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デーブ大久保 さあ、話しましょう!

メジャー審判には強い自尊心がある。そこを理解してうまく付き合うのがベストです【デーブ大久保 さあ、話しましょう!】

 

大谷の1つ目のボークの直後に審判に説明を求めるマドン監督[右]。まずは冷静に審判の自尊心を尊重すべきでした。これがいい勉強になればいですね[写真=Getty Images]


 バッターというのは、打席では常に「絶対に打つ」という強い意識があるものです。私が西武の若手時代に修行で行ったアメリカの教育リーグでの話です。ある打席でハーフスイングもしてない、ピクッと動いただけの場面がありました。それだけでスイングをしたとみなされて「ストライク」コールです。

 当然納得いかない私は、西武から引率で来ていた和田(和田博実)さんに通訳をしてもらって自分の意思を伝えたのです。そうしたら、球審は「お前に打つという意識があるから」という回答をしたんです。いやいや、バッターは打つ気で打席に入っていますから。じゃあ、ボール球を見逃しても打つ気があればストライクなんですか? となります。でもそこまで問い詰めたら、アメリカの審判はかなり怒ります。

 というのも、やはり彼らは狩猟民族なのです。自分を守るには、自分の尊厳を大事にしている。例えば「フリーズ!」と言って制止させたとしても、相手が少しでも動けば、撃ってしまう民族です。そうやって生き抜いてきた文化があるので、自分の意見をはっきり持っているのです。

 一方で、日本人の多くは農耕民族です。その中で生まれたのが「話し合い」。そして「お伺(うかが)い」という文化です。何か不服なことがあれば、お伺いを立てて、上の人たちはそれに答えながら、民衆をまとめていく、という文化なのです。

 ここまで来て何の話か分かった人もいると思います。そう先日、エンゼルスの大谷(大谷翔平)が2つのボークを宣告された件です。あのとき、大谷は「WHY?」のポーズをしました。あれは大谷にとっては、審判に対する「お伺い」だと思います。「どこがボークになったのですか、教えてください」という意味合いがあります。皆さんもそれは理解できると思います、なぜならわれわれは同じ文化の中で育っていますから。

 一方、狩猟民族の塁審からしたら「WHY?」は「あなたは間違っている!」と否定されたと思ったのではないでしょうか。しかも、メジャーの球場の多くのファンが見ている前でやられたわけですから、自尊心を傷つけられたと思ったはずです。そうなれば、報復という言葉は悪いですが、それに近いことをやってしまうのは当然になってしまいます。

 彼らメジャーの審判団は、マイナーで長い時間経験を積んで、はい上がってきた人たちです。マイナーでは審判2人体制で試合をさばくことは普通です。そういう過酷な状況の中でたたき上げてきた彼らの中には、審判の仕事に対する強い自尊心があるのは当然です。

 今回の判定では、多くの人が1つ目はボークでないと言っています。それはそうでしょう。しかし、それが不服でも、やはりアメリカの文化を理解し、自分の感情を表に出さずに、彼らに敬意を表すれば、今以上にいい関係になると思います。審判を味方にすることが、メジャーでより大成できる近道になるかもしれません。今後「お伺い」はしないほうがいいですよ、大谷君。

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