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真夏の祭典いざ開幕! 第95回都市対抗野球大会

<CLOSE UP TEAM>ヤマハ(6年連続45回目・浜松市/東海第1代表) 常勝軍団への道【前編】

 

昨年は決勝進出も同地区のトヨタ自動車に敗れた。あと一歩届かなかった、34年ぶりの頂点を今夏こそ──。新指揮官の下、確かな手応えとともに大会を迎える。
取材・文=杉園昌之 写真=兼村竜介、BBM

主将・川邉健司


 昨夏、準優勝の白獅子旗を東京から浜松に持ち帰ると、地元の反響は予想以上だった。33年ぶりの決勝進出に沸き返り、会社は熱気であふれていた。昨年12月、スカウト兼総合コーチから昇格した申原直樹新監督(中大)はしみじみと話す。

「勝てば、社員のみんなにも喜んでもらえます。ヤマハ野球部は多くの人たちに応援されています。選手たちにも『感謝の気持ちを持たないといけない』と話しているんです」

 45歳の指揮官は大学卒業後、ヤマハで4年間プレーし、その後は社業に専念してきた。だからこそ、応援する側の社員の思いも、よく分かるという。昨年、コーチとして12年ぶりに現場に戻ったばかり。今季は周囲の期待を今まで以上に感じている。新体制がスタートするときには、選手たちとともに大きな目標を掲げた。東京ドームで5試合戦い、最終的には全国の頂点に立つ──。前回大会の快進撃を一過性のもので終わらせるつもりはない。申原監督は選手たちの前で新たな決意を口にした。

「常勝軍団になる1年にしよう」

 新チームの始動から徹底しているのは、相手の嫌がる野球の実践だ。かつては打ち勝つスタイルを貫いていたものの、その姿も今は昔。全国大会で勝ち抜くことを見据えて、足と小技を絡めた攻撃は昨季から継続し、バントやエンドランの精度向上に余念がない。そして、今季は守備の強化にも力を注ぐ。投手陣には制球力を重視させ、四死球を減らすことを求めている。すると、春先から着実に成果は出てきた。JABA京都大会、東北大会ではいずれも決勝進出。序盤に点を取れなくても、粘り勝てるようになってきた。指揮官は手応えを口にする。

「京都ではトヨタ(自動車)を下し、東北ではENEOSを倒せました。強豪に勝てたことで、成長を実感しています」

チームを率いる申原直樹監督。中大時代は阿部慎之助[現巨人監督]の1学年後輩で4年時に主将を務めた


 5、6月の東海地区二次予選では新チームの真骨頂を発揮する。3回戦、代表決定戦と2戦連続のサヨナラ勝ち。控え捕手でベンチに入り、仲間を鼓舞した主将の川邉健司(明大)は、バッテリーを中心とした守備の粘りがあってこそ競り勝てたという。

「1球のミスも許されない場面で投手は思い切り投げ込めていたし、代表決定戦の勝負どころで新人の西村進之介(専大)が攻めた守備でアウトにできた。若手にあのようなプレーが出ると、勢いがつきます。今後にも生きてくると思います」

 勝負強さが増した投手陣をけん引しているのは、入社4年目の佐藤廉(共栄大)。今季は副キャプテンに就任し、「結果にこだわる」と意気込む。予選ではチーム最長の16回1/3を投げて4失点に抑え、エースの働きを見せた。申原監督の要求にも応え、四死球はわずか1。向上させたのは制球力だけではない。春から大胆にフォームを変え、直球に磨きをかける。きっかけはオフシーズンに1カ月間参加したアジアウインターリーグだった。台湾で一緒になったJR四国の近藤壱来投手(鳴門渦潮高)に投げ方からトレーニング方法まで聞き、冬から実践しているのだ。

「セットからワインドアップに変えたんです。以前は変化球主体でしたが、今は直球主体の組み立てに変わり、真っすぐで三振も取れるようになってきました」

 球速は1キロアップしただけだが、球威は増したという。春以降、最速146キロの力強い直球は武器になっている。ひと皮むけた左腕は、前回大会の雪辱を果たすことを誓う。

「チームは準優勝しましたが、個人的には悔しい大会でした。4試合に登板し、先発は1試合だけ。しかも、すぐに降板してしまって……。今年は自分で勝てるようにしたい」

投手陣は佐藤廉を中心に戦う


 心掛けているのは、力まず投げること。気負い過ぎて失敗した昨年の反省を生かし、肩の力を抜いている。

「完封でなくてもいい。7回2失点くらいの気持ちでいきます。3点くらいは野手が取ってくれるので」

 打線のキーマンとして、指揮官が期待を寄せるのは中軸を務める『1997年生まれトリオ』。三番に入る元DeNA網谷圭将(千葉英和高)は今季、長打率7割超を誇り、JABA京都大会では3本塁打。前回大会でも東京ドームでアーチをかけた主砲は今年も健在だ。

打線は前大会でも豪打発揮の網谷圭将を中心に戦う


 四番を務める捕手の大本拓海(立命大)は予選こそ快音はあまり聞かれなかったが、本戦に向けて1球で仕留める練習に励んでいる。「状況に応じてかえすところ、つなぐところを考えて打席に立ちたい」と言葉に力を込める。

 一方、予選4試合で14打数7安打と大車輪の働きを見せたのが、五番の永濱晃汰(東北福祉大)。一時期は副主将の責務が重圧となり、空回りもしたが、原点回帰で復調した。「守備からリズムを作り直したら、打撃も良くなりました」と笑みをこぼす。昨年、都市対抗で初めてスタメン出場を果たし、準優勝に貢献して自信をつかんだ。ただ、本戦を直前に控えて、あらためて挑戦者として臨むことを自ら言い聞かせていた。

「昨年、決勝で負けた悔しさもありますが、まずは初戦に勝たないといけない。そこで勝てば、勢いに乗れるチームだと思います」

31歳のベテラン・秋利雄佑[写真右]。前大会決勝では9回に意地の一発を放った


 90年以来となる4度目の優勝を目指し、地に足をつけて戦うつもりだ。一戦必勝の先に黒獅子旗がある。

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