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森翔平(三菱重工West・投手) 気迫を前面にうなりを上げるストレート

 

関大4年時は11月の明治神宮大会準優勝に貢献。完成度の高い左腕は社会人1年目で、自チームの都市対抗出場こそ逃したが、貴重な経験を積んだ。ドラフト解禁となる2年目に、勝負をかけていく。
取材・文=小中翔太 写真=毛受亮介

全国に4チームあった三菱重工の再編・統合に新たに誕生した三菱重工West。チームの「顔」として勝利へ導いていく


 新年最初の練習でミーティング、アップ後に行われた1キロ走の1本目、社会人2年目のシーズンに臨む森翔平はロケットスタートで先陣を切って、まさしく、ドラフトイヤーに弾みをつけた。

 三菱重工グループの運動部再編により4チームあった野球部は2チームに統合、この日(1月12日)が三菱重工Westとしての始動日だった。チームが掲げるスローガンは「一致団結」と「1にこだわる」の2つ。「1」にはチーム一丸の1、日本一の1、1球、1歩目、1振り目を大事にという意味が込められている。中心を担うであろう左腕が、まずはチーム方針を体現したわけだ。

 社会人屈指の好左腕は、昨年の都市対抗近畿二次予選で好投するも、チームは敗退。東京ドームの本戦には、NTT西日本の補強選手として出場した。大舞台での登板機会は東芝との1回戦の9回に訪れた。6点リードという比較的楽な場面だったが、関大4年時に出場した明治神宮大会より緊張したという。「東京ドームに入るのが初めてで、アップアップになりました」と3安打を浴びた(無失点)。先発したホンダ鈴鹿との2回戦でも6安打を浴び2回途中2失点で降板。

「シンプルに実力のなさを感じて、予選が終わってからうまく調整できませんでした。それも、僕のコンディション不足なんですけれど、探り探りやっていて、調整の仕方が後手後手になっていたかなと思います。ストレートを軸にしたいと思っていますが、都市対抗では散々、真っすぐを打たれたので、もっと精度を高めていかないといけないと思いました」

 ほろ苦い都市対抗デビューを経験した森はこの冬、体重アップと真っすぐの質の向上に取り組んでいる。柔軟性と下半身の使い方を意識し、回転数も都市対抗で計測した2200回転からのアップを目指す。最速149キロ。あと1キロ、大台の150キロのへのこだわりはあるが、あくまでも個人の欲に過ぎない。スピードよりも、マウンドでの結果を追い求めたいという。

元プロ捕手が持つ確かな「分析力」


最速149キロ。大台を間近にしているが、球速表示よりも、体感を意識している


 都市対抗では真価を発揮できなかったが、社会人1年目を通じて、確固たる手応えをつかんだ。昨年7月、阪神二軍とのプロアマ交流戦で4回無安打無失点に抑えた。打者13人に対して4奪三振、四死球0、許した走者は味方の失策による1人だけと、ほぼ完璧な内容だった。「真っすぐは結構、ファウルを取れていた。あのときのまっすぐの感覚は良かったです」。自己最速にあと1キロに迫る148キロを計測。結果と内容が伴う快投だった。

 好調時を知るだけに、チーム関係者の評価は高い。マスクをかぶる主将・森山誠は捕手目線で森をこう見ている。

「基本的に良い真っすぐ持っていますし、変化球もキレがある。走者を背負い、ピンチになったときのギアの上がり方は、ほかの投手と違います。同じ真っすぐでも、バッターに向かう気持ちが、すべてボールに乗ってくるような感じです。球速は変わらなくてもボールの威圧感、バッターに対しての圧がすごいなと思います」

 山口敏弘監督の期待も大きい。

「昨年、新人で数多くの舞台を踏めたというのがあるんですけど、潜在能力という部分では左で、スピードボールもありますし、(今年は)彼が中心になるのかなと思っています。一番評価しているのは、球に力があるところです。やはり、バッターにとって最大の脅威は速球です。それを投げられる投手ですし、ハートも強くて、練習も人一倍します。おそらく、野手も彼がマウンドに上がったら、安心していられると思います」

 コーチにも恵まれる。プロで17年のキャリアを持つ小田幸平氏(元巨人ほか)がヘッドコーチとしてチームに加わった。前身の三菱重工神戸出身の元捕手であり、同社のスリーダイヤの誇りを植え付けている。

「森にはかなり、期待しています。良い素材を持っているんですけど、それをうまく実戦で表現できない部分があるので、それを一緒に協力してやっていきたい」

 小田ヘッドコーチは現役時代の大半を2番手捕手として過ごし、チームを縁の下から支えた。立場的に頭に入れておかなければならない情報は膨大な量になっていたことから、分析力に優れる。詳しくは明かさなかったが、都市対抗で打たれた原因も見当はついているという。頼もしい新コーチに、森は「プロを経験している方なので、1〜9回の考え方とか、配球の面から聞けるところは聞きたいです」と、貪欲に知識を吸収するつもりだ。双方が共有する「勝てるピッチャー」

 大卒2年目のドラフトイヤー、人生を左右する1年へ、報道陣の前で言った。

「試合で僕が投げて勝ち上がれば、アピールにつながると思う。アピールしていくというよりは、試合に勝たないと意味ないので、そちらのほうを考えています」

 控えめに話したが、本来の性格は強気。マウンドではひょう変する。昨年の都市対抗予選ではこんな一コマがあった。両チーム無得点の緊迫した展開が続く中、森がベンチでボソッとつぶやいた。

「1点でいいので、取ってくれ……」

 もちろん野手へ向けたネガティブな言葉ではなく、1点あれば勝たせるからという、強い決意の表れだ。どんなに実力があっても、入社1年目のルーキーが口にするのは、並大抵のことではない。実は胸の内では、ドラフトについても「プロに行きたい」ではなく「プロに『上位で』行きたい」との思いを秘めている。

 あこがれの選手には同じ左腕のDeNA今永昇太の名前を挙げた。「ストレートがすごいじゃないですか。左で勝てるピッチャーですし、あのようなピッチングをしたい」。偶然にも山口監督も、エース・森の役割として「勝てるピッチャー」と言った。昨年の都市対抗近畿二次予選。第4代表決定トーナメント3回戦(対日本生命)で1点リードの9回裏にサヨナラ負けを喫し、東京ドーム切符を逃した。「昨年、予選では良い投球をしながら、最後の最後に打たれてしまった。反省材料として、一皮むけて、勝てるピッチャーになってもらいたい」。

 高い奪三振率と、完投能力は大きな魅力だ。そして最大の武器は、気迫がこもり、うなりを上げるようなストレートだ。チーム発足1年目で日本一を目指す、三菱重工Westの顔であることは間違いない。冬場の成果を発揮する場となる、春の公式戦が楽しみでならない。

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