり、現在は8回、いわゆるセットアップマンの役割を任されています。

中川 いまの自分の立場としては、リリーフでしっかり仕事をするという気持ちで固まっています。ただ、確かに、いま使っていただけるのはすごく重要な場面が多いですが、自分としては8回に投げているだけで、セットアッパーという意識はなくて、3人で抑えて、次につなぐ。考えるのはそれだけです。もちろん、試合状況などを考えてマウンドに立つのですが、あまり重要なポジションと思い過ぎると、変なプレッシャーがかかってパフォーマンスが落ちてしまいそうなので、「ただ8回に投げている」くらいのスタンスが自分に合っているかなと思います。

――開幕からクローザーを担ったR.クック選手が右ヒジ違和感で離脱中です。まだそのような場面での登板はありませんが、“代役”の可能性もありそうです。

中川 長いシーズンでリリーフ陣が全員万全で最後まで、というのはほぼないこと。そういう状況で出番が回ってくれば、良い経験ですし、「全員でカバーする」気持ちで臨機応変に対応できればいいと思っています。

――実は原監督は中川選手のボールの強さを高く評価していて、8回、9回というようなイニングに出番を限らず、場合によっては「強いピッチャーを当てたい場面」での登板を期待しているようです。ボールの強さに関しては、東海大の先輩で自主トレも共にする菅野智之選手もたびたび口にしていました。自分自身でプレースタイルをどのように考えていますか。

中川 強いボールですか……。僕自身はあまり実感はないですが、ストレートに関しては速さよりもキレ、質にこだわっているのは確かです。

――スリークオーターからの投球フォームと、ストレート、スライダーという球種もあって、昨年引退した元中日岩瀬仁紀さんの現役時代の姿に重ねる解説者の方も多いです。

中川 意識して似せたということはないのですが、プロに入ってから言われる機会が増えました。自分は変化球がスライダーしかないので、そのコンビネーションでいかに相手を抑えていくか、を考えています。そのためにもスライダーを確実なものにしたいというのはずっと考えていることです。真っすぐに近いような軌道で、手元で曲がるものにしたいですね。

――昨年途中、阿部慎之助選手にヒジの位置を下げるよう勧められ、キャンプ期間中はサイドスローの田原誠次選手にアドバイスを求めたとか。

中川 サイドにするというわけではないんです。角度的にはスリークオーター。ただ、身体の回転が横だったので、田原さんに体の使い方について、いろいろお話を聞きました。上から投げる意識があったときは、上半身の力を使ってグンと投げていたのですが、そうではないと。下半身を使って投げる意識を田原さんはしていて、すごく参考になりました。継続して身につけていきたいなと思います。

――技術的な変化、ありますね。

中川 あ、ほんとですね(笑)。

――まだ開幕から1カ月と少しです。100試合以上を残していますが、これからのターゲット、ビジョンを教えてください。

中川 先のことを考えることは大事だと思うのですが、自分の中では具体的な目標を立てるレベルではないと思っているので、毎日、頑張って、ちょっとずつ成長していって、終わってみたら「こうなっていた」というのが僕には合っていると思うんです。先ほどの話ではないですけど、細かく目標を設定してしまうと、自分の持っている力以上のものを出そうとする感じがまた出てきてしまいそうなので、今できることをちょっとずつやる。それが自分の生き方なのかなと思います。

スリークオーターから力強い直球と、変化の大きいスライダーを投げ込む。そのフォームと球質から、昨季引退した中日の鉄腕・岩瀬仁紀と姿を重ねる声も


PROFILE
なかがわ・こうた●1994年2月24日生まれ。大阪府出身。左投左打。山陽高(広島)時代は甲子園出場なし。東海大では1年春からリーグ戦に出場し、リーグ戦通算16勝1敗、防御率1.31を記録。2016年にドラフト7位で巨人入団。1年目は2試合の一軍登板にとどまったが、2年目=18試合、3年目=30試合と出番を増やし、3年目に初勝利、初セーブ、初ホールドを記録。4年目となる今季は開幕から勝負所もしくは8回の登板を任されるなど、ブルペンに欠かせない存在となった。

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