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新戦力インタビュー ―移籍選手―

中日・福留孝介インタビュー 飽くなき向上心 「代打でいいなんて全然思っていない。レギュラーを狙うのが当たり前でしょう」

 

阪神での現役生活は8年にも及んだが、最後は戦力外を言い渡されて甲子園を去った。43歳の現役最年長選手に手を差しのべたのは、古巣の中日。14年ぶりにつながった両者の縁。チャンスを与えてくれたチームの勝利のために、今シーズンは自分のすべてを捧げる覚悟だ。
取材・構成=牧野正 写真=榎本郁也、中島奈津子


野球ができる喜び


 ユニフォームを脱ぐ覚悟はできていた。いくら望んでも獲(と)ってくれる球団がなければ打席に立つことはできない。4月で44歳を迎える年齢を考えれば、阪神がそうしたように、戦力外と見なされても仕方がないのかもしれない。だが、できればもう一度、チャンスが欲しかった。勝負したかった。そんな思いが届いたかのように中日から声が掛かった。年俸は1億円も下がったが(推定)、そんなことよりもまた野球ができる喜びのほうが大きかった。

──14年ぶりの中日復帰ですね。少し時間がたちましたが、あらためて入団が決まったときの気持ちを教えてください。

福留 一番はホッとしました。また一年、勝負できるという意味でね。そういう場所をもらえたことに自分の中でホッとしたというか、感謝の気持ちが強かったです。

──どの球団からも声が掛からなかったら、どうするつもりでしたか。

福留 そのときはユニフォームを脱ごうと決めていました。妻ともそう話していましたし、そうなったらそれもまた自分の野球人生だったということで受け入れようと。

──韓国、台湾など、海外で野球を続ける選択肢は?

福留 そこまでの気持ちはなかったですね。とにかく日本でもう一度、勝負したいという気持ちでした。

──そこまで勝負したい、現役にこだわった理由は何ですか。

福留 やっぱり昨年、自分の中で消化不良だった部分がありましたから。ずっと野球一筋の生活を続けてきて、コロナ禍という特別なシーズンで結果が出ず、このまま現役を終えてしまうのは、どうにも納得できない部分がありました。

──昨年の成績は決して満足のいくものではなかったと思いますが、そうなってしまったのはコロナ禍も大きかったですか。

福留 一番は自分の力のなさ。ただ、正直に言えば、開幕に向けて徐々に体を仕上げていったのに、開幕が延期、延期となって、そこからまた体をつくり直すということが難しかったですね。体の状態が落ちたというより、ゼロに戻ってしまったという感覚でしたから。

──昨年の不振の要因は技術、体力による衰えではなかったと。

福留 それでも自分の中で突貫工事をして開幕を迎えましたが、打席に入っても自分の感覚というものをつかめなくて、その感覚を探しているうちにシーズンが終わってしまったという感じでした。

──二軍の試合にも出場していたと思いますが(12試合)、現役最年長選手としてどんな気持ちでしたか。

福留 今の自分に必要だと思ったから出ただけのこと。自分の感覚を取り戻すために何が最善なのかと言えば、それは試合に出て少しでも多く打席に立つことでしたから。最年長選手がファームの試合にとか、そういう変なプライドみたいなものは特になかった。

──次第にスタメンを外されるようになり、代打での出番が増えていきましたが、実戦から遠ざかっていく不安、怖さと言うものはありましたか。

福留 練習でどれだけうまく打てたとしても、試合で同じように打てるかと言えば、これはまた別で、打席の中で勝負しないといけない。それが(代打の)1打席でとなったとき、自分が何をしているのか、何をしようとしているのか分からないまま終わってしまうこともありました。不安や怖さというより、こうじゃない、これじゃないと打席の中で、ずっと自分の感覚を探し続けていました。

──そこで「もう潮時だな」とは思わなかったわけですね。年齢が重くのしかかることはなかったと。

福留 まだ動けるし、走れましたから。足が動くうちは大丈夫かなと。打撃もそうですけど、守備や走塁面でも、まだまだやれる。そう思えるうちは(現役を)あきらめたくない。自分から引退を考えたことは一度もなかったです。

打つだけでなく、外野守備にもまだ自信はある


──ルーキーだったころ、自分が40歳を過ぎてもプレーしていると思っていましたか。

福留 思ってないですよ(笑)。そこまでやれたらすごいな、夢だなと思っていましたけど……気づいたらそうなっていました。でもたまに思いますよ。40も過ぎて、何でこんなにしんどいことをやっているんだろうって(笑)。

──ボロボロになるまで現役を続けるか、余力を残して身を引くか。福留選手は後者だと思っていました。

福留 たぶんもう無理だと少しでも感じていたら、そうしたと思います。でもまだやれるし、こうしたらもっと打てる、うまくなれる、と向上心もある。そういう気持ちがなくなったら、もう終わりというか、スパッとやめると思います。

