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シリーズ 首脳陣に聞く

【インタビュー】ロッテ・吉井理人監督 選手のやりたいことを叶えてあげたい「選手たちがプレーしやすい環境をつくるのが仕事です」

 

オープン戦が各地で本格化し、シーズン開幕まで残すところ約2週間。連覇を狙う王者に立ち向かうべく、挑戦者は今まさに爪を研いでいる。指導者たちに聞く短期連載の第4回はロッテの一軍監督の登場だ。昨年の2位という結果から、今年目指すところは一つしかない。どう戦っていくのかを直撃した。
取材・構成=落合修一 写真=川口洋邦、高塩隆、BBM

3月8日、本拠地・ZOZOマリンでの今春初試合となるソフトバンクとのオープン戦にて


一番楽しいはずの9、10月に投手陣が万全じゃなかった


 吉井理人監督が千葉ロッテマリーンズの指揮官に就任したのは昨年のこと。1年目のシーズンは70勝68敗5分け、勝率.507のパ・リーグ2位という成績だった。2位という結果は健闘したと解釈することもできるが、レギュラーシーズン最終戦に負けていたら4位でBクラスに転落していたこと、シーズン前半は首位にいた時期もあったのに最終的に優勝したオリックスと15.5ゲーム差も離されたことを考えれば、評価は分かれるところだろう。

 ただ、もともと豊富で圧倒的な戦力を誇るチームだったとは言えない。昨季、規定投球回に到達した投手は小島和哉だけ。打線はポランコが本塁打王を獲得したとは言え、規定打席に到達した4選手(ポランコ、安田尚憲山口航輝中村奨吾)の平均打率は.233。シーズン143試合で142通りのスタメンを組んだのは多彩な攻撃を試みたと言えば聞こえがいいが、それだけ年間を通して安定した力を発揮し続けた「核」となる打者が不在だったという見方ができる。

 もちろん、長いシーズンには選手の好不調の波、コンディションの変化、ケガもある。そこを見極めながら臨機応変に対応するのが一軍首脳陣の役目。今年も吉井監督のマネジメントに注目が集まるだろう。

 マリーンズは最近4年間でリーグ2位が3回と、優勝はしていないが優勝に最も近いところにいる(?)チーム。特に今年は「最後のシーズン勝率トップ」による前回の優勝からちょうど50年となる。半世紀ぶりの「勝率トップ優勝」への期待が例年以上に高まっているところに、吉井監督の声を聞いた。

 現時点で何とも言えませんが、ケガ人が何人か出てしまったので、チームへの手応えはあまり良い感触とは言えないですね。

 昨年のペナントレースを振り返ると、満足した点はそんなにありません。一番失敗したと思うのは投手陣です。シーズンの最後、9月、10月の一番楽しい時期を一番良い状態で投げさせてあげられることができなかったので、そこは失敗したかなと思っています。

 9月、10月というのは、本来は一番楽しい時期なんですよ。優勝が見えてくるし、優勝を逃したとしてもクライマックスシリーズ(CS)というチャンスがある。そこを逃すと、面白くないですよね。

 シーズン前半の順位はまったく関係ないし、気にしていなかったです。自分たちがどこの位置にいるのかは全然興味がなかったし、あの時点ではまだまだシーズンの残りがありましたし、先ほども言ったように勝負は9月、10月と思っていたので、オールスターのころまで勝率5割前後で行ければ上々だと思いながらやっていました。

 ピッチャーたちに、9月、10月の楽しい時期に万全な状態で任せられなかったのはこちらの責任です。選手たちはみんな、頑張ってくれました。昨年のチームで唯一、規定投球回に達したのは小島(小島和哉)。3年連続で規定投球回に達しているわけですから、そういう意味では先発ローテーションの柱であることは間違いありません。ただ、こちらの期待度からすると、まだまだ。もっと上に行ける子だと思っています。今年も先発ローテーションの軸として、昨年以上の活躍を期待しています。

 その小島に種市(種市篤暉)、佐々木朗希の3人がもっとイニングを投げてくれたら、優勝のチャンスが広がるんじゃないかなと思っています。ほかにも、西野(西野勇士)、メルセデスなど期待している先発投手はいますが、小島、種市、佐々木の3人は年齢的にも、もっともっと実力を上げ、飛躍してほしいです。結果については意識しても相手のあるスポーツなのでどうしようもありませんが、自分の持つ力を出し切ってほしいなと思います。

内野シャッフルは「チームを前に進めるため」


近鉄時代、オリックス時代は仰木彬監督[写真上]、メッツ時代、ロッテ現役時代はバレンタイン監督[写真下]ともプレーした経験がある


 吉井監督の現役生活は1984年の近鉄バファローズから始まり、2007年にロッテで引退するまでの24年間で日米で延べ7球団に在籍。仰木彬、野村克也、ボビー・バレンタインにフランク・ロビンソンなど数々の監督の下でプレーしたが、特にこの監督の影響を受けたと言える存在はないという(理想の指導者像&モットー参照)。外から見て感じるのは、チームの雰囲気が良いこと。若い選手とベテランの間に壁がなく、変な派閥もなく、良い意味で和気藹々と全員が同じ方向を目指しているようだ。選手たちはもし何か言いたいことがあったら首脳陣に萎縮せずに言えるだろうし、そうなったときに首脳陣は耳を傾けることだろう。高圧的な空気はなく、これが令和の新しいスタイルのプロ野球チームの在り方の一つなのかもしれない。

