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【高校野球】三位一体の変革元年 「自治・自立」で29年ぶり夏甲子園目指す鹿児島商

 

現在、『第106回全国高校野球選手権地方大会展望号』がベースボール・マガジン社より発売中だが、ここでは学校創立130年の今年、学科再編と男女共学化へ舵を切った伝統校・鹿児島商をクローズアップした記事を特別公開する。

野球を科学的に研究


鹿児島の象徴である桜島を背景に3年生が集合。夏場は花火大会が観戦できる絶景スポットだ


 活動拠点の「鹿商新生球場」のスコアボードには校訓の「誠実 勤労」に加えて、塗木哲哉監督の指導方針「自治 自立」が掲げてある。思考停止の人間は、役に立たない。「指導者からの指示の中で動くのではなく、自分でアレンジすることが大事」。塗木監督によれば鹿児島商は「進学54%就職46%」である。野球部員の多くも、高校卒業後は仕事に就く。社会へ出る前の教育機関としての役割も担う。

 鹿児島商は鹿児島簡易商業学校として1894年10月に開校。1957年に現校名となり「鹿商(かしょう)」として親しまれている。多くの有能な人材を輩出。同窓会組織も地元の鹿児島だけではなく関東、東海、近畿など全国で展開され、強固なネットワークが確立されている。

 2024年に創立130周年。このタイミングで2つの動きがあった。商業科がビジネスクリエイト科、情報処理科が情報イノベーション科、国際経済科がアスリートスポーツ科に。また、公立商業高校で全国唯一の男子校だったが、男女共学となった。魅力ある学校への「変革」である。

 アスリートスポーツ科では火、金曜の5、6限に「硬式野球」の授業を組む。外野から本塁への送球はノーバウンドとダイレクト、どちらがベストなのかなど、野球を科学的に研究し、対外的な発表会にも参加する予定。今春、同校に赴任した冨山良人副部長が担当教員となっている。

気配り、目配り、心配り


主将兼エースの坂口は最速139キロでスライダー、カーブ、チェンジアップ、フォークを巧みに操る


 男女共学化に伴い、硬式野球部では女子部員の受け入れを認めた。4人が入部。主将・坂口隼也は「細部まで気づくので、自分たちは野球に集中できる」と大歓迎。塗木監督から仕事が与えられるのではなく、意識高く、率先して汗を流す。

「共学になると聞いて、1期生の女子マネジャーに魅力を感じた」(折小野さくら)

「野球を通して礼節を学びたい」(塩澤玲美)

「鹿商は部活が盛んで、硬式野球部は最もやりがいがあると感じた」(丸本夏希)

 加藤瑠衣香は3年生マネジャー・冨ケ原翼が担当しているアナリストを引き継ぐことになっており「数字に興味がある。しっかり次の世代につないでいきたい」と目を輝かす。

男女共学により、4人の女子部員が入部した[左から折小野、加藤、塩澤、丸本]


 気配り、目配り、心配り。掃除を欠かさず、活動において「環境整備」に重きを置く。塗木監督は昨年4月の赴任以来、球場周辺に生い茂っていた草木を刈り取った。室内練習場も整頓し、心の鍛錬なくして、技術向上はないとの方針を一貫としている。

 鶴丸OBの塗木監督は鹿児島南では95年夏に県大会準優勝、頴娃では03年、志布志では11年に、センバツ21世紀枠の鹿児島県推薦を受けた。大島では左腕・大野稼頭央(ソフトバンク)を擁した22年春のセンバツへ導き、ハンディのある離島でも実績を残した。約30年のキャリアから「5年をメド」で成果を残せる自負がある。指導方針が確立されているからだ。

「鹿商はひとつ」の意味


2018年、同窓会の尽力により「鹿商桜岳寮」が完成。36人収容で、離島など県内の遠方者を受け入れる体制が整っている


 古豪復活への機運が高まる。1898年創部し、春12回、夏13回の甲子園出場を誇る。かつては鹿児島実、樟南で「御三家」と呼ばれていたが、鹿児島商の夏の甲子園出場は1995年が最後。学校改革と並行して、学校の看板である硬式野球部強化に本格着手。2018年には同窓会(鳥井ヶ原昭人会長)の尽力により、鹿商桜岳寮が完成(36人収容)。県内の遠方者、離島出身の生徒を受け入れる態勢が整った。

元ソフトバンクの左腕・小椋コーチは鹿児島市の公募により、昨年4月に外部コーチに就任


 指導陣も充実の7人体制。小椋真介氏(元ソフトバンク)が昨年4月に外部コーチに就任。仕事の傍らでOB2人も強力支援。1986年夏の甲子園4強進出時の捕手である濱田健吾コーチは「卒業生の思いも背負っている」と覚悟を語れば、日高貴徳コーチは「子どもたちは自分で考えるようになり、野球も変わってきた」と手応えを得ている。

 モットーは「鹿商はひとつ」。同窓会、野球部OB会など、支援組織が確立。地元の熱狂的ファンも多い。塗木監督は「地域、学校、卒業生から求められている言葉」と受け止める。現場は部員、指導者、保護者が三位一体で勝利を目指す。主将・坂口は「全員で最後までやり切り、鹿商で甲子園に行く」と話し、三番・水谷幸輝は「古豪と言われていますが、新たな強さを見せる」と語った。昨秋以降、髪型は個々に任せている。野球は自己判断能力が試される競技。「自治・自立」で勝負を挑む。

横断幕にもある硬式野球部のモットーは「鹿商はひとつ」。3年生を中心に個々が役割を理解し、チームワークのよさは絶対に負けない


取材・文=岡本朋祐 写真=上野弘明

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