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【球団の未来を語る】ロッテオーナー代行兼球団社長・河合克美インタビュー・中編 ファンを惹きつける確かな道

 

描く理想の未来はいかなるものか──。直撃取材に答えてくれたのは、ロッテの河合克美オーナー代行兼球団社長だ。全社員の考えを聞くことから始め、新たな“球団理念”を今年3月に策定したロッテは、中長期的なビジョンを明確化させた。だからこそ新型コロナ禍に揺れる中で、再確認したことがあると言う。3回に分けてお送りするインタビューの中編。
取材・構成=鶴田成秀 写真=中島奈津子

常勝軍団となるために――。井口監督[左]への期待は大きい


試合こそが価値となる


──一朝一夕には常勝軍にはなれないからこそ、中長期的なビジョンに?

河合 はい。そもそも井口資仁監督就任の際に重光昭夫オーナーが監督にこう言ったんです。「5年以内には優勝できるチームを作ってください」と。

──井口監督就任の18年から5→4と順位を上げ、昨季は2位となりました。

河合 ただ、優勝争いをしたわけではありません。優勝争いは勝率.571でソフトバンクと同率首位に並んだところ(10月9日)までで以降は2位争い。今年、来年と、ここから先は絶えず優勝争いをするチームになっていかないといけません。それが球団全体の思いです。

──組織が1つとなって勝利を目指す。その意識を全員で共有していく、と。

河合 そういうことです。それはチームだけでなく、バックアップしている本部や営業もそう。営業だって看板であるチームが強ければ、セールスもしやすいんです。放映権で言えば『マリーンズの試合は面白い』となれば皆、見たくなります。そうなれば、絶えずファンにワクワクを届けられる。だからキャンプインのとき、選手、コーチ、全員を前に私はこう言いました。『AクラスでCSに進出できればいいという考えは捨ててくれ。俺たちは優勝争いをする。今年からはずっと優勝争いをしないといけない』と。もちろん、今年だけ優勝すればいいわけではありません。来年も、再来年も絶えず優勝争いをし続けるチームを目指していくんです。

──優勝の二文字は当然、ファンが一番望んでいることです。

河合 そうなんです。結果的にペナントレースで優勝争いをすることが、ビジネスとしても成立する。18、19年は単体で黒字化できましたが、その2年間はコストを下げ、最終的に観客動員が160万人を超え、黒字化できたのです。ただ、動員数を分析すれば、平日と週末では動員率の差があり、週末よりも低かった平日の観客動員数を増やせば、まだまだ伸びる。そうすれば、グッズ、飲食などの売り上げも、もっと上がっていくはずと思っていました。その中で昨年はコロナ禍となり、結果的に観客動員数は39万人に。160万人を目指していましたが、4分の1となり、ビジネスとしては大赤字です。とはいえ、その中で見えたもの、分かったことがあるんです。

──というのは。

河合 それこそが、優勝争いをする“強いチームの魅力”ということです。昨シーズン最終盤は勝てばCSに出られる状況で、特に最後の本拠地3連戦はすべて上限いっぱいの1万3500人のお客さんが入りました。最後の最後まで応援に来てくれたんです。このとき『ダイナミックプライシング』という変動制のチケット料金をテストで導入したのですが、価格を見れば黒字化した19年のチケットよりも、はるかに高い値段だったんです。観客動員に上限があり、プラチナ化したということもありますが、チケットが高くても、お客さんは最後の最後まで試合が見たいと思ってくれたんですよね。それは、スポーツコンテンツの根っこの部分である『勝つ』ということがあったからだと思うんです。

──勝敗の行方を見届けたい。だから、球場へ行く。その循環ですね。

河合 となれば、やはりマリーンズが強く、そして面白い試合を続けていくことなんです。今年も上限がありますが、それがなくなっても、満席となるには強いチームであり、面白い試合を続けていくことだと社員たちも分かったと思います。それまで社内から『チケットが高いと売れない』『何かインセンティブを付けないと来てくれない』という声があった。その考えも分かります。でも違うんです。チケットが高くても、インセンティブを付けなくても、ワクワクするような胸躍る試合をお見せすれば、お客さんは喜んで球場に来てくれるんです。

──試合こそが“チケットの価値”と。

河合 よくよく考えれば、私たちは野球というコンテンツの興業なんです。興業ビジネスは、スポーツ以外もあり、例えば宝塚歌劇団や歌舞伎などの演劇のチケットは、野球よりも値段が高いです。でも、皆さん見に行かれるのは演目そのものに価値があるから。球団に置き換えれば演目は試合です。その価値を上げることこそが、球団がやるべきことなんです。

1点を巡る攻防、そしてシーズンの優勝争いを展開していくことことが、球団の価値となる


──だからこそ、常勝軍団になっていく必要があるのですね。

河合 そうです。ただ、昨日、今日で実現できるほど簡単なことではないのは分かっています。だからわれわれは、できる限りチームをバックアップをしていくだけです。

──補強も、その1つだと思います。

河合 もちろんです。19年のオフの話ですが、基本的なデータを見れば、ウチは穴だらけでした。そしてFA補強に動き、周囲から『ロッテの補強はうまくいった』と評価いただきましたが、それは当たり前、穴を埋めれば良くなるのは当たり前の話なんです。本気で強いチームを作ろうと思ったら、自分たちの弱い部分を分析して補う必要があるんです。

──“弱い部分”ですか。

河合 19年オフで言えば、まず投手力を整備しよう、と。8回の失点率が最悪でしたから(611失点のうち、87失点。防御率5.20)。まずはそこを補強しました(楽天からハーマン小野郁を獲得、シーズン途中には澤村拓一巨人からトレードで獲得)。今年は9回で打ち切りですが、先発投手がある程度投げて、後ろの投手がそろえば、守りの部分が安定しますからね。

<後編へ続く>

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