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2021ドラフト候補クローズアップ スカウト熱視線のプロ注目プレーヤー

山下輝(法大・投手)ベールを脱いだ151キロ左腕の本気度

 

昨年のドラフト1位入札で4球団が競合した楽天早川隆久(早大)の高校の後輩である。法大では故障を経て、3年春にリーグ戦デビュー。151キロサウスポーは大器としてNPBスカウト注目の存在だ。
取材・文=岡本朋祐 写真=BBM

8月開催の春季リーグ戦で自己最速151キロを計測。3年春にして完全復調を遂げ、最終学年はフル回転を誓っている


 1学年上の早大・早川隆久(現楽天)と比較されるのは、避けて通れない道である。木更津総合高の先輩は甲子園に3回出場し、3年時の2016年春、夏はともに8強進出。U-18高校日本代表でもプレーした。打撃を買われていた山下は一塁手で出場。2年秋から背番号1を継いでいる。

「重圧でした。早川さんはスターでしたからね……。それ以上にならないといけないと思って、取り組んだつもりです。野球人生で最も印象に残っているのが、3年夏の県大会決勝(対習志野高)。相手校のブラバンは地響きのようにすさまじかった。連投で精神的にもきつかったんですが、9回を投げ切ることができた。甲子園は初戦敗退でしたが、最低限の結果を残すことができ、一安心しました」

 最速149キロ。早川の背中を追うように、U-18高校日本代表でもプレー。大型左腕として注目され、木更津総合高への進学もプロ入りを見据えての選択だったが……。

「早川さんが大学進学を志望した時点で無理だな、と。五島(五島卓道)監督、青山(青山茂雄)部長とも相談した上で『プロはまだ、早い』と法政大学を志望しました。大学入学後も早川さんという大きな存在が、常に自分の身近にありました。昨年、ドラフト1位で指名され、自分も多少なりとも期待されている。後に続く者として、しっかり結果を残さないといけない」

約1年のリハビリ経て3年春に神宮デビュー


 大学ではどん底を経験している。1年春、東大とのフレッシュリーグ(2年生以下の対抗戦)で先発を任されるも3回途中、とんでもない違和感に襲われた。

「左ヒジが飛んだような感覚でした。力が入らない……。でも、そのまま頑張って5回(無失点)まで投げ切ったところで、降板をお願いしました。ショックでしたし正直、終わったなと思いました」

 PRP療法(自己多血小板血漿注入療法)による自己治癒を目指したが好転せず、18年12月にトミー・ジョン手術を受けた。キャッチボール再開は7カ月後、投球練習ができたのは秋から冬にかけて。気の遠くなるようなリハビリ生活だった。

「術後はヒジが動かず、自分の左腕ではなかった。お先、真っ暗……です。ゼロからのスタートでした」。そんな状況下で支えとなったのは、昨年12月まで法大を率いた青木久典前監督の言葉だった。

「焦らず、ゆっくり治していこう、と。毎日のように、声を掛けていただきました。折れそうになった心をつなぎ止めてくれました。感謝しかありません」

 投げられない期間、山下は肉体改造に着手した。ケガをしない体をつくるため、今では「趣味」の域となったというウエート・トレーニングに没頭していた。

「成果が出るので、楽しいです。部位を分けて毎日。やらない日はありません」

 筋トレにはまるきっかけとなったのが、最速169キロを誇る左腕・チャップマン(現ヤンキース)の動画を見つけたからだ。「いずれはメジャーで投げたい」という夢がある山下は、現役MLB選手からの生の情報を、食い入るように吸収した。

 神宮デビューは再延期による8月開催となった昨春のリーグ戦(東大1回戦)だった。この試合で150キロの大台を突破すると、四番手で救援した早大1回戦では自己最速を151キロにまで伸ばし、リーグ戦初勝利。明大1回戦でも救援勝利を挙げている。7日間で5試合という過密日程の中で、4試合に救援し手応えを得た。秋もすべてリリーフで計4試合を投げた。

「開幕前からスロー調整で、青木前監督には、コンディションを見ながら起用していただきました。今年は、最終学年です。アピールをしないといけないですし、ガンガン投げていきたいと思っています」

トレーニングの成果で目指すは155キロ


 照準は春季リーグ戦だ。寒さが続く冬場は、マイペース調整。とはいえ、1月末からは2日に1回は100球を投げ、肩とヒジのスタミナを構築。1月に就任した法大・加藤重雄監督は1回戦の先発に右腕の主将・三浦銀二(4年・福岡大大濠高)、2回戦には山下の構想を思い描く。4年生には154キロ右腕・古屋敷匠眞(八戸工大一高)、146キロ左腕・平元銀次郎(広陵高)がおり、チーム内で刺激し合っている。

「1年春から投げている三浦は、日ごろの練習から、ランニングでも率先してメニューを消化している。心強い存在ですが、自分はそれ以上にやらないと。ただ、三浦はチーム全体を見ないといけないので、投手責任者である自分が、投手陣をまとめていきたい。大学卒業後の上のレベルでも、先発でやりたいと思っています。投げる試合は全部、勝ちたいです」

 新入生には木更津総合高から150キロ右腕・篠木健太郎と左腕・吉鶴翔瑛が法大に入部する。高校の後輩に限らず、下級生への指導も積極的に行っていく構えだ。

「聞いてくれれば、すべてを答えますし、有意義な1年にしてもらえればいいです」

 計画的かつ徹底したトレーニングにより、体重は2月末の段階で100キロの大台に乗せた。高校時代は86キロとやや細身のイメージがあったが、首回りも明らかに太くなっている。体重増がボールの力にもつながり昨春、早大・早川が計測した155キロを目指しているという。なお、早川は昨秋、チーム7勝のうち6勝を挙げ、10季ぶりのリーグ優勝の原動力となった。

「神宮で早稲田と対戦する中で、学ぶものが多かったです。昨年12月末、連絡を取り合い、木更津総合高のグラウンドへ一緒にあいさつへ行ったんですが、いろいろと勉強をさせていただきました」

 変化球はカーブ、スライダー、ツーシームがあるが、投球の幅を広げるため、一冬をかけて右打者の内角に食い込むカットボールと、落として空振りを奪うチェンジアップの習得に取り組んできた。

 気になる投手はドラフト上位候補に挙がる筑波大・佐藤隼輔(4年・仙台高)だ。

「2年時には大学ジャパンにも選ばれており、すごい選手だな、と。常々、チェックしています。まずはリーグ戦で投げて抑えて、結果を出した上でプロにつながればいいです。順位? 1位競合で指名されればベスト。早川さんに続きたい」

 偉大な先輩と比較されるのは承知の上。キレで勝負した早川に対して、山下はパワーピッチングで打者を翻弄していく。


PROFILE
やました・ひかる●1999年9月12日生まれ。千葉県出身。188cm95kg。左投左打。岩根小3年時から岩根フェニックスで野球を始める。岩根西中では軟式野球部に所属し、投手。3年時には千葉選抜(千葉ファイターズ)として全国KB野球秋季大会で優勝。木更津総合高では1年夏から一塁手のレギュラーで2年春、夏の甲子園でともに8強。2年秋からエースで、3年夏は甲子園1回戦敗退。侍ジャパンU-18代表で、U-18W杯では2試合に登板して1勝を挙げ、銅メダル。法大では3年春に初登板。東京六大学通算8試合、2勝1敗、防御率0.82

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