180cmに満たない身長ながら、強烈な真っすぐとカットボールを投げるオリックスの山本。攻略は難しいですが、捕手としてはやりがいがあります[写真=毛受亮介]
身長178cmの体で190cm以上あるダルビッシュ(
ダルビッシュ有=パドレス)や大谷(
大谷翔平=エンゼルス)と同じ150キロ後半の真っすぐを投げるんですから、どういうこと? と思っています。NPBの中でNO.1の投手ですよ。そう、今回の週べの特集となっている、オリックスの山本(
山本由伸)のことです。
投げ方は、いわゆる“アーム式”です。この投げ方だと、打者は最初から球筋が見やすくなるので、打ちやすい投手の部類に入るのですが、山本の場合はそんなの関係ねえ! とパワーで押し切って空振りやファウルにしてしまうほどボールに力があるのです。
彼の投球の代名詞のひとつに「カットボール」がありますが、私は断然「真っすぐ」が彼の代表的な球だと思っています。あのめちゃくちゃパワーのある真っすぐがあるから、カットボールが生きているんです。大捕手の谷繁(
谷繁元信=元
中日ほか)が「憲伸(
川上憲伸)のカットボールが史上最強」と言っていましたが、それもやはり憲伸のパワーストレートがあるからこそ、あの球種が生きた。山本と憲伸はすごく似ていると思いますね。
つまり、真っすぐとカットボールは一体と言っていいかもしれませんね。真っすぐにそこまでパワーがない投手のカットボールは、ヨコスラになり、そこまで速くありませんので、怖い球種ではなくなるのです。あの強い真っすぐがあるから、振り負けないようにと振りにいくとカットボールが来て詰まらせられるわけです。
私が打撃コーチだとしたら「バットを短く持って、山本の足元を狙え」と指示を出すしかないですね。それは2008年の
西武時代、打撃コーチとして対ダルビッシュ(当時
日本ハム)に出したアドバイスと同じ。つまり、超消極的な指示になってしまいます。それだけ攻略が難しい。
もし、私が捕手として山本をリードするなら……これは
巨人時代にバッテリーを組ませてもらった、大エースの
斎藤雅樹さんの配球に近いかもしれません。完投するのが当たり前の時代で投げていたので、いかに省エネ投球をするのか、というのがテーマでした。0ボール2ストライクに追い込んでも、遊び球という配球は選択せずに、勝負球で打ち取っていく──山本にも同じ配球をしていくと思います。
山本の場合は、力のあるボールを投げ続けてくるので、そのボールを長いイニングで投げさせたい。だからこそ本当に省エネ投球で組み立てていくことが、一番効率がよくなると思いますし、1年間を通じていいリズムで投げていくことができるのかなと思います。
こういう投手に、3連戦シリーズの頭で投げられると、打線の調子が狂わされてしまうのでは……と監督や打撃コーチは不安になるものです。そういう相手チーム全体にプレッシャーを与えられる、現在の球界で最高の投手ですね。
PROFILE 大久保博元/おおくぼ・ひろもと●1967年2月1日生まれ。茨城県出身。水戸商高から85年ドラフト1位で西武に入団。トレードで巨人入りした92年に15本塁打。95年現役引退。野球解説者やタレントを経て、2008年に西武コーチに就任し日本一に貢献。12年からは
楽天打撃コーチ、二軍監督を経て15年に一軍監督に就任した。15年限りで辞任し、16年から野球解説者をこなしながら新橋に居酒屋「肉蔵でーぶ」を経営している。
デーブ大久保チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCKa1VlSq1WwdSQWv4JFdgxg デーブ大久保ツイッター
https://twitter.com/daveohkubo