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廣岡達朗コラム

佐々木朗希の登板回避に私は反対である/廣岡達朗コラム

 

ダルビッシュには同意できない


大船渡高・佐々木朗希


 大船渡高の佐々木朗希投手が岩手大会決勝での登板を回避したことが、物議を醸した。私に言わせれば(國保陽平)監督は何も分かっていない。

 高校野球は甲子園だけではない、そういう意見もあったが、私の考えは違う。甲子園があって初めて高校の野球部というのは存在しているのではないか。越境入学にしても甲子園に出るためだ。高野連は、それを許している。ルールで禁じていないのだから、いいじゃないかと。越境入学するなら家族も一緒に引っ越せと言いたい。越境入学の是非はここでは置いておくとして、夏の甲子園に行くために球児たちは懸命に練習をやっていると、われわれは思っている。

 甲子園は夢だ。球児だけではない。選手の親兄弟、地元の夢がかかっている。その夢にあと一歩のところまでたどり着きながらチャンスを手放した。これ以上投げさせたら故障するかもしれない? 故障というのは、投げ方が悪いか、登板過多でアフターケアができていない場合に生じる。投げ方が悪かったら160キロなど投げられない。

 実際に投げさせてみて、「監督、少しおかしいのですが」と言ってマウンドを降りれば誰も文句は言わなかった。百歩譲って事を穏便に済ませようとすれば、「校長、野球部長、本人と話し合ったところ、本人は出たいと思っているのですが、状態が悪いので休ませました」と表向き発表すればよかった。そこを佐々木に「投げたい気持ちはもちろんあった。そこも監督の判断」と大人の発言をさせてしまうのは、間違っている。

 大谷翔平が「高校野球は甲子園へ行くために地方大会がある」と言っていたのは正しい。一方、「監督の英断だった」というダルビッシュ(ダルビッシュ有)には同意できない。

 メジャー・リーガーを中心に、いまの選手は、手術をすれば治ると思っている。私に言わせれば、治るのではない。人間が治すのだ。たとえば睡眠。寝ている間は痛みを感じない。それは無になってエネルギーを吸収しているからだ。こうした自然治癒力というのを人間は持っているのに、気持ちが消極的になったら、その力をもらえないのだ。

 現実に、連投して甲子園に行った投手が故障しているだろうか。故障する年齢ではない。そういうところを指導者が分かっていないため、“たられば”でマイナス思考に陥って、もしケガをしたらこの子の人生が……と考えてしまう。結果、決勝戦で投げさせないという選択をした。國保監督はもっと勉強すべきだ。

物事の本質を考えるべき


 アメリカにおける100球理論は、少年野球からメジャーまで統一したルールの下に成り立っている。指導者は、投げさせたい気持ちを抑えて体が大人になるまでは大事に扱う。45球を放って1日休ませたら回復するというのが原理原則なのだ。そこを監督もスポンサーも全部納得している。投げさせて負けが込んだら即クビだ。だから100球以上、投げさせないのだ。

 日本はそれをマネするが、意味合いがまるで違う。なぜ球数制限を設けるのかということを、情緒に流されて、きちんと説明できる人間がいない。アメリカ流の、自分たちに都合のいいところだけつまんでいる。それをアナウンサーが意味も分からずに100球まであと何球と実況する。日本は、うわべだけのモノマネではなく、物事の本質を考えなければいけない。

 いずれにしても佐々木の問題はいろんな要素を含んでいて面白い。賛否両論、自由に言ったらいいのだ。

『週刊ベースボール』2019年8月19&26日号(8月7日発売)より

廣岡達朗(ひろおか・たつろう)
1932年2月9日生まれ。広島県出身。呉三津田高、早大を経て54年に巨人入団。大型遊撃手として新人王に輝くなど活躍。66年に引退。広島、ヤクルトのコーチを経て76年シーズン途中にヤクルト監督に就任。78年、球団初のリーグ制覇、日本一に導く。82年の西武監督就任1年目から2年連続日本一。4年間で3度優勝という偉業を残し85年限りで退団。92年野球殿堂入り。

写真=BBM

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