週刊ベースボールONLINE

有力プレーヤーCLOSE UP 神宮を沸かす早慶逸材

徳山壮磨(早大・投手)×岩本久重(早大・捕手) WASEDAバッテリー対談 コンビ7年目の集大成

 

昨秋、早大は10季ぶりに東京六大学リーグ戦を制した。名門復活Vの原動力となったのは、主将兼エースの早川隆久(現楽天)だった。大黒柱が卒業し、新チームで命運を握るのは、ドラフト1位を目指す2人の4年生だ。甲子園と神宮で1球の怖さを知るバッテリーが、最終学年を展望する。
取材・文=佐伯要 写真=大泉謙也

大学3年間、汗を流した早大の活動拠点である安部球場にて撮影。2人は同じユニフォームを着て7年目、公私とも常に一緒に行動している


取材は早大野球部合宿所の安部寮の応接室で行った。お互いすべてを知っており、まさしく「親友」の仲。本音トークで最終学年の抱負を語る。

──いよいよドラフトイヤーです。

岩本 勝負の年。将来に大きく関わる1年になると思います。

徳山 時間があるようで、あっという間だと思う。1日1日を大切に過ごしたい。ドラフトでは1位指名にこだわっています。早川さん(早川隆久、現楽天)のように、1位で競合される投手になりたいですね。

岩本 自分もドラフト1位を目指したい。プロの基準にこだわりながら、意識をワンランクもツーランクも上げてやっていきたい。それが結果としてチームへの貢献につながると思います。進化した姿を見せて、二人でプロへ行けたらいいですね。

徳山 早川さんは相手の分析からウォーミングアップまで、登板日までの1週間のルーティンを細かく決めていた。私生活でも野球でも、あそこまで神経を使わないといけないんだと感じました。追いつき、追い越せるようにやっていきたい。

岩本 早川さんは事前に対戦相手のビデオを何時間も繰り返し見て、入念にゲームプランを立てて試合に臨んでいた。いい球が投げられるのに加えて、あれだけ準備したから、結果が出た。あれこそが、エースの姿。

徳山 投手として、早川さんみたいに、打者に「敵(かなわ)ない」と思わせる投球をしたいな。

昨秋、6勝(0敗)、防御率0.39と圧倒した早川隆久[楽天ドラフト1位]。好投をアシストしたのは、正捕手だった[写真=田中慎一郎]


岩本 1年間バッテリーを組ませてもらって、いい経験になった。初めはサインが合わずに早川さんがプレートを外してしまうこともあって、パニックになっていたけど(笑)。

徳山 僕は久重のサインに首を振ることはほとんどないな。自分の持ち味をうまく引き出してくれている。久重のサインを信じて投げるだけ。

岩本 早川さんのように神宮のマウンドで躍動してほしいな。そういう徳山をリードしたい。

徳山 まだまだなので、レベルアップしないといけないな。

慶大主将・福井の存在


──二人の出会いは?

徳山 高校の入試のとき、席が隣同士でした。左に座った久重を見て、「U-15代表の岩本か、メッチャでかいなあ。一人だけ大人が交じっているみたいや」と(笑)。

岩本 180センチで90キロあったから。

徳山 自分は178センチ62キロくらいと細くて、岩本と違って無名だった。

岩本 ちょっと話して、「あ、ピッチャーなんや」と知った。

徳山 あのころは今みたいになるとは想像がつかなかったな。高校の2年半があったからこそ、今がある。

岩本 生駒の山奥(大阪府東大阪市)にグラウンドと寮があって、授業以外は野球に集中する毎日。携帯電話の所持禁止などいろいろな制限があって、誘惑さえ感じられない環境(笑)。入学当初は「野球ができればいい」と考えていたけど、西谷(西谷浩一)先生から「野球は人間がするスポーツだから、人間力を高めないといい選手にはなれない」と教わって、考え方や取り組み方が変わった。

徳山 (うなずいて)人としての考え方、行動。西谷先生はミーティングで、野球以外のことを話していたな。

岩本 リーグ戦では、大阪桐蔭OBの打者を抑えるのは一苦労。いやらしい打者、怖い打者ばかりで。

徳山 分かる! みんな、各大学の中心選手で「その選手を抑えないと、勝てない」という存在になっている。

岩本 高校時代の考え方、取り組み方を大学でも続けているからこそ、結果が出ているんだろうな。

──慶大にいる同級生・福井章吾捕手(主将)は、どんな存在ですか。

岩本 優勝した3年春のセンバツで、僕は大会直前に左手有鈎骨を骨折して、記録員を務めました。代わりに福井がマスクをかぶった。復帰後も福井に正捕手の座を奪われた形で、僕は試合に出るために外野手兼控え捕手としてプレーしました。悔しかったです。副将だったので、主将の福井を助けるところでいろいろな気持ちがあったのは事実です。捕手はチームの核になるポジション。自分には欠けているものがありました。

