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日本シリーズは「先手必勝」が重要だ。ただ94年は初戦の敗因を生かして日本一に【堀内恒夫の多事正論】

 

1994年の日本シリーズで2勝を挙げ、MVPに輝いた巨人・槙原/写真=BBM


「日本シリーズは第2戦重視」

 一体、いつから誰がこんなことを言い出したのだろうね。最大7試合しかない短期決戦で、初戦を重視しない監督がどこにいる? 短期決戦で勝利するためのセオリーは「先手必勝」しかありませんよ。「第2戦を重視する」なんて、私から言わせてもらえば、初戦を落としたチームの負け惜しみでしかない。

 第2戦を重視する人によると、初戦の先発にコントロールのいい投手、例えば老かいな投球をするベテラン投手などを起用して、打者の特徴、ツボやウイークポイントなどを探らせて、第2戦以降への攻め方のヒントにするというのだ。しかし、そんな「打者を見る」ほどの能力を持った投手が、今の球界にいるかね。

 大体、今は昔と違って、スコアラーが収集してくるデータはビデオを含めて非常に膨大な量で、シーズン中からBS、CS放送などで全球団のゲームも見ることができる。おまけに交流試合もあって、選手の特徴は選手自身が把握できる。いまさら「初戦の先発投手が、打者のデータを集めて……」などという前時代的なことはやる必要がないのだ。

 しかしながら、初戦の先発投手の投球内容が、2戦目以降の投手の参考になることはある。私にも思い出がある。1994年の日本シリーズだ。あの「10.8決戦」で中日に勝って、リーグを制覇した年だ。

 巨人は西武とのシリーズの初戦(東京ドーム)、3本柱の1人、桑田真澄を先発に起用した。しかし、清原に先制アーチを打たれるなどKOされ、リリーフ陣も西武打線にめった打ちを食らって、0対11で大敗した。ショックが残る試合後のミーティング、投手コーチだった私は桑田を指名して選手の前で話をさせた。「どうやったら打たれたのか」をテーマにさせた。桑田はいろいろと話をした後、最後にこう締めくくった。

「僕は打たれてしまいましたけど、マキ(槙原寛己)さんは打たれないでしょう」

 結果は? 第2戦(同)。槙原は西武打線を4安打に抑えて工藤との投げ合いを制し、1対0で勝った。このシリーズ、接戦を3試合ものにした巨人は4勝2敗で西武を下し、日本一の座に就いた。先手を取れなかったが、初戦の敗因をよく分析して2戦目以降の戦いに生かした数少ない例かもしれない。ちなみに、このシリーズのMVPには、2勝を挙げた槙原が輝いた。

 要は、偵察隊が持ってきた相手チームのデータを、自分で取捨選択すればいいのだ。たくさんのデータの中から、投手なら自分の投球スタイルに合ったものを選べばいい。絶対に打たれてはいけない打者、調子づかせてはいけない打者を徹底マークして“逆シリーズ選手”にする。それが投手陣の役目だ。初戦の先発投手にそれができれば、チームは一気に勢いづくはずだ。

 短期決戦では、万全の準備をしてきても調子が上がらないまま終わることがある。やってみなければ分からない「出たとこ勝負」のような面もあるのだが、うまくスタートすれば、そのまま波に乗る可能性も十分にある。だから、チームとしては「先手必勝」が大事なのだ。そういう思いで、今年の日本シリーズを見守りたい。

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