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毒舌評論家の本音 江本孟紀(野球評論家)「原辰徳こそ歴代屈指の名監督である」

 

巨人の優勝が着々と近づいている。独走の要因は何か?それは言うまでもなく、指揮官の監督力である。江本孟紀氏は言う。原辰徳監督を名将と呼ばずして、一体誰を名将と呼ぶのか、と。
取材・構成=牧野 正 写真=BBM

6月19日に阪神を東京ドームに迎えての開幕戦。原監督にとって監督14年目のシーズンが始まり、この日、記念すべき球団6000勝を達成した


原監督が名将と呼ばれない理由とは?


 今年のセ・リーグは120試合制の短期決戦でもあり、もっと競るかと思っていましたけど、巨人の独走でしたね。ほかの5球団は何をやっていたのかと言いたいところですが、結局は監督の差なんですよ。そう思いません? 決して巨人の戦力が抜けていたわけではありませんから、これはもう原監督の采配に尽きますよ。高橋由伸監督から引き継いで、これで2年連続の優勝ですからたいしたもんです。今年はV9を達成した川上哲治監督の監督通算勝利数1066勝を抜いて巨人歴代1位になりましたし、これで自身9回目の優勝ですから、もう立派な名将と言っていいでしょう。

 しかし、それでも世間はまだ原監督を名将とは見ていないところがある。これが実に不思議なんです。おそらくノムさん(野村克也、元南海監督ほか)とか落合(落合博満、元中日監督)のほうが名将だと思い込んでいるのでしょう。プロ野球にさほど関心がない方ならともかく、プロ野球に詳しいファンまでそう思っているフシがある。いい加減、認めなさいと(笑)。

 成績を比べたら一目瞭然ですよ。ノムさんが何回優勝しました? 落合もそう。名将というのはチームを優勝させることが仕事で、それ以上でも以下でもない。弱いチームを底上げしたとか、毎年優勝争いに加わるチームにつくり変えたとか、そんなことはさほど関係ないんですよ。ましてや人間性はどうでもいい。名将の基準はどれだけチームを優勝に導いたか、この1点なんです。原監督は今年で通算14年目で9度の優勝になりますから、ノムさんや落合、あるいは星野(星野仙一、元中日監督ほか)さんなんか、とても足下に及ばない立派な成績です。しかも昨年までの1シーズン当たりの平均勝利数79は、歴代トップの監督勝利数を誇る鶴岡一人(元南海監督)さんの77、また川上さんの76を超えているんだから、これを名将と呼ばずに誰を呼ぶのか教えてもらいたい。

名将のイメージが強い野村監督[右]と星野監督だが、原監督の成績には及ばない


 理由は想像がつくんです。まず顔つき(笑)。原監督は見るからに爽やかでしょう。苦労を知らなさそうな顔をしている。名将と言うのはもっと難しいというか、何か常に考え込んでいる、ひねくれた顔つきをしている印象が強いイメージがある。巨人一筋のエリート街道まっしぐらなところも名将っぽくないんでしょうね。原監督を挫折知らずの“おぼっちゃん”と思っている人がいまだに多い。巨人という大球団でぬくぬくと育ったというイメージが名将と合わないのだと思いますよ。世間はそういうところにある種の妬(ねた)み、ひがみを感じるものですからね。

 ノムさんが名将なら阪神を立て直していますよ。楽天を含めて4年連続最下位だったじゃないですか(笑)。落合も日本一は1回だけ。星野さんも3球団で優勝していますけど、中日と楽天では最下位もある。原監督は14年の監督生活でBクラスは一度だけ。しかも4位ですよ。

 こう言うと、いやいや原監督はもともと強いチームを引き継いだからと言われそうですが、そんなことはない。これもイメージ。では昨年、高橋由伸監督がそのまま指揮を執っていたら巨人は優勝できたと思います? 戦力的には広島DeNAよりも劣っていたにもかかわらず、絶妙な采配と大胆な選手起用でチームを優勝に導いたのは、ほかならぬ原監督ですよ。暗黒時代とまで言われた堀内恒夫監督のあと、誰がその後の10年間で6度の優勝を成し遂げる常勝軍団へと甦(よみがえ)らせたのか。原監督を名将と認めない人は、そのあたりのことをもう一度、じっくり思い出してもらいたいですね。

抜群の吸収力で監督力を身につけた


 名将としての地盤は、これまで選手としてついた監督を見るとよく分かります。まずは父親でもある原貢さん。プロでは藤田元司王貞治長嶋茂雄と、これはもう錚々(そうそう)たる顔ぶれですよ。長嶋監督時代はヘッドコーチも経験した。こうした監督たちの采配はもちろんのこと、勝負への執念、チームのまとめ方、選手への接し方、あらゆるものを間近で見てきて、自分なりに吸収していったのだと思います。父の厳しさ、藤田監督の任侠、王監督のプライド、長嶋監督のひらめき――それが今、指揮を執る基盤となっている。

