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捕手出身の矢野監督就任にオレは期待感を持っているわ【岡田彰布のそらそうよ】

 

オレの監督時代の正捕手として05年の優勝にも貢献してくれた矢野が阪神の新監督になった。捕手出身だけに期待感はオレの中で大きいよ/写真=早浪章弘


矢野阪神新監督はブレない方針を示すべき


 ひと昔前……といっても10数年前。当時のセ・リーグはまさに“3強時代”やった。阪神、巨人中日。常に優勝争いを続け、この3球団がAクラス。現在の広島1強時代とは違い、ライバル意識はホンマ、相当やった。

 特にオレが阪神の監督のころ、中日は落合(落合博満)さん、巨人は原(原辰徳)監督で、オールスターでよく顔を合わせた。控室で3人だけの時間、冗談を言い合って、顔では笑っているけど、実は腹の探り合い……。こんな駆け引きもおもしろかった。

 そんな時代は、時を経て、大きく様変わりして、今オフ、激変することになった。3球団とも監督が代わる。常勝チームからの転落により、この3チームは長期低迷期に入った。そして監督交代劇……。ホンマ、時の流れの非情さを感じずにはいられない。

 その3チーム。まずは阪神やけど、金本(金本知憲)監督の突然の辞任よ。事実上の解任と報道されているが、オレには詳しいことは分からない。ただ辞任から2日後、矢野(矢野燿大)新監督に就任要請をした事実からすれば、最初から球団はこの流れに決めていたんやろな……と思うわけよ。

 最下位チームの監督を引き受けた。矢野監督は大変やと思う。でも矢野監督なら、という期待感をオレは持っている。それは矢野監督が捕手出身という点。オレの持論というのが、捕手、内野手と外野手とでは野球観に違いがあると感じている。例えば、試合中。ピンチを迎え、監督、投手コーチがマウンドに。そのとき、捕手、内野手は指導者の話を間近で聞いている。外野手はそのとき、輪が解けるのを待っている。この違いが大きい。何を話して、何を授けるのか。ギリギリの状況での経験は、いずれ指導者になったとき、必ず生きるとオレは信じている。

 そういう意味では、矢野監督は現役時代から多く経験している。あえて“矢野”と書くけど、2003年、05年のリーグ優勝時は、チームに大きく貢献してくれた。特に思い出深いのは05年やな。捕手・矢野はホンマ、慎重に投手陣を引っ張ってくれた。リードでいえば、安全運転。冒険をするタイプではなかった。慎重に攻めていくタイプで、ベンチには安心感があった。これはホンマ、ありがたいことやった。

「なるように、なれ」では困るわけよ。捕手のこういうタイプは、ベンチは困る。その点、矢野は違った。配球に迷いがあれば、ベンチを見て、アドバイスを求めてきた。悪いことではない。安全に、安全に……、本当に優等生の捕手やったと振り返ることができる。

 時を経て、今回の監督就任……。コーチ、二軍監督と指導者歴を積んだ。これも大きい。さらに今年、ファーム日本一に導いた。「超積極野球」をテーマに、どんどん盗塁させた。ファンの皆さんも、来年のタイガースに、こういう姿を期待すると思う。でもオレは「ちょっと待った!!」と言いたい。この超積極性は、二軍だから可能やったとも言える。一軍ではどうだろうか? やっぱり一軍と二軍のレベルの違いを認識するしかない。どんどん盗塁を試み、成功するほど甘くはない。ハードルは高いとしか言いようがない。

 矢野新監督もそれは分かっているはずで、二軍と同じような野球はしてこないと思う。ただし、姿勢だけは失わないようにしてもらいたい。何せ最下位のチームなんよ。思い切ったことを考えないと、立て直しは困難。理想と現実の間で、いろいろと悩むだろうけど、ブレぬ方針をしっかりと示すべき。オレは新監督に、それを求める。

与田中日は投手陣を整備すれば戦える


 次に巨人だが、いよいよ原監督。3度目の登板に決まった。球団として、相当な危機感、焦りがあると思う。阪神とともに、巨人は常に強くないと……という環境。それが優勝から遠ざかっている。ならば経験豊富で、実績十分の原辰徳に頼るしかない。3度目登板の背景はそこだろうが、現状の巨人には強みが存在する。エース・菅野(菅野智之)と四番・岡本(岡本和真)よ。エースと四番という軸がしっかりしている。これは強い武器だし、来年も大丈夫だろう。骨格がしっかりしているなら、あとは肉付けよ。それには原監督の柔軟な采配があれば、対応できる。

 学生時代からよく知る間柄やし、現役時代も監督のときも、シノギを削った。特に08年シーズン。13ゲーム差をつけながら、最後に原巨人の猛追に屈したことは、いまも忘れられない。あのときの巨人の強いこと。ホンマ、驚異的やった。あの姿を再現させる。原監督の手腕なら、可能性は十分とオレは考えている。

 あとは中日。まあ、そろそろ人気のあるOB監督を望んだんやろうね。落合さん、谷繁(谷繁元信)、森(森繁和)さんと続き、OB監督をファンも熱望していたはず。そして、与田(与田剛)新監督就任となった。彼が阪神に移籍してきたころ、オレは二軍監督、その当時、かつてのスピードはなく、ほとんどが二軍暮らしやったな。はっきり言って、そんなに強い印象は残っていない。深い付き合いもなかった。

 それが今回の新監督就任。オレは中日というチームには、やっぱり強いイメージがこびりついている。落合さんの時代のイメージなんやけど、成績ほど悪いチーム力ではないと思っている。特に打線に関しては、今年は外国人が機能し、若手、中堅も力を伸ばしてきていた。要は投手陣やろうな。今後、どんな補強をするのかということと、与田新監督の投手出身らしい采配がポイントやと思う。投手陣さえ充実させることができれば、十分に戦える。新監督への期待はそこにある。(デイリースポーツ評論家)

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