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記録の周辺

世紀の大逆転メークドラマにまつわる、いくつかの誤解

 

最終盤の逆転劇ではなかった


優勝決定は94年と同じナゴヤ球場だった



 巨人が2位に最大10.5ゲーム差の大独走から急失速。一部からは「逆メークドラマ」という言葉が躍るようになった。

 1996年、広島につけられた11.5ゲーム差をひっくり返して優勝した巨人の逆バージョンだ。

 今週号の週べでは、現在2位となっているDeNAの特集をしているが、その中で、このメークドラマについても触れている。
 実は10.5ゲーム差時点で考えた企画で、もはや3.5ゲームなのでピントはずれと思われるかもしれないが、せっかくだ。その記事を抜粋し、紹介しておこう。

 球史に残る大逆転劇メークドラマ。巨人ファンにとっては歓喜の記憶であり、それ以外にとっては、「毎年、ゲーム差が開くと巨人寄りのメディアが持ち出してくる妄想」だろう。

 いろいろな人と話していると、すでに23年前ということもあり、意外と誤解が多い。
 大きくは3つだ。

 その1、最終盤の逆転優勝だった
 その2、優勝決定は最終戦だった
 その3、最後まで競ったのは広島だった

 1と2は間違い。3は△か(すべて正解となった方には以下は退屈な原稿だと思います。ここで、ご退室を)

 かいつまんで、このシーズンを振り返ってみる。
 94年オフ、巨人は30億円とも言われた大型補強で広沢克己川口和久、ハウエルらを獲得したが、まったく機能せず、95年は3位に終わった。

 迎えた96年、長嶋茂雄監督はV奪回に向け、「ロケットスタート」を掲げたが、14試合を終えた時点で借金4の最下位。それでも長嶋監督は「アメリカやソ連だって何度もロケット実験に失敗しているんですよ、うちはまだ一発です」とあくまで明るかった。

 5月は新外国人ガルベスの好投と、途中加入で、お化けフォークを武器にした抑えのマリオの活躍もあって16勝9敗で借金を完済し、貯金2で3位浮上。この時点では、首位中日とのゲーム差は3だった。

 しかし、6月に急落。6月1日に首位に立った広島が走り、7月6日には広島との差は11.5ゲーム差となった。もはや絶望的ともいえる大差だ(4位)。
 さすがの長嶋監督も「きょうは何もありません。お好きなように書いてください」と肩を落とした。

 3日後の9日、首位広島との直接対決が札幌円山球場で行われた。この試合で巨人打線は2回二死から怒とうの9連続安打7得点。エースの斎藤雅樹が5回までに6失点KOとなり、10対8で辛うじて逃げ切った試合だったが、のち、「ここがメークドラマの起点だった」と振り返る選手、関係者は多い。

 7月14日、松井秀喜が20号。16日の中日戦(東京ドーム)を前に、長嶋監督は報道陣へ「松井が40本を打てばメークドラマが実現します」と言った。長嶋監督がいつからメークドラマと言い出したのかは分からないが、世間的な披露は、このときではないか。

 この時点で巨人は3位、首位には7ゲーム差だったが、以後、予言どおり、松井がホームランを打った試合の不敗神話が生まれ、7月30日には首位に4ゲーム差。長嶋監督が、ことあるごとに「メークドラマ」を連呼した時期だ(また言ってるとは思った記者も多かったようだが……)。

 8月に入ると、さらに加速し、20日には首位に立った。
 ここが1の誤解。11.5を終盤までに必死に詰めたわけではなく、オールスターブレークもあったので、実質1カ月強、30試合目での逆転劇だった。

 このときは1日天下に終わったが、その後、首位広島に離されることなく、中日と3強態勢に。9月18日に首位を奪い返すと、そのまま優勝に突っ走った。

 誤解その2だが、優勝決定は最終戦ではなく、129試合目の10月6日の中日戦(ナゴヤ)だ。当時は130試合制だったが、最後の1試合も中日戦で、こちらは東京ドームだった。
 最終戦と誤解する人が多いのは、94年の「10.8」と舞台が同じナゴヤ球場というのもあるだろう。

 ここで誤解その3。
 この時点のマジック対象は広島ではなく中日。広島は9月15日から3勝11敗で3位まで落ちていた。△と書いたのは、最後に失速しただけで、この年の巨人のライバルが、広島であったことは間違いなかったからだ。
 
 優勝決定試合は、後半戦を支えたリリーフ陣への長嶋監督のご褒美のようなものだった。先発の宮本和知のあと、木田優夫河野博文水野雄仁とつなぎ、胴上げ投手は川口。試合前、「最後はお前に任す」と川口に伝えていたらしい。

 そうだ。誤解と言えば、これが最大か。
「メークドラマ」は、いわゆる和製英語で、「長嶋語」のように言われていたが、実際には、それが分かっていながら「響きがいいから印象に残る」と使い続けていたという。

 さすが長嶋さん。

写真=BBM

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