徳山 福井には春に優勝できたという実績があったし、主将でもあったから、夏もそのまま正捕手で……という雰囲気がチームにあった。肩の強さをはじめプレーそのもののポテンシャルは久重のほうが上でしたけど、福井はリーダーシップとコミュニケーション能力が高かったですね。

岩本 その部分で福井から学んだことが、大学で生きています。福井とは今でも電話やSNSなどで連絡を取り合っていて、お互いにプラスになる存在です。

徳山 久重は大学で捕手としての能力がグッと上がったと思うよ。あとは、打撃のほうを頼む!(笑)

岩本 (昨秋は打率.182、4打点)いやあ、そのとおりやな(笑)。

徳山 福井とはこの1年間、刺激し合いながらやっていければいいな。

岩本 早慶戦でお互いが捕手としてプレーするのは楽しいし、ワクワクする。お互いに最上級生として戦う早慶戦で勝つのが大事。この2年間は慶大にいい勝ち方をしているけど、自分たちの代で負けたら、負け。

徳山 (大きくうなずく)福井には打たれたくない。必死で投げるよ。

岩本 二人で、絶対に抑えたいな。

再び味わう勝負の厳しさ


10季ぶり46度目のリーグ優勝を決めた昨秋の早大2回戦では、4番手として2回無失点。逆転勝利を手繰り寄せる好投だった[写真=菅原淳]


──昨秋の早慶戦では、1点を追う9回表二死から逆転勝ちして、10季ぶりのリーグ優勝を決めました。

徳山 9回を迎えても、不思議と負ける気はしなかったんです。二死から熊田任洋(新2年・東邦高)が安打で出塁し「逆転できる」という確信がありました。蛭間拓哉(新3年・浦和学院高)が逆転2ランを打ってくれて、「思いどおりになった」と。

岩本 9回裏の守備で早川さんの球を受けたい、みんなでマウンドに集まりたい──ただ、その一心でした。

徳山 試合終了まで気を抜いてはいけないと、再確認できたな。

岩本 たった1球で試合が決まる怖さ。「あと一人で優勝」という場面では、どうしても早くアウトが欲しいと焦ってしまう。そういうときの心の持ち方は勉強になった。

3年夏の甲子園3回戦[対仙台育英高]では1点リードの9回裏にサヨナラ負け(1対2)。徳山は先発完投した2年生・柿木蓮[現日本ハム]を労った(右は青学大で主将の泉口友汰)。右翼手として途中出場した岩本も、後方で泣きじゃくる。右端は主将・福井章吾=慶大主将[写真=高原由佳]


──高校3年夏の甲子園3回戦では仙台育英高(宮城)に1点リードの9回に二死から逆転され、サヨナラ負けを経験していますね。

徳山 あの試合は(登板機会がなく)ベンチから見ていたのですが、「悔しい」の一言でした。

岩本 あの負けは、鮮明に覚えています。悔しさはいまでも消えることがなく、持ち続けていますね。

徳山 あと一死からの逆転負けと、逆転勝ち。両方の経験ができているのは、自分たちにとってプラスだと思う。今後に生かしたいですね。

──大学3年間を振り返ると?

徳山 まだまだ勝ち星が少ない(5勝)。2年秋から先発するようになって、昨秋が一番苦しかった。開幕前に右肩に違和感を覚えて、調整がうまくいかないままリーグ戦に入ってしまって……。力不足を感じました。

岩本 2年秋の途中から出場機会が回って来て、そこで結果が出て自信になりました。3年生の1年間は「四番・捕手」でしたが、打つほうが全然ダメでした。打順はあまり意識しないようにしていますが、チャンスで打てないと、やはり悔しいです。

徳山 久重は打撃で結果が出なかった分、「守備でやってやる」という姿が見られた。捕手としての自覚が出てきて、「さずがやな」と思った。

岩本 打撃でダメなら守備で頑張る。カラ元気でもいいから声を出す。四番が弱いところを見せると、チームは沈んでいくから。まあ、徳山には見せてもいいかなと思っているけど。