長嶋茂雄[中央]や王貞治[左]の下でプレーした経験は大きい。長嶋監督の下ではヘッドコーチの役目も果たした


 原監督は色紙に「時を待つ」と書くんです。私はこの言葉に原監督の苦労、我慢を感じます。自身の経験から来ているのでしょう。藤田監督はどれだけ不振であろうと原監督をスタメンから外さなかった。典型的なのは1989年の日本シリーズ。第1戦からまったくの不振でチームは3連敗。ノーヒットのまま迎えた第5戦で奇跡の満塁本塁打を放った。これで流れが大きく変わり、巨人が日本一をつかむのです。そういう使われ方を経験して、何とか監督の期待に応えよう、応えたいと、これはもう実体験として自分の中にあるわけです。それが選手起用にもつながっている。辛抱し、我慢し、時を待つ。そうした信頼関係を選手と築いていこうと思っているはずです。

 監督というのは「非情」と「温情」の2つを併せ持っていないといけない。チームが勝つためには非情なことを平気な顔でしなければならないし、その上で選手への温情もなければならない。この2つをうまく使い分けるのが監督の仕事ですが、原監督はそれが絶妙なんです。誰とは言いませんが、非情にもなれない、かといって温情もない、どっちも持っていない監督が多いんですよ。私に言わせれば、どうして監督やっているのか疑問ですけどね。

 2年前に再び監督に返り咲いた際、原監督は宮本和知元木大介をコーチとして呼びました。タレント活動もしていた彼らにちゃんとした指導などできるのかと疑問を抱いた人は多く、私もそこは単刀直入に聞きました。すると原監督は笑顔で「江本さん、大丈夫ですよ。彼らはちゃんと勉強していますから」と言うんです。今の若い選手を扱うとき、アナログ世代の自分よりも宮本や元木といった人材が適任だと思ったんでしょう。確かに彼らはタレント活動をしていたかもしれないけれど、それ以上に野球の勉強もしていた。そういうことも原監督はちゃんと見ているし、彼らの気持ちも分かっている。これも先ほどの話ではないけど、イメージ先行の悪い例。宮本や元木は何か軽い感じがするからね(笑)。普通は自分の同世代の仲間で周囲を固めたがるところですが、そこに生え抜きの後輩OBを招くのはセンスの良さ。新しい風をチームに吹き込み、新しいスタートを切りたかったのでしょう。なかなかできませんよ。

選手だけでなくコーチも大きな戦力として考えている。左から宮本知和、吉村禎章、原監督、元木大介のコーチ陣。全員が巨人一筋の生え抜きOB


巨人にはあって他球団にはないもの


 私は現場では監督や選手とはあまり話さないようにしているんですが、原監督とは話すんです。よく打撃練習をしている後ろで監督と評論家たちが話している光景を見るでしょう。あれね、野球の話をしているとは限らないんですよ。私なんか、ほとんどしていない(笑)。原監督とはよく政治の話をしています。原監督は政治にすごく関心があるんですよ。これは長嶋さんも同じ。実はあの2人は共通点が多いんです。例えば2人とも実に記憶力がいい。とにかくよく覚えている。2人とも忘れっぽい感じで、さっき会った人も「誰だっけ?」とすぐに忘れてしまいそうでしょう? これも間違ったイメージなんです。そして2人とも温情がありますよ。受けた恩というのを決して忘れない。

 少し話が逸れましたが、この2年の原采配は絶妙ですよ。ベンチの様子、雰囲気を見ていればよく分かる。ベンチに緊張感があるのは、原監督が徹底して競争させているからです。若手やワキ役にどんどんチャンスを与え、結果が出なければ下げる。だからみんな眼の色が違うでしょう。選手が育つのは競争心と闘争心、この2つなんです。これを監督がどうあおるか。そこがほかの5球団とは違うところ。ベンチに緊張感がなく、仲良しチームのところが多過ぎますよ。厳しければいいというものではないけれど、仲が良い、楽しいが美談ではチームは勝てません。

 監督の仕事は7回からが勝負。ラミレス監督はそこが圧倒的に下手なんです。DeNAが優勝できないのはそこですよ。戦力的には巨人より上と言ってもいいぐらいなのに、結局は原巨人にやられてしまう。ラミレス監督だけでなく、他球団の監督からも「何をやってくるか分からない」という怖さを原監督は感じていないと思いますよ。絶対に負けないと思っている。監督としての年季が圧倒的に違うというか、独走の原因はそこですよね。

 以前に野手の増田大輝を投げさせた試合があったでしょう(8月6日/甲子園)。賛否両論ありましたが、原監督は何とも思っていないと思います。選手起用に関しては絶対の自信があるし、すべて自分が責任を負う覚悟が常にある。良し悪しを問う問題ではなく、自分が監督としてベストの判断を下した、ただそれだけのことなんです。

 2年前に監督に返り咲いたのは最後のご奉公。一方で後継者づくりも着々と進めており、これは誰の目から見ても明らかなように阿部慎之助(現二軍監督)を考えている。現役をやめさせてまでの英才教育ですから、いずれ阿部監督の誕生は間違いない。ノムさんも星野さんも落合も、結局は後継者づくりはしていない。あの野球を今、誰が受け継いでいるのかという話。それを考えると原監督はやっぱり名将に最も相応(ふさわ)しい大監督だと思いますよ。

 最後に言っておきますけど、私は巨人ファンでもなければ原妄信でもないですから。原監督とは誕生日が同じですけどね(笑)。

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