2026年プロ野球シーズンが開幕し、阪神タイガースのローテーションの一角を担う大竹耕太郎は、チームの連覇とキャリアハイの個人成績を見据える。ソフトバンクでの最後の2年間で0勝だった左腕は、現役ドラフトで阪神に移籍後、3年間で32勝。進化の原動力は何か? ここでは前監督・岡田彰布氏との出会いについて、発売後大きな反響を呼んでいる、大竹初の自著『覆す』(ベースボール・マガジン社刊)より抜粋、編集してご紹介しよう。 
大竹耕太郎の著書『覆す』©阪神タイガース
「おーん、よろしく」
2023年に阪神の監督に復帰され、チームを日本一に導いた岡田彰布監督(当時)と、初めて会話をしたのは、現役ドラフトのときです。2022年の12月。阪神への移籍を知り、すぐに早稲田大の
小宮山悟監督に連絡先を教えてもらい、おそるおそる電話をかけました。
「大竹です。よろしくお願いします」
「おーん、よろしく」とだけ返ってきました。
最初はちょっと冷たい人かなと思いましたね(笑)。でも、実際は違いました。シーズンに入っても、岡田監督との会話はほとんどありませんでしたが、その起用法を通して伝わってくるものがありました。言葉はないけれど、「この試合、この場面任せたぞ」と信頼してくれているのを感じるのです。だからこそ、それに応えようと、投げるたびに責任感も出てきました。
2年間で一度だけ、岡田監督に自分から話しかけた
たまに話しかけられるときは、ボソッとひと言だけ。ただ、2023、2024年シーズンの2年間で一度だけ、僕から岡田監督に話しかけたことがあります。2023年の夏、開幕から6連勝したあとに、勝てない試合が続いた時期でした。そのころの僕は初球を痛打される場面が目立っていました。
一般的には、試合直後は、監督やコーチから反省点や課題を突きつけられるものですが、阪神にはそういう文化がありませんでした。どんなに打たれてもダメ出しはほとんどなかった。だから、次に向けて自分で考えて能動的にやる。それはすごく大事なことですが、自分でキャッチャーと話し合いを重ねながら、いろいろと考えていく中で少し行き詰まってしまったのです。
「初球から勝負球のつもりでええんちゃうか」
甲子園球場での試合前の練習中でした。センターの定位置付近で打撃練習を見つめていた監督のもとへ歩み寄って、「監督ちょっといいですか?」と声をかけました。そして、率直な思いをぶつけました。
「どういうメンタルで投げるべきでしょうか。客観的にベンチから見ていてどう感じていますか」
すぐに返答がありました。
「逃げて、ボール、ボールになるのは違う。初球から勝負球のつもりでええんちゃうか」
はっとしました。確かに、「カウントを取りにいく初球」と「この一球で決める初球」では、質が違います。立ち話は5分ほど。それでも、親身になって答えてくれたのが、すごくうれしかった。迷いが消えると、再び白星を重ねることができました。終わってみればチーム最多の12勝を挙げ、18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一に貢献することができたのです。あのとき、勇気を振り絞って岡田監督に悩みを打ち明けて本当に良かったです。
最初の電話で抱いた岡田監督へのイメージは、日に日に変わっていきました。同じユニフォームを着て戦う中で、選手をすごく大事にして、一人前に育てようとしてくれているのだということを感じました。それは選手一人ひとりの誕生日も頭に入っているのでは、と思えるほどでした。さりげないけれど、ちゃんと見てくれていた――。
起用法にも、きっとメッセージが込められていると感じました。ここで降板するのか続投するのか、もう1イニングいくのか。いろいろな使われ方がありましたが、すべてに監督の意図や狙いがあるはず。毎試合、その采配の背景の部分をすごく考えていました。
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