中日と阪神の違い


 逆指名制度で福留が中日に入団したのは99年。1年目から優勝の喜びを味わい、02年と06年には首位打者に輝くまで成長を遂げた。落合博満監督の下でも主力打者として2度の優勝を経験したが、07年を最後にメジャーへ挑戦。かつて常勝軍団と呼ばれたチームは、福留が日本に戻ってきた13年からBクラスの常連となった。敵として戦っていた福留の眼に、中日はどう映っていたのか。そして与田剛監督3年目の今年、10年ぶりの優勝をつかみ取るためには何が必要なのか。

──メジャーから戻ってきたとき、中日から声は掛かりませんでしたか。

福留 なかったと言えばなかったですかね(笑)。阪神からオファーがあり、入団が決まったということです。

──その年(13年)から中日はBクラス入りが続き、昨年ようやく3位に入って8年ぶりのAクラスとなりました。福留選手が阪神ではなく中日に入団していたら……。

福留 いや、それはどうなったか分かりませんよ。ただ、ちょうど選手の変わり目ではありましたよね。

──阪神時代、中日をどのように見ていましたか。

福留 いい選手が多いなと思っていましたし、それぞれが状況に応じ、もう少し考えられるようになったら、チームとして成長していけるだろうなと思っていました。でも最近は若い選手がどんどん出てきて、その中でも大島(大島洋平)や周平(高橋周平)といった選手が柱となってきているので、チーム全体としても力がついてきているなと思います。投手陣もしっかりしていますしね。

──本拠地が広く、投手陣を中心としたチーム、戦い方という点で、中日と阪神は似ていませんか。

福留 でもチームカラーは全然違いますね。中に入ってみるとよく分かります。僕がいたころの中日は、足を使い、しっかりと守りを固め、そこからどうやって得点していくかという野球でした。だからこそ強かったですけど、阪神はどちらかと言うとイケイケの野球。1点を取る、守るというよりは、ファンの声援の後押しを受けて打って勝って球場が盛り上がっていくという……甲子園の雰囲気は簡単には慣れないし、すごい場所ですよ。そこで8年もプレーできたことは本当にいい勉強になりました。ファンで言えば中日は家族的というか、温かい印象はありますね。阪神は良ければ神様のように扱ってくれますけど、悪いとそれこそボロクソで(笑)。とにかくお祭り好きというイメージがあります。

──中日の大きな課題として貧打線が挙がります。昨年の70本塁打、429得点は12球団ワースト。福留選手を獲得した理由の一つですが。

福留 そこは考え方の問題でしょう。ホームランは打てる打者に任せればいいし、長打が少ないというのなら単打を長打にする野球をすればいい。率は残しているわけですから。ホームラン、長打の数を増やすことばかり考えるのではなく、勝利に必要な1点をどう奪うか。昔の中日はそういう野球が得意だったはずですから。

──福留選手の役割は「代打の切り札」の声が多いですが、そもそも代打でいいとは……。

福留 思ってないですよ。最初からグラウンドに立っていたいと思うし、チャンスがあればレギュラーを獲ってやろうと思っています。もちろん代打で出場することになれば、それは昨年の代打の経験を生かしたいですね。

──最年長選手として“見られている”という視線は感じますか。

福留 どう見られているかは分かりませんが、最年長の自分がやっていることを見てどう思うか。こっちが教える教えないではなく、見ているほうが何を感じるかですよね。聞かれれば答えるし、でもそれがその選手にとって正解かどうかは分からない。それがヒントや何かのきっかけになってくれればうれしいですけどね。

キャンプでのロングティー。若手には負けない飛距離を誇る


──背番号9についての感想は。

福留 球団から(ひとケタで)気を遣ってもらったのかなと。プレーできれば何番でもよかったです。何番でもありがたくいただいたと思います。

──最後に今年の目標を聞かせてください。日本通算では1909安打と2000安打が近づいています。

福留 それも頑張れる要因、目安の一つかもしれませんが、自分の記録に関しての目標というのはないです。こうして獲ってもらったことに感謝していますから、とにかくチームの勝利のためにどれだけ貢献できるか。そのために自分に何ができるか、はまるか、そんな思いです。

【福留孝介はこんな選手】弱音を吐かず、前に進む男


 中日OBでもある山本昌山崎武司の両氏が「とにかく孝介の体は頑丈だから」と口をそろえ、今年の活躍に太鼓判を押していた。インタビューでも答えているが、技術、体力の衰えを感じることがないから“引退”の文字が浮かばないのだ。現時点で外野のレギュラーが確定しているのはセンターの大島洋平のみ。空いている両翼を福留が狙わないわけがない。たとえそこから外れたとしても、試合終盤の「代打・福留」は相手投手には脅威だろう。インタビュー後に「最年長と言われるのは正直イヤ?」という質問には「別に。気にしていないし、事実なんで」と笑っていた。すべてを受け入れて前に進む。そのスタイルはルーキー時代から少しも変わっていない。(TM)


[予想起用]
「七番・左翼」または「代打の切り札」

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