NPB12球団には、それぞれの戦力事情がある。補強は外国人、トレード、FAとあるが、育成力が試されるのはドラフト。今年は1位候補が固まらず、分散傾向により、各チームのカラーが出る可能性もある。 12球団が腹の探り合い
※△は投手は左投げ、野手は左打ち、□は両打ち
ドラフト対象選手だけでなく、NPB各球団の編成&スカウト担当にとっても10月20日は「運命の日」である。プロ関係者からすれば1年間、全国津々浦々を視察してきた総決算の日。ドラフトとは人と人との縁であり、当日まで、何が起こるか分からない、数々の人間ドラマが潜んでいる。
「今年は難しいですよ。私にもどうなるか、想像もできない」
各チームの幹部に「2022年の傾向」を聞けば必ず、この返答がくる。何が難題なのかと言えば、1位指名候補選手を絞り込むのが大変なのだ。例年であれば、スカウト会議ですんなりと上位候補がリストアップされるものだが、今年はそうもいかないようである。だからこそ、12球団同時入札である、1位の第1回入札はより慎重にいかなければならないという。
言うまでもなく、一人の有力選手に複数球団が重複すれば、抽選が行われる。ある球団幹部は、眉をひそめる。
「外したら、大変なことになります。序列をつけていますが、2番目ぐらいに挙げる選手はおそらく、他球団も第1回入札か単独指名をしてくるでしょう。そこで3番目くらいの選手を第2回で入札しますが、ここでも競合する可能性もある。そこでも外したら、言葉も出ません。一方で補強ポイント優先の分散傾向で、各球団のカラーが出るかもしれません」
つまり、確実に獲得するために、1番目はあきらめ、2番目相当の選手を繰り上げるという選択肢だ。しかし、同じような戦略で他球団と重複してしまえば、目も当てられない状況になってしまう。やはり、ここで後悔しないためにも、1番目を競合覚悟で入札するのが正攻法か。挑戦した上での失敗であれば、当該チームのファンも納得する。一本釣りになれば、儲けものなのである。
しかも、悩みどころが「1位候補」と言われる大学生、社会人の有力選手が、このドラフト直前になって、なかなか調子が上がってこない。頭を抱えるスカウトを、何人も見てきた。とはいえ、スカウトとは1年間を通して視察しており、素材、将来性を見据えてチェックする。いくら、この時期に調子を落としていると言っても、その内容を「最終ジャッジ」とするのは、あまりに尚早なのである。
即戦力重視なら社会人投手
さて、2022年の「顔」は高松商高・
浅野翔吾だ。
巨人が9月28日のスカウト会議で1位指名を“公言”。ある球団幹部は「夏までは1位候補だったが、夏を経て1位競合になった」と成長を認めた。第1回1位入札で複数球団が重複するのは、ほぼ確実と言える。10月10日には
ソフトバンクが誉高・
イヒネ・イツアの1位指名を公表した。
浅野以外に12球団同時入札で競合候補は4人。日体大・
矢澤宏太は投げては最速152キロ、野手では50メートル走5秒8という抜群の身体能力を武器に、シュアな打撃を見せる投打二刀流だ。大卒3年目右腕の東芝・
吉村貢司郎は「即戦力」という観点ではNO.1。151キロ左腕の白鴎大・
曽谷龍平の潜在能力も評価され、1位でないと獲得できないレベル。また、大阪桐蔭高・
松尾汐恩は強肩強打の「打てる捕手」であり、捕手補強を最優先に考えている球団は獲得したいはずだ。
2023年の戦力として安定感を求める社会人右腕であれば、大阪ガス・
河野佳、東京ガス・
益田武尚、トヨタ自動車・
吉野光樹を一本釣りする選択肢もある。大学生右腕では立大・
荘司康誠、専大・
菊地吏玖、富士大・
金村尚真の単独指名も狙い目かもしれない。左打ちの外野手は早大・
蛭間拓哉が筆頭格である。
また、高松商高・浅野の抽選を外した球団は中大・
森下翔太を1位に繰り上げる可能性もある。左打者では中京大・
澤井廉のパンチ力も注目。また、高校生の「将来性」にかけるのであれば、京都外大西高・
西村瑠伊斗のパンチ力は出色と言える。また、日本文理高・
田中晴也、盛岡中央高・
齋藤響介は入団後の育成次第で、将来のエース候補が期待される。
2022ドラフトの選択手順
・ドラフト会議(育成ドラフトを含む)で選択することができる合計数は120人以内。ただし、外国のプロ野球選手や国内の独立リーグ所属選手を選択した場合は、その人数に含まない。
・1球団は10人まで指名可能。ただし、他球団がすべて選択終了し、全体で120人に達していない場合は、11人目以降の指名も可能になる。
・ドラフト会議を終了時点で指名選手が合計120人に達していない場合、引き続き希望球団参加による「育成選手選択会議」が行われる。
・2巡目以降のウエーバー順(球団順位の逆順)のリーグ優先権は2019年からセントラル・リーグとパシフィック・リーグが1年おきに交互に変更させることになったため(19年はセ、20年はパ、21年はセ)、22年はパ・リーグがウエーバー優先権を得る。
・1巡目指名は入札抽選。全球団が選択を希望する選手名を入力。単独指名の場合は選択が確定し、指名が重複した場合は抽選で決定する。抽選に外れた球団は、再度、用紙を提出し、同様の方式で全球団の選択が確定するまで繰り返し行う。
・2巡目の指名はウエーバー順で行い、3巡目の指名はその逆順、以後交互に折り返す。
『週刊ベースボール』2022年10月24日号(10月12日発売)より