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イチローの独特の雰囲気【川口和久のスクリューボール】

 

たたずまいから雰囲気を感じる選手だった


巨人なのに悪役?


 今年は久々にメジャーの開幕戦がある。まだ分からないけど、マリナーズの一員としてイチロー菊池雄星が、来日するはずだ。

 イチローも、もう45歳か。すごいな、こんなに長く、しかもメジャーでやってきたんだからね。

 彼と俺の現役時代の真剣勝負は3打席だけ。1996年の日本シリーズだ。あの年、俺は巨人移籍2年目だったけど、年齢や疲労の蓄積もあって先発で結果が出せず二軍落ち。以前も書いたが、そこから宮田征典コーチと一緒にピッチングを一からつくり直し、リリーフとして復活した。

 巨人が“メークドラマ”と言われ、大逆転優勝を飾ったシーズンだけど、俺は後半戦だけだが、それなりに貢献できた。当時の長嶋茂雄監督も、それを認めてくれて、10月6日、胴上げ投手に指名してくれたんだと思う。

 ただ、そこまではムチャクチャすごい祝福を受けたが、日本シリーズは雰囲気が一変した。相手はオリックス・ブルーウェーブ。人気球団の巨人が、あのとき、特に神戸では、完全に悪役だった。

 前年の95年、オリックスは、阪神淡路大震災で大きな被害を受けた本拠地神戸のために「がんばろうKOBE」を掲げて優勝も、日本シリーズでは、ヤクルトに敗れた。この年は「今度こそ日本一」というのが、選手だけじゃなく、ファン、さらに一般の人たちにもあった。

 巨人のコーチ時代の2013年、東日本大震災の2年後に楽天と日本シリーズをやったときみたいな雰囲気だったな。

 昔は球場も殺伐としていたから俺もヤジられたりというのは、別に気にならなくなっていたんだが、神戸の試合は、何だか「勝っていいのかな」みたいな気持ちになったのを覚えている。

俺は抑えたよ


 オリックスの印象は外野守備だね。ライト・イチロー、センター・本西厚博、レフト・田口壮のときは、冷戦時の東西ドイツを分けた「ベルリンの壁」みたいに堅い。絶対に右中間、左中間は抜けないって思って見ていた。

 打者ではイチロー。3年連続首位打者で、左対左だから、対戦はあるかなと楽しみにしていた。実際の対戦では超一流選手ならではの雰囲気があったね。いつの間にかイチローの間(ま)、リズムになってしまうというのかな。構えもふところが深いからインコースをさばけ、バットコントロールがいいから外角の球にも届き、低めの球も拾え、穴がない。

 俺が考えたのは、いかに詰まらせるか、だった。芯に当てるのがうまいが、パワーがないから詰まったらファウルか凡打になる。詰まらせるためには当然、インコース。ただ、彼は左対左も苦にせず、インコースも、うまく体を回転させてフェアゾーンに運ぶ技術があった。同じ左でもゲンちゃん、河野博文は打たれまくったしね。

 だから、俺は思い切り腕を振り、球威で勝負しようと思った。落合博満さん(元巨人ほか)が「コントロールがいいピッチャーほど打ちやすい」と言っていたことがあるけど、イチローもそう。難しい球を打っている印象があるかもしれないけど、テレビの映像が、そういうシーンをまとめるだけ。ストライクを取りにくる甘い球を逃さないバッターだった。

 ただ、インコースでもインローは、距離があるから芯で打つことができる。だから結局、基本とも言えるパターンだけど、インハイとアウトローのコンビネーション。まず打者有利のカウントでは手を出さないアウトローでファーストストライクを取り、インコースのシュート系、ストレート系でファウルを打たせて追い込む。結果は3打数で1安打だったけど、その1本も投安で、俺は完ぺきに抑え込んだと思っている。

 ただ、抑えはしたけど、驚異的な動体視力、バットコントロールのうまさは記憶にあるな。今はメジャーの開幕戦が、楽しみなような怖いような気持ちだ。衰えたイチローなんて見たくないしね。あの年齢で1年の実戦のブランクはかなりきついはず。でも、俺は、96年のイチローが打席で放っていた、何かやりそうな雰囲気を今も感じてる。

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