WBCで世界一奪還を果たした侍ジャパンの栗山英樹監督とMVPの大谷翔平。日本ハムの監督と選手としても長年信頼関係を築いてきた。規格外の活躍をする大谷の源にはどんな行動があるのか。そこにある「力を伸ばす習慣」について、栗山氏の分析は? 書籍『ここで差がつく! スポーツで結果を出す81の習慣』(ベースボール・マガジン社刊)で、著者・髙橋宏文氏(東京学芸大学教授)と対談して明かしたエピソードを一部抜粋してお伝えしよう。 二刀流を可能にしているのは彼の頭、思考

WBCでMVPに輝いた大谷[写真=Getty Images]
高橋 監督の口から大谷翔平選手の名前が出ましたが、日本ハム時代に彼の取り組みや習慣で、強く印象に残っているエピソードなどはありますか。
栗山 挙げればたくさんありますけど。翔平をよく表しているエピソードは2016年の紅白歌合戦の審査員でオファーが来たときですね。広報から翔平に打診すると「収録の前後に練習会場をちゃんと確保してくれるなら出ます」と。翔平の中には「自分がやりたい練習」というのがある。それはすべて自分の中で決まっていて。邪魔することは許されないんですよ。「その練習場所と時間を収録の前後でちゃんと確保してくれるのであれば、いってもいいですよ」といったらしいです。当時からそれぐらい自分のやるべきことに妥協することはなかったですよね。
あと、これはよくいってますけど、チームが優勝した前年(2015年)の12月25日のクリスマスに、夜中に翔平からLINEが来て「監督が一番喜ぶものです」と映像が送られてきたんです。それは翔平が「合宿所でバッティングフォーム変えるんだ」といって、ずっと打ち続けている動画だったんです。クリスマスも何も関係ない。自分のための練習に一番没頭できる時間だったんですよね、それぐらい野球への強い思いがないと、ピッチャーとバッターの二つなんてやり切れませんよ。彼のもっている才能にどうしてもフォーカスされがちですけど、二刀流を可能にしているのは、彼の頭、思考です。それこそ習慣ですよね。周囲がどうこうではなく、自分がそれをやらないと嫌なんですよね。
高橋 行動の先には成し遂げたい明確な目標が常にある。中途半端な人は、どうしても行動したことで落ち着いてしまうというか。やっている自分にどこか酔ってしまっている部分があるので。
栗山 翔平の場合は自己満足的なものじゃなくて、ずっと先の先を見ているんですよね。遠征先でも、朝10時になるとリックサックを背負ってウエート場に翔平は必ずいく。僕もよくホテル内で会いましたけど、投げた次の日だろうが、体が痛かろうが「僕は今じゃない、今を見ているわけじゃないんです」と。先のことを考え、この筋力のままじゃ勝負できないからやっている。監督としては、ケガしないかなとか、当然心配しますよね。でも、彼にはそんなことは関係なくて「将来こういうイメージでプレーできるようになりたいんだ」というのが明確にある。今なんて見ていない。視線は常にずっと先にある。だから疲れていてもいく。紅白の審査員の話もそうですけど、邪魔することは誰にも許さないんですよね。
髙橋 成長する阻害要因を自分でつくらないんですね。
栗山 完全に習慣のレベルまで落とし込み、将来に向けての明確な道を描けていたのが翔平なんです。素質や能力があるのはもちろんですが、それだけじゃない。日々の積み重ねが、現在のメジャーリーグでの翔平の活躍を生んでいる一番の要因だと思います。
髙橋 周囲の環境がよくなくて、「だから自分はこれぐらいなんだ」と主張する人も世の中にいます。しかし大谷選手は真逆。成長する状況を自分自身でつくり出しているのですね。
栗山 その部分に関しては本当にしっかりしていましたね。
(対談は2021年9月収録)
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