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ダンプ辻のキャッチャーはつらいよ

2つのスライダーの違いをイラストで解説します。これがわかっていないといいリードはできません【ダンプ辻のキャッチャーはつらいよ】

 

05年、工藤のフォーム


踏み出した足


 (おもむろに昔の週べを取り出して)これ、昔、僕が取材してもらった本なんですけど、見ていたら工藤(工藤公康)のいい写真があった。これです、これ(このページに掲載している写真を指差す)。2005年の巨人時代ですが、勝っていた時期じゃないですかね。江夏(江夏豊。元阪神)に似た、勝てるフォームですよね、力みがないでしょ。江夏のいいときは、これよりもっと力抜いてもピッというキレのある球が来ました(実際、同年11勝9敗で、この写真掲載時の7月末には、すでに8勝していた)。

 こういう投手には、勝利を引っ張ってくる力もあるんですよ。バックを信頼しているから打たせて取るピッチングができるし、逆に投手を信頼しているからバックも安心して守れるというのかな。内野手は当然、キャッチャーのサインもミットも見ているはずです。外れまくって逆球ばかりのピッチャーじゃ、怖くて守備位置を動けんでしょうしね。

 工藤のフォームのいいところは、腕から肩のラインが全部真っすぐなのもそうですが、一番は踏み出したヒザが真っすぐ打者に向かっていることです。これが簡単なようで簡単じゃない。例えば、阪神の藤浪(藤浪晋太郎)はヒザが内に入るでしょ。それだと投げるときにロックされてしまうから、体重移動ができず、球を長く持って前でリリースすることができない。逆に窮屈だと思ってヒザを開くと、体も開いちゃってリリースの位置が安定しないんです。

 今はビデオもあるし、僕が言うまでもなく、コーチから指摘されていると思うけど、これは体の動きのクセみたいなもので、分かっても簡単には直せないんですよね。

 昔、同じようなクセがあった高校生の左投手を、お父さんに頼まれて見たことがあります。ピッチング練習を見たら、藤浪と同じで、体重移動がうまくできず、球を早めに離し、シュート回転になっていました。それで「こっちに歩いてみろ」と言ったら案の定でした。右ヒザが内に入る歩き方をしていた。要は投球フォームだから出てくるものではなく、体に染みついているものなんですよ。

 以前、話したことがあったと思うけど、そこから僕が編み出した整体の体操をさせて体のバランスを整え、真っすぐ踏み出せるようになったら、球もピッと行くようになった。え、また自慢話か? いやまあ、そうですけど、ほんとのことだから仕方ないでしょ(笑)。

捕手の腕の見せどころ?


 今回も審判の富澤宏哉さんに教わったスライダーの話をしましょうか。前回、話したとおり、軌道の絵を自分で書こうと思ってやっていたんですが、かなりきれいに書けたんで、この間、編集部に送っておきました。着きましたか?

 え、コンピューターでイラストにしたんですか? これはすごいな。あなたがしたんですか? そんなわけない? そりゃそうか。ガラケー使っている人にできるわけない(笑)。


 富澤さんのストライクゾーンの話は覚えていますよね。ベースには投手側と捕手側に角があります。ルールではどちらかをかすればストライクになるんですが、それじゃ手を上げてくれない人だった。右投手右打者、左投手左打者のインコースはベースと平行に真っすぐ来たらボール半分くらい外れていてもストライクにしてくれたけど、外はきつかった。やりにくいアンパイアでしたが、この人に教えてもらった2つのスライダーの違いは勉強になりました。

 では、せっかく作っていただいた図を見ながら、説明していきましょう。これは右投げ、左投げのスライダーの軌道です。前提として、僕のイメージと経験からですが、左のスライダー投手はタテ変化が多く、横変化は少ない。左は中日にいた岩瀬(岩瀬仁紀)くらいじゃないですかね。

 見たとおり、同じ到着地点のスライダーの違いです。ピッチャーはスライダーのサインで投げ、構えた同じ位置のミットに収まる。キャッチャーもそうですよね。スライダーのサインを出して、構えた場所で捕る。でも実際には、そこに収まったスライダーには2種類があるんですよ。それをピッチャーが分からないのは仕方ない。スライダーの変化はいつも一緒じゃありません。体調によっても違いますからね。ただ、これをキャッチャーが分かっているかどうかは、すごく大きな差になるんです。フォームを見ていても分かりますよ。首、肩、腹が早く開くと必ず早く曲がってしまうんです。

 あらためて図を見てもらいましょうか。点線はすごく早く曲がって、あとは、そこから真っすぐ来る軌道、もう一つの太い実線は真っすぐ来て、バッターが打つ手前で曲がる軌道です。点線だと打者は、ほとんど真っすぐの感覚で待てるから、軌道がよく見えますよね。ボール球なら、まず手を出しません。でも、太い実線で来ると、バッターはストレートと思って手を出し、出したけどバットが届かず、空振りや凡打になりやすいわけです。

 こういうことが分からんと、いいリードはできません。キャッチャーは結局、投手が持っている球でリードするしかないわけですから、早く曲がるスライダーと分かっていたら、それはボール球で使い、同じ軌道の真っすぐでストライクというやり方もある。どんな球も使い方次第ということです。

PROFILE
辻恭彦/つじ・やすひこ●1942年6月18日生まれ。愛知県出身。享栄商高から西濃運輸を経て62年夏阪神入団。75年大洋に移籍し、84年引退。その後、大洋、阪神、横浜のコーチを歴任した。通算974試合、418安打、44本塁打、163打点、打率.209。ダンプの愛称は同姓の捕手・辻佳紀がいたためでもある。

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