開幕から一軍入り、いやレギュラーの座を獲得したオコエ。もともとの打撃センスに磨きがかかったのは原監督の「もう一歩前で立ったら?」というひと言でした[写真=高塩隆]
開幕当初から野手陣には「タイミングが合えば、ドンドン振っていこう」という指示は出しています。開幕からなかなかかみ合わず、10安打をしても1点のみ、という状況が続いていました。4月19日の
DeNA戦(佐賀)で、その形にようやく光が見え始めました。
チームは9安打5得点、本塁打2本という内容で、効率の良い点の取り方でした。吉川(
吉川尚輝)も
中田翔も完ぺきなタイミングでのホームランでした。吉川はこの日、この本塁打を含む2安打。いいタイミングの取り方になってきたと思います。
吉川を八番にも入れたりしていますので、彼が打ち出すと以前お話した、得点のチャンスが生まれやすくなります。九番のピッチャーが犠打を決めると悪くても二死二塁で一番打者へとつながっていきます。そのポジションで今頑張っているのが、オコエ(
オコエ瑠偉)です。打率も先週まで3割台で2つの本塁打を放っています。彼は現役ドラフトで
楽天から移籍してきました。皆さんもここまで活躍するとは思っていなかったでしょう。何しろ楽天では昨年6試合しか出場していない。すでに昨年の成績を超えています。昨年は安打数5。現在は16試合で17安打と倍の数を打っています。
多分楽天のファンはびっくりしていると思います。なぜここまで打てるようになったのか……一番の効果は原(
原辰徳)監督のひと言でした。移籍してきて初めて彼の打撃を見たときに、バッターボックスの立つ位置がホームより後ろ側。右打者なので、三塁ベンチ側に立っていたのです。それもかなり内角のスペースがつくれるくらい。
そこで原監督が「お前さん、一歩前に出て打ってみたらどうだい」とアドバイスを送ったんです。オコエも、一歩前に位置を変えたら、すごくいいバッティングをするようになったんです。
聞くと「内角が苦手なので、後ろに立っていました」と。それもあって相手投手は外角低めに変化球をどんどん投げてきていたようです。実際に一歩前に出たことにより、外角の見極めがずい分とよくなりました。と同時に、苦手だという内角の打ち方が、見ている側としては苦しい打ち方ではなかったですし、オコエ本人もしっくりきている様子でした。
「内角もさばけるじゃん」という自信が持てたことで、打撃がどんどん良くなりましたし、もともと持っているポテンシャルはものすごいものがあります。4月16日の
中日戦。あのバンテリンでの豪快な本塁打は、エンゼルスの
大谷翔平の打球速度にも劣らない打球でした。
彼が原監督のひと言により覚醒したことで、一番として起用しやすくなりました。足の速さと一発の怖さを持ち合わせた一番打者です。ここからさらに伸びてほしい打者ですが、まだまだ外角低めへの対応が雑です。七、八番を打たせる打者でなく、主軸を任せる打者ですから、その雑さを克服してくれれば、さらに大化けすると思いますね。
『週刊ベースボール』2023年5月8日号(4月26日発売)より