 吉井監督は今季、内野陣のコンバートを試みている。昨年の遊撃レギュラーだった藤岡裕大を二塁へ、二塁レギュラーだった中村奨を三塁へコンバート。昨年の三塁レギュラーだった安田には一塁も守らせている。その一塁にはDeNAから実績豊富なソトが移籍。内野の各ポジションは競争が激化している。昨年一塁を守った試合数が最多だった山口は必然的に外野起用が多くなり、その流れを受けて外野でもポジション争いが発生している。昨年は規定打席未満ながら自己最高の打率.277を残した藤岡やゴールデン・グラブ賞に選ばれた中村奨を動かす内野シャッフルは大胆なようでもあるが、昨年と同じでは進歩がない、という決意の表われだ。

 内野シャッフルの目的については、チームを前に進めるためにです。いろいろな意味があるので一言では言えませんが、選手個々のためにも、チーム全体のためにも、そうしたほうがいいと判断したのでやってみようと思っています。この選手はこっちのポジションを守ったほうが向いているのだろうと私が判断したわけではありません。そこは、私は(野手について)素人なので分からないところで、現在進めているコンバートが果たして正解なのかも分かりません。先ほども言ったように、チームを前に進めるためにはこうしたほうがいいと思ったのです。それが成功なのか失敗なのかは、やってみないと分からないです。現時点での手応えも分からないです。選手たちは一生懸命にやってくれているので、今年はこれで戦っていこう。それだけですね。

「内野シャッフルが成功するかは分からない。ただ、前に進むため」


 投手コーチという役割から監督になって今年で2年目を迎えます。選手を指導するという点ではコーチのときのほうが、投手コーチなら投手を指導する専門職なのでやることがたくさんありました。監督はチーム全体をマネジメントしないといけないので、選手個人を指導する頻度は極端に減りました。監督はフィールドマネジャーなので、技術指導ではなく現場全体のマネジメントが役割となります。

 選手たちが明るく、伸び伸びとプレーしているように見えると言われることがありますが、そういうチームにしようと自分から意識しているわけではないです。プレーするのは選手。その選手たちがプレーしやすい環境をつくるのも自分の仕事の一つだと思っているので、そういった意味では意識していると言えますけど、特に「明るく、楽しく」という空気をつくろうという特別な意図はしていません。結果的にそうなっているとすれば、それは選手たちの個性じゃないですかね。もともと明るい子たちなので。僕は何も意識していないんです。

 とにかく、選手がやりやすい環境をつくろうとしているだけです。実際のところ、全員がやりやすいと思っているかどうかは分からないじゃないですか。そうじゃないと感じている選手がいたとしても、そういうことを言いに来ることもないでしょうから。何でも言いに来ていいとは言っているのですが、そこは分からないですね。

石垣島キャンプのブルペンで選手とコミュニケーションを取っていたときの様子[写真右は田中晴也投手、小野晋吾投手コーチ]


 野球は個人競技に近い部分もありますがやはりチームスポーツなので、チームワークを考えると個人の希望が通らないときもあるでしょう。そこをうまく折り合いをつけながら、選手がやると自分で決めたことを最大限尊重したいと思っています。それが監督の仕事です。

 もちろんプロ野球なので、勝たないと意味がありません。もうすぐペナントレースが始まりますが、言われるまでもなく今年の目標はレギュラーシーズン1位になって優勝することです。勝ってこそのプロ野球だと思うので、「どうしたら勝てるのか」ということを毎日一生懸命に考えて、やっていきたいと思っています。今の段階はどうにでも言えるので(笑)。ただ、ほかのチームも毎年、優勝を目指してレベルアップしてきます。勝つためには、こちらもその上を狙っていかないといけません。選手たちは自分の力を発揮する準備をして、われわれ首脳陣はチームの戦略やマネジメント、選手たちのコンディション管理などをしっかりやる。そうやって1年間を過ごしたいと思っています。

理想の指導者像&モットー



選手のやりたいことを叶えてあげたい

 あまり参考にしている監督はいないですね。自分が現役だったときの監督で、「この人のような監督像を目指しています」と名前を挙げられる人はいません。現役時代にあまり監督の仕事を意識して観察していたわけでもありませんでしたから。今の私が目指しているのは、「選手の邪魔をしない指導者」です。プレーするのは選手ですから、こうやりたいと選手が言ったことはなるべく叶えてあげたい。チームプレーの邪魔をしないなら尊重したいですね。

PROFILE
よしい・まさと●1965年4月20日生まれ、和歌山県出身。箕島高からドラフト2位で84年に近鉄に入団。88年から3年連続2ケタセーブを挙げるなど、当初は若き守護神として活躍。95年開幕直前にヤクルトへトレード移籍し、在籍した3年間すべてのシーズンで2ケタ勝利と先発ローテーションで活躍。98年にNPB史上初めて、FA権を行使してのMLB移籍を果たしてメッツに入団。渡米2年目の99年には12勝8敗の好成績を残し、リーグ・プレーオフの先発も経験した。00年ロッキーズ、01年にエクスポズ(現ナショナルズ)に移籍し、03年にオリックスで日本球界復帰。07年途中にロッテへ移籍し、同年限りで現役引退。NPB通算成績は385試合に登板し、89勝82敗62セーブ、防御率3.86。引退後は日本ハム、ソフトバンク、ロッテ、侍ジャパンで投手コーチを務め、昨年ロッテの監督に就任した。

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