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森浦大輔(天理大・投手) 経験&実績が豊富な148キロ左腕の責任感【ドラフト逸材】

 

阪神大学リーグをこの4年間、常に先頭で引っ張ってきた。安定した投球でチームからの全幅の信頼感。落ち着いたマウンドさばきは大学トップレベルと言える。
取材・文=沢井 史 写真=太田裕史

心身ともに充実しており、その表情からも自信がみなぎっている


 森浦大輔の名前が一気に広まったのは天理高1年秋(2014年)の近畿大会だ。大阪桐蔭高との準々決勝で、8安打を浴びながらも2失点完投勝利。当時の投球内容について、森浦はこう振り返る。

「変化球が良い高さで投げられていましたし、ストライクからボールになる球を振ってくれたので、結果として抑えられたと思います」。スライダー、フォークを厳しいコースに投げ分ければ打たれないと、身をもって感じた試合だった。

 出身の和歌山県新宮市は、三重県との県境付近にある。和歌山市内に出るにも車で3時間ほどかかるのどかな地で育った。少年野球が盛んで、兄を追うように小学校1年から野球を始めた。コントロールに定評のある左腕だった森浦。中学時代に奈良県天理市で行われた大会で快投する姿が天理高関係者の目に止まり、同校へ進学した。天理高では1年夏に背番号20を着けて初めてベンチ入り。県大会決勝(対智弁学園高)で先発に起用されたものの、夏の雰囲気にのみ込まれリズムを失った。立ち上がりに4失点し、1回降板。苦い思い出を糧にしてきた。

 以降、チームの主戦としてマウンドに上がる機会が増え、2年春夏に甲子園出場(2年夏は登板なし)。奈良県内にはライバルがいた。3年春のセンバツで優勝投手となる智弁学園高・村上頌樹(現東洋大)だ。1年夏の甲子園で登板した村上の存在は、森浦に刺激を与え続けた。

 最も印象深かったのが3年夏、甲子園切符をかけて投げ合った県大会決勝だ。天理高が3回に1点を先制するも、4回に逆転を許し、終盤に突き放されてしまう。9回に1点差まで詰め寄るも、5対6で敗れ、夏の甲子園出場は叶わなかった。

「自分がホームランを打たれたことがのちに響きました。最後の夏、どうしても甲子園に行きたかったのですが……」

マウンド上での安心感


 悔しさをバネに進学した天理大では1年春から登板し、3勝を挙げてMVPを獲得。同秋は5勝を挙げ、MVPと最優秀投手賞の2冠に輝いた。当時を「出来過ぎでした」と回顧するが、向上心が原動力としてある。高校時代から武器としていたスライダー、フォークに加えて、大学入学直後にカーブを覚え、ピッチングの幅を広げた。「ストレートだけで押しても抑えられない。変化球を振らせ、カウントを作れるかも大事」と投球術を身につけた。相手が研究してきた2年時に被安打が増えると、3年春の前にはチェンジアップを習得。手先が器用なのだ。

「三振を狙い過ぎると力んでしまうので、追い込んでも、特に意識はしないようにしています」。状況に応じて打たせて取ることもあれば、ここ一番では三振を狙う。

 3年春にはリーグトップの防御率0.58で、敢闘賞のタイトルを手にしている。

 1年春から3年秋まで6シーズン、一度も離脱することなく投げ続けてきた。藤原忠理監督はこう評価する。

「もともと、体は強いほうです。ここまでしっかり投げられているのは、さすがとしか言いようがありません」。指揮官が何より信頼しているのが、マウンド上での立ち居振る舞いだ。普段からどんな状況にも動じることなく、淡々と投げ込むスタイルが持ち味で、味方の失策でピンチを迎えても、表情に出すことはない。

 藤原監督は「ピッチャーらしいポーカーフェースも、森浦の良さ」と、エースの姿はチームに安心感を与えている。

1年春から天理大の主戦として投げてきた。チームを背負う覚悟があり、今後の野球人生において武器となるはずである


抜群のゲームメーク能力


 174センチ71キロのサイズは小柄な部類に入るが、マウンド上では大きく見える。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今春のリーグ戦は中止。ラストシーズンの秋も安定感ある投球を続けており、NPBスカウトの評価を高めている。

 9月22日にプロ志望届を提出した。

「(昨年指名された)石原さん(=石原貴規広島5位)もプロに行ったので、自分もいずれは行きたいというのはずっとありました。行くと決めた以上は、それなりのピッチングをこの秋にしなければいけないと思っています」と、覚悟を語る。

「将来は、先発ならば試合をしっかり作れる投手になりたいです。そのために、今はストレートにもっと力強さをつけていきたい」と、レベルアップに努める。

 大学入学時から継続して球質にこだわりがある。この4年で自己最速は8キロアップの148キロ。数字だけでは納得しない。

「コンスタントに140キロ台後半を投げられるピッチャーになるのが目標です。いずれはDeNAの東さん(東克樹)のように、力強いストレートを投げられるようになりたいです」。

 高校時代から実績は申し分ない。天理大でも常に中心選手としてチームの先頭を走ってきた。心身ともに充実するタフネス左腕には「責任感」という武器がある。経験によって積み上げられた「自信」は揺らぐことはない。

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