週刊ベースボールONLINE

廣岡達朗コラム

なぜ“100球理論”ができたか、「日本は複数年契約をするな」…日米ベースボールサミットの記憶/廣岡達朗コラム

 

野球界全体をよりよくするために



 長嶋茂雄は巨人軍終身名誉監督という肩書が付いているが、野球界のために尽くすべきだ。それなのに、先日は二軍のジャイアンツ球場を訪れて「勝つ、勝つ、勝つ」とやっていた。あれだけファンを喜ばせたスーパースターだけに、巨人のことも大切だが、野球界全体をよりよくするという視点に立つべきだ。それでこそ長嶋の値打ちが出る。

 私は1988年から「日米ベースボールサミット」と称する野球の勉強会を3回にわたって開催した。MLBからは球団経営者や元指導者、レンジャーズの現役監督だったボビー・バレンタインが来日。日本からも長嶋、藤田元司、張本勲など名を成したOBに集まってもらった。

 開催にあたって日本の企業、放送関係者全員から反対された。勉強会をやるくらいなら、メジャーのオールスターを集めて試合をやってくれ、そうすれば収支がプラスになるということだった。要はオリンピックと同じで、金儲けしか頭にないのだ。私はそういうつもりでやるわけではない。結局スポンサーが現れ、サミットは、野球界をよりよくするための勉強の場として日の目を見た。

 席上、“100球理論”がなぜできたかが紹介された。以前この連載でも書いたが、投手の球数は1イニング15球を上限として3イニング、つまり45球投げたら1日休ませるというのが当時のメジャーの原則。先発投手が完投した場合、15×9=135球に達するため中3日の休養が必要になる。さらにもう1日休ませれば十分だろうということで、当時のメジャー球団は135の球数制限で足並みを揃えた。ところが、100球のほうが出る結果もローテーションを回す効率もよかったため、先発投手の100球理論が生まれた。

 こういう根拠を知らずに現在の日本は100球を超えたら先発交代という固定観念でモノが語られる。

 先発投手は中6日で週に1回しか放らない。リリーフ陣は逆に登板数が年々増えてきて、酷使され過ぎとの指摘もある。45球で1日の休み――日本の指導者は100球理論の本質と向き合うべきだ。

人間が堕落するようなシステム


 サミットでは、アメリカのある重鎮が「日本は絶対に複数年契約にするな」と言った。MLBは1960年代までオーナーが保有条項を盾に選手を奴隷のごとく扱っていた。その報いのようにフリー・エージェントの権利を選手会が勝ち取った。だが、日本はアメリカとは違う。複数年契約を認めたら、最終年だけは一生懸命にやるが、それまではのんびりとプレーする。だから複数年契約を認めるなと言うのだ。

 ところが、日本でも93年からFAが導入され、いまや球団は複数年契約で選手に何億も保証する。単年契約をしたら、複数年契約をしてくれる球団へ選手に去られてしまうからだ。これでは働くわけがない。人間が堕落するようにシステムができている。

 そうではなく、これだけ働いたらいくらボーナスを払うという完全インセンティブ制に契約システムを変えれば、人間は生きる。常に働かざるを得なくなる。コミッショナーが「複数年契約はしない。その代わり働いたらナンボでも出す」というルールを打ち出せばいいのだ。

『週刊ベースボール』2021年7月5日号(6月23日発売)より

●廣岡達朗(ひろおか・たつろう)
1932年2月9日生まれ。広島県出身。呉三津田高、早大を経て54年に巨人入団。大型遊撃手として新人王に輝くなど活躍。66年に引退。広島、ヤクルトのコーチを経て76年シーズン途中にヤクルト監督に就任。78年、球団初のリーグ制覇、日本一に導く。82年の西武監督就任1年目から2年連続日本一。4年間で3度優勝という偉業を残し85年限りで退団。92年野球殿堂入り。

写真=BBM

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング