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廣岡達朗コラム

坂本勇人は4割を打っても不思議ではない/廣岡達朗コラム

 

王貞治を抜いたのは偉業


開幕から36試合連続出場を続けた坂本


 坂本勇人が開幕から34試合連続出塁を記録し、王貞治の持つ球団記録を塗り替えた(5月14日、36試合連続出場でストップ)。

 王を抜いたというのは偉業ではあるが、坂本の実力に関しては、私はまだ信用しきれていない。常識的に、バッティングには波があるのが当然だ。いい状態を継続させている人間は、やはり相応の苦労をしている。その苦労を坂本がしているのであれば、打率3割台というのはおかしい。4割を打っても不思議ではないくらいだ。

 それ以上に、私が問題にしたいのは今季の巨人の勝ち方はいまに後悔するということだ。

 巨人は、他球団がコンプレックスを抱くほど、何億もの金額を使って大型補強した。しかし、生え抜きの選手は少ない。本当は堕落しているのだ。それでも首位にいるからといって有頂天になっていたら、その方程式がほかのチームで通用するのかと問いたい。弱いチームには、いい選手が巨人ほどそろっていない。そこでは、指導者が頭を使って教えなければいけない。巨人は教えなくてもできる選手をカネで集めている。そういうことを頭に入れておかないと日本は世界から笑われてしまう。

 アメリカは平等を基本に置いている。ネームバリューのあるいい選手をカネで獲ったら、獲った相手の球団にドラフトの指名権を献上。そうしてバランスを取っているのだ。

 原辰徳監督が指揮官として優秀だと自分で思うのであれば、弱いチームを率いて、いまと同じスタイルでやってみればいい。できるわけがない。戦力が乏しいからだ。そこで育成に取り組んだほうが、よほど目が覚める。少なくとも余裕の笑みをたたえた現在の姿よりはるかにいい。

 もうひとつ、これは巨人に限った話ではないが、攻守走に秀でた専門的な選手を使うのは、三拍子をそろえた上でレギュラーを巡る競争に勝つという原則から外れている。首脳陣は「ユーティリィーは使わない」という姿勢を打ち出すべきだ。監督、コーチは選手の本質を伸ばすことが仕事なのに、自分たちが使いやすい育て方をしている。大間違いだ。結果的に、誰が後悔するかといえば選手本人にほかならない。気づいたときには有望株が現れてお役御免。俺はいったい何をしていたんだろうと思っても後の祭りだ。

もっと自分のことを真剣に考えるべき


 しかし、いまの選手たちは公然と文句を言う人間がいない。私は巨人での現役時代、「こんなことをやっていたらダメだ」と、川上哲治さんにいろいろ盾突いた。いまは使われ放題。試合を見ていて気になるのは、少し何かあればお互いに拳を突き合わせることだ。東京六大学にしても、ピッチャーが打たれようと何しようと「よく頑張った」と美化する。

 正直な人間がいないということだ。自分がレギュラーでもないのに、レギュラーに「頑張れ」と言う。昔は、「何かで故障してくれないか」と思っていた。それぐらい競争は厳しかった。しかし、いまは悪口を絶対に言わない。本当のことを言っても、やるべきことをやっていれば文句を言われる筋合いはない。

 どんなにご機嫌を取るようなことを言ってもクビになるときにはクビになる。もっと自分のことを真剣に考えるべきだ。

廣岡達朗(ひろおか・たつろう)
1932年2月9日生まれ。広島県出身。呉三津田高、早大を経て54年に巨人入団。大型遊撃手として新人王に輝くなど活躍。66年に引退。広島、ヤクルトのコーチを経て76年シーズン途中にヤクルト監督に就任。78年、球団初のリーグ制覇、日本一に導く。82年の西武監督就任1年目から2年連続日本一。4年間で3度優勝という偉業を残し85年限りで退団。92年野球殿堂入り。

写真=BBM

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