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小林誠司選手のバッティングは本物か【立浪和義の「超野球論」】

 

写真=小山真司


ライバル登場で危機感


 今回は巨人の捕手・小林誠司選手のバッティングについて書いてみたいと思います。

 昨年までは2年連続で規定打席到達者中、打率最下位でしたが、今季は5月に入り、やや調子を落としているとはいえ、4月下旬には打率3割7分台で打率リーグトップにも立っていました。本当に別人のようです(5月6日現在は.324)。

 好調の要因については、メンタルと技術の両方の理由がありますが、どちらか一方というより、2つがうまくかみ合った結果だと思います。

 まずメンタル面から挙げていきます。小林選手は、もともとスイングスピードも速く、バッティングの能力が劣っているタイプではありません。ただ、昨年までは守備、特に投手のリードでいっぱいいっぱいとなっていたのか、バッティングにあまり集中できていなかったようにも見え、もったいないなと思っていました。

 八番打者とはいえ、彼が打つか打たないかでチームの得点力は大きく変わります。おそらく、キャンプから首脳陣にいろいろ言われていたと思いますし、今季は故障で出遅れていますが、昨季後半の宇佐見真吾選手の台頭、さらにドラフトでもチームが捕手を多数指名したとあって、小林選手の中に危機感が生まれたのではないでしょうか。ある程度、先が見えているベテランとの競争ではなく、若手との競争で負けたら、出番自体がなくなってしまう可能性もあります。しかも、今季はオープン戦でまったく打てず、開幕からは新人・大城卓三選手がスタメンマスクをかぶって巧打を見せた試合もありました。

 要は、お尻に火がついた状態になったわけですね。

 また、ファーストストライクから積極的に打ちにいっている印象もあります。昨年はカウントを悪くした挙句、難しい球に手を出すこともよくありました。ただ、これは意識の変化というより、好調を維持し“乗っている”からこそ、と言えるかもしれません。

間、割れ、軸回転


 ただ、バッティングというのは気持ちだけで継続して打てるものではありません。当然、技術的な裏付けもあります。

 今季の小林選手は、構えからゆったりとしています。そこから足を上げ、腕を引いてトップに持っていくところまでは昨季と大きく変わってはいませんが、今までは、そこからバットを出していくのと、上げた足を地面に着けていく動きが、同じタイミングでした。このスイングだと、体が投手側に突っ込んでしまいがちで、真ん中から内寄りの甘い球は打てても、外寄りの逃げる球は、ヤマでも張らない限り、空振りか当てるのがやっとですし、内側の速い球にはどうしても差し込まれます。

 17年は、WBCで海外の投手からあれほど打ったではないか、と思われる方もいるかもしれませんが、短期決戦で情報もない中、相手チームは下位打線の小林選手には、厳しいコースというより、コースは甘くなってもいいから強い球と考えたはずです。小林選手はスイングスピード自体は問題ありませんから、これをしっかり弾き返したわけです(もちろん、大舞台でより集中していたとも言えますし、持ち味の思いきりのよさが、いいほうに出た結果です)。ただ、レギュラーシーズンでは相手チームも小林選手の欠点は分かってますので、そこをしっかり攻められたということです。

 それが今季は、足を上げてから、ステップして足が着くまでに「間」が作れるようになった。さらに踏み出してもグリップが残り、いわゆる上半身、下半身の割れができてます。割れを作ることで、ステップした足のつま先とバットのグリップの距離を大きく取れ、力強いインパクトにつながります。かつ軸回転のスイングがしっかりできていますね。外に逃げる球に対しても、体が残っているので、しっかりボールを呼び込み、軸回転のスイングで右方向に強い打球を打てるようになりました。

 間、割れ、軸回転。シンプルですが、私が現役時代、打撃で一番大事にしてきた3点です。

 ただ、小林選手は1年間を通して結果を出したことはありませんし、これから調子を落とすことは必ずあるはずです。そのとき、あれこれ考え過ぎて自分のバッティングを見失うと、スランプはどうしても長くなってしまいます。迷ったときこそ原点に戻り、バッティングをシンプルに考えることが大切です。それが、私が現役時代にやっていたスランプを長引かせない方法でもあります。

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