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野村克也が語る「大谷翔平」

 

ここまで来たら、大谷にはメジャーで二刀流を貫いてほしい/写真=Getty Images


誰もやらないことをやるのが真のプロ


 大谷翔平(エンゼルス)がメジャー・リーグでも、二刀流で異彩を放っている。中には、『ベーブ・ルースの再来』と呼ぶ声もあるようだ。ベーブ・ルースといえば、83歳の私が生まれる前に全盛期を送った選手。そんな大昔の選手の名が比較対象として出てくるのだから、二刀流がどれほど難しいことか分かる。

 大谷の二刀流に対し、私の考えはこれまで揺れてきた。最初は、「二兎を追う者は、一兎も得ず」という結果になってはもったいないと思い、反対した。160キロの速球は、われわれ凡人がどんなに努力しても叶わない、天性の素質。まずはピッチャーでやってみて、それからバッターに転向しても、決して遅くはないだろうと考えたのだ。

 しかし、大谷の投打にわたる活躍と謙虚な姿勢を見るにつけ、二刀流を応援したくなった。過去(日本人は)、誰も本格的にやっていない二刀流は、あまりに魅力的。監督の立場でも、やらせてみたくなる。

 メジャー・リーグ移籍後も二刀流を貫き、活躍しているのは大いに喜ばしいことだ。人がやらないことをやるのが、プロ。チームが大谷に良い環境でやらせてやろうと気を使ってくれているのも、よく分かる。これからも続けていけばいい。

 ただ一方で、『メジャー・リーグ』そのものに対する複雑な思いはぬぐえない。私の現役時代、メジャーは到底手の届かない、夢の存在だった。あの王貞治(巨人=現ソフトバンク会長)でさえ、「メジャーでは通用しない」「せいぜいホームラン25本くらい打てればいいほうじゃないか」と言われていた。

 その後、メジャーはエクスパンションでチーム数が約2倍に増え、レベル低下の危機に瀕している。昔なら3Aクラスの選手が、メジャーでプレーするようになったためだ。片や日本野球のレベルは上がり、メジャーのTV中継の普及などで、ますます両者の距離は近くなった。

 そういった事情を慮っても、二刀流の日本人選手がメジャーで四番を打つなど、考えられない。メジャーどころか、メジャメジャ(目茶目茶)だ。ただでさえ、アメリカのメジャー人気に陰りが見えているという時代。大谷の活躍に、「なんだ」と思う本国のファンも多いのではないか。

かつては『三刀流』に『野村シフト』も


 以前、この連載でも触れた大谷の逆方向へのホームラン。メジャーでも相変わらず、レフト方向への一発を飛ばしていた。これも常識破りの異才である。ホームランバッターは、総じて引っ張るもの。だから、『王シフト』も生まれたわけだ。内野陣は右方向にシフトし、サードはショートの定位置に。外野もセンターが右中間へ、レフトがセンターの定位置やや左にまで寄った。

 当然、三塁線はがら空きだ。そこで王は左方向へ、安打狙いのバッティングを試みた。ところが慣れないことをしたものだから、バットのヘッドが早く返ってしまい、ボテボテのピッチャーゴロになった。以降、王シフトは無視し、自分のバッティングを貫いたそうだ。

 実は私も王より前に、阪急戦で『野村シフト』を敷かれたことがある。外野に4人置き、一、二塁間が空いていた。ファーストはもう、セカンドの位置にいる。そこに向かってバントをしたくなってしまうが、それをやってしまっては相手の思うツボ。ホームランを打たれたくないがための、シフトなのだ。ヒットが1本出ても、相手にとっては想定内。それにうっかり乗って、自分のバッティングを崩しては元も子もない。

 大谷もメジャーで『大谷シフト』を敷かれながら、物ともせず対応している。メジャーでシフトを敷かれるだけでも大したものなのに、シフトの逆を突く当たりも飛ばしているようだ。向こうの連中はあまり打つとビーンボールを投げてくるイメージがあるのだが、今は大丈夫なのだろうか。ビーンボールをほうられ出したら、何かと危険だ。

 当たったときの心配はもちろん、それ以上に、近めの球に恐怖を感じて腰を引くと、向こうのペースになってしまう。ましてや「怖がり」というレッテルを貼られては、余計インコースに来るだろう。勇気を持って対応しなければならない。

 ところで今回も、当コーナーの編集者が面白いことを言ってくれた。

「野村さんは南海時代、監督・四番・キャッチャーの『三刀流』を毎日こなしていたわけですよね。登板前の休みがある『二刀流』よりずっと大変だったんじゃないですか?」

 まあ、確かに指揮官、攻撃の中心、守りの要と、野球の大事な部分を同時に、連日受け持っていた。『一人三役』と言われてきたが、『三役』じゃあ安っぽく、インパクトが弱いのかな。今の若い皆さんに理解してもらうためにも、今後は『三刀流』と呼び名を変えてもらおうか。

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