徳山 夜間に寮の屋上に電気をつけてバットを振っている選手がいて、「誰やろ?」と思って見たら久重だった。「頑張ってるな」と思った。

岩本 徳山は自分以上にやっているから、「オレもやらなきゃ」と刺激をもらっているよ。

「11」と「6」の重圧


──4年生になり、徳山投手はワセダの右のエースナンバー「11」を、岩本選手は信頼できる正捕手を示す背番号「6」を背負います。

徳山 「11」を着けたくて、やってきた。「いよいよだ」という気持ちです。重みを背負って投げたいですね。自分がエースとして1、3回戦で投げて完封、完投する投手にならないといけない。それは目標というよりも、やらなくてはいけないこと。

岩本 みんなに頼られて、結果を出すのがエース。「11」はそれくらいやって当たり前だと思う。「6」もそう。ワセダの「6」は誰でも着けられるものではない。責任感が生まれています。「6」にふさわしい成績を残せるかどうか。副将でもあるので、自分のことだけではなく、周りを見て、引っ張っていきたいですね。

徳山 二人がチームの中心としてやっていかないと勝てないので、自覚を持ってプレーしたいですね。

──ラストイヤーの目標は?

徳山 春、秋ともリーグ優勝して3連覇を達成したい。昨年の4年生が強いワセダを作ってくれたので、自分たちがつないで、後輩にいい影響を与えたいですね。

岩本 春はリーグ優勝して、日本一になるのが目標。そこにチームで一番、貢献したいです。

徳山 個人としては、投げた試合は全勝して、最優秀防御率のタイトルを獲(と)りたい。早川さんに匹敵する数字を残さないと、高い評価は得られないと思っています。春までに理想とするフォームを完成させたい。そうすれば、自ずと直球の質が上がる。あとはスライダーとチェンジアップの完成度を高めて、大学レベルではなく、プロや社会人の打者に通用する球にしたいですね。

岩本 3冠王を目指します。長打と打率の両立は難しい。首位打者を獲りたいけど、だからと言って、当てにいくスイングはしたくない。理想は古田敦也さん(元ヤクルト)のような「打てる捕手」。冬の間に死に物狂いでバットを振って、自分の打撃を確立したいと思います。

徳山 本当に、この1年が勝負やな。

岩本 最後は笑って終わりたいな。早慶戦で慶應に勝ってリーグ優勝して、マウンドで徳山と抱き合う。そのイメージはできているよ。

徳山 早慶戦では1戦目で完投して、2戦目は救援で、昨秋の早川さんみたいに胴上げ投手になりたいな。あれは、ドラマチック過ぎたけど(笑)。

徳山は今春から早大の右のエース番号である「11」を着け、岩本は絶対的な信頼を得た正捕手しか背負えない伝統の「6」が託される。文字通り、2人が2021年のキーマンだ[写真=大泉謙也]


PROFILE
とくやま・そうま●1999年6月6日生まれ。兵庫県出身。183cm82kg。右投右打。高岡小3年時から今宿ビクトリーズでソフトボールを始め、高丘中ではヤング・兵庫夢前クラブに在籍。大阪桐蔭高では2年秋からエースで3年春のセンバツ甲子園では優勝。同夏は3回戦進出。侍ジャパンU-18代表で出場したU-18W杯(カナダ)は3位(3試合登板で2勝を挙げ、最高勝率投手)。早大では1年春から登板し、3年春は0.00で最優秀防御率を初受賞。東京六大学リーグ通算27試合登板、5勝2敗、防御率1.59。最速151キロ。変化球はスライダー、チェンジアップ

いわもと・ひさしげ●1999年4月21日生まれ。滋賀県出身。181cm82kg。右投右打。富士見小2年時から富士見スポーツ少年団で野球を始め、捕手。北大路中では大津北シニアに在籍し、侍ジャパンU-15代表でU-15W杯(メキシコ)7位。大阪桐蔭高では2年秋から正捕手で3年春のセンバツ優勝は大会前の故障(左手有鈎骨骨折)のため記録員。同夏の甲子園は外野手兼捕手で3回戦進出。高校通算23本塁打。早大では1年春から出場し、2年秋の途中から正捕手となり、3年秋はリーグ優勝に貢献。東京六大学リーグ通算32試合、打率.250、1本塁打、14打点

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング