週刊ベースボールONLINE

プロの目が見た野球の「深層」。吉田正尚選手の好調の秘訣【立浪和義の超野球論】

 

8月の打撃は圧巻だった


体ではなくバットを振る


 9月に入って少し勢いが落ちましたが、8月は月間打率.430と打ちまくり、9月16日現在打率.358でパ・リーグのトップにいるのが、オリックス吉田正尚選手です。

 入団5年目ですが、2年目以降、コンスタントに打率3割台を残し、昨年は29本塁打と長打力もアップしています。ライナー性の打球が多くホームランバッターというタイプではありませんが、さまざまな可能性を秘めた選手だと思います。

 身長は173センチと上背はあまりないものの、ウエート・トレーニングで鍛え上げた筋肉はユニフォーム越しでもはっきり分かります。あのパワーでのフルスイングは、見ているだけで、ワクワクしますね。これまでは故障が多いイメージもあったのですが、今年は大きな故障もなく、調子の波も小さくなってきたようです。

 技術的には、これまでも強いスイングができていたのですが、体で振っている印象もありました。特に状態が落ちているときは、むきになって、さらに余計な力が入り、スイングのバランスを崩してしまっていました。

 今年はボールを呼び込む間があり、体ではなく、バットが振れ、ヘッドが走っています。力のある若手選手ほど勘違いしやすいのですが、体を振ると、自分では力感を感じるかもしれません。しかしインパクト時のスイングスピードはむしろ落ちてしまい、余計な力が入っている分、頭が動いて目線がぶれたりします。

 今年の吉田選手は、それがなく、しっかり自分のポイントでスイングしているので、三振も激減していますし、ここぞの場面での確率が上がり、得点圏打率も高くなっています。

シンプルなスイングを


 一方で少し心配なのが、ソフトバンク柳田悠岐選手です。現在の好成績で何が心配なのか、と怒られそうですが、柳田選手は、私から見ると、非常に難しいスイングをしています。

 あのスイングスピードは、誰にでも真似できるものではありませんし、フィジカル的にも技術的にも非常に高いものがあるのは分かります。ただ、あのスイングだと、疲れがたまったり、さらに言えば、これから少しずつ感じてくると思いますが、年齢を重ね、体のキレが落ちると、なかなかうまくいかないときが必ずあります。打撃の波というのはどの打者にもありますが、それで焦ってしまい、フォーム全体のバランスを崩してしまうと、不振が長引く可能性もあります。

 バッティングは奥深いものですが、同時にシンプルなものでもあります。柳田選手の豪快なスイングをずっと見ていたいとも思いますが、もう少し楽なスイングをそろそろ試してみてもいい時期なのかな、とも思います。

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング