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【インタビュー】DeNA・松尾汐恩 がむしゃらに上の舞台へ「一軍で結果を出すということが、一番の恩返しになる」

 

黄金ルーキーの活躍は希望であり願いだ


一番上を想定したから


希望であり願いでもある言葉を冠する小社選定のスター候補表彰『ビッグホープ賞』。今年は、イースタンから攻守走そろった捕手、ウエスタンからロマンあふれる大砲候補が受賞した。まずは、イースタンから選出されたDeNA松尾汐恩の声をお届けする。意識を高く持って入団してきたプロ1年目を終え、胸に宿ったのは大舞台への使命感だった。
取材・構成=武石来人 写真=高原由佳、BBM

 大きな期待を背負いドラフト1位で入団してから約1年。攻守走すべてにおいてレベルアップを図ってきた。迷わずに突き進めた背景には、最も高いレベルを想定してプロ生活を始めたから。成果を手に晴れ舞台で壇上に立ったことで、さらに上のレベルを視界に捉えている。

──初めてのNPB AWARDSはいかがでしたか。

松尾 立派な会場のすごい雰囲気の中、壇上にも立たせていただいたことで、良い1年を過ごせたんじゃないかなと思いますし、より来年へ向けて頑張りたいという気持ちが湧いています。

──小社選定のビッグホープ賞ですが、過去に受賞された選手を見て感じる部分はありますか。

松尾 チームの現役だと関根(関根大気)さんが受賞されていて、自分とは入れ違いで一緒にプレーはしていませんが中日の細川(細川成也)さんなど、第一線で活躍されている方が選ばれていますし、イチローさんも選ばれたことがあると聞きました。自分も皆さんに肩を並べられるようにという気持ちを前提に持って、頑張っていきたいと感じているところです。

11月28日のNPB AWARDS 2023で『ビッグホープ賞』の記念トロフィーを手に、来季への意気込みを語った


──9月にはサイクル安打を達成するなどもあり、イースタン・リーグ特別表彰を受けました。

松尾 あの日は最後の打席で本塁打を打ちましたけど、打ってから実感した部分が大きかったです。本当に周りの方々のおかげで達成できたサイクル安打だと思いますし、素直にうれしいです。

──AWARDSを終えて、今後、目指したいタイトルは出てきましたか。

松尾 一軍での首位打者など、どちらかと言えば打撃部門に寄ったタイトルを狙っていきたいですね。

首位打者を獲得する未来を想像させる


──プロ野球選手として最初の1年が終わろうとしています。思い描いていた“プロ生活”とのギャップなど感じるところはありましたか。

松尾 比較的想像どおりというか、想定した範囲には収まっていました。というのも、入団前からやはりプロ野球選手として絶対になめてかかってはいけないと思っていて、「自分はまだまだダメだ。皆はもっとすごいから、もっともっと頑張らないと追いつけないぞ」と考えていました。だからプロ生活の予想は一番高く見積もっていたんです。要は、とてつもなくレベルが高くて、もはや最初は手の届かないところで選手たちが戦っているんだと想像しながら入っていったわけです。そのおかげもあったのか、想定していた中では収まったというイメージでいますね。

──プレー面ではいかがでしょうか。

松尾 それはもうレベルの高い選手ばかりだということは、この1年で大いに感じました。ただ自分がまったく通用しないと感じたわけではありません。

──高卒ルーキーとして先輩たちと戦うことに不安もあったかと思います。

松尾 正直、入団前は通用しなくても当然だし、当たり前だと思っていました。だから、今年は一から学んで慣れるために、しっかり練習しようという気持ちになれたのだと思います。

──1年を経て当初から心構えの変化はありましたか。

松尾 うまくいかなくて当たり前と思いながら取り組んでいたので、高望みすることなく1年を過ごせました。その意味では、今も心構えに変化はないと思います。

勝利を呼ぶ存在に


 自らの取り組みに自信を持つからこそ、相手によって立ち位置を変えることはない。泰然自若なプレーは、チームに安心感を与える。扇の要として理想とするのは、その先にある“勝利”のみ。前を走る実績組に来季は全力でぶつかっていく。

──現実として、一軍出場も高望みではなくなってきているように感じます。

松尾 そこは一軍に入って行かないといけないと思っています。鶴岡(鶴岡一成、二軍バッテリー)コーチや皆さんが本当に毎日一緒に練習をしてくれて、つきっきりでやってくれているところもあります。なんとか恩返しがしたいんです。そのためには、自分が一軍で結果を出すということが一番ですし、この気持ちを持ってやっていきたいですね。

守備面は鶴岡コーチと二人三脚で伸ばしてきた


──昨年の入団会見の際、対戦したい投手を問われると、「特定の投手はいない」と答えていました。ファームでの1年で、もう一度対戦したい投手などは出てきましたか。

松尾 1年たってもそこは変わらないですね。試合でもどの投手が相手かはあまり意識していません。対戦投手との結果を意識することなく、来たボールに対して反応して打つことが多かったので。もちろん、相手投手のデータや配球についてはしっかり頭に入れて打席には向かっていました。

──データ、感覚の両立ができていたとも捉えられますね。

松尾 どちらかに偏るということはしたくなかったですし、捕手としても両方できていなければいけない部分ですから、この形で続けていきたいです。

──来季は一軍で頑張りたいとさまざまな場面で話しています。そんな中、数字の目標などは立てていますか。

松尾 現状はまったく考えていません。まずはとにかく一軍に上がってからでないと数字の目標は立てられない、立ててはいけないかなと思っています。まずは目の前のことを一つひとつ段階を踏んで、課題をつぶしていかないといけないので。将来的に考えられるようになれればと思います。

──この1年、段階を踏んでこられた要因はどんなところにあるのでしょう。

松尾 見て学べたことだと思います。観察して自分のものにできた部分は多かったですね。これは周りの方に言われてきたことでもあったので、大事にして意識してきました。見ていると本当に皆さんそれぞれに、いろいろな特徴があるんです。それを自分で試したり、取り入れて実践しながらやっています。

──特にどんなところを見ているのでしょう。

松尾 やはり立ち居振る舞いや準備など、プロとして必要なことですね。すべては自分のレベルアップにつながってきますから。

──自分が打者として求められているのはどんなところだと感じていますか。

松尾 長打を求められているのではなく、ヒットをとにかく量産することだと思っています。

──来季は、伊藤光選手、戸柱恭孝選手、山本祐大選手の今季一軍で主に出場していた捕手全員がチームに残ります。

松尾 もちろん競い合いたい気持ちも大きいですけど、やはり自分のやることをやっていきたいです。限定的ではなく捕手としての全局面でのレベルアップを図ることが先にきますね。

──その先に見据える理想の捕手像とはどんなものですか。

松尾 打撃も守備も高水準な選手だと思います。でも一番大事なのは、勝てる捕手。勝利に貢献できる存在。つまりは勝たせることのできる捕手ですね。

攻守走すべてが高い水準で、盗塁も6個をマークしている


──では、勝てる捕手に必要なこととは何でしょう。

松尾 見えるところではなく、配球も含めた考え方やメンタル面など頭の中の動きが重要だと感じています。

──理想に近づいてきていると感じる部分はありますか。

松尾 正直まだまだこれからです。ただ、自分の中で伸びている手応えは感じますし、伸びしろもまだまだあると思っているので、これからまた頑張っていきたいと思います。

DB担が推したい理由と描く未来予想図



スター性と人間性

 イースタン・リーグの過去5年の高卒ルーキーにおいて、松尾の残した打率.277を超えたのは、2018年のヤクルト村上宗隆(.288)、19年の巨人山下航汰(.332)の2人のみ。捕手としての負担も考えれば、どれだけ優れた数字かが分かる。

 大事な場面で決めるスター性も選定の理由だろう。打率だけでなく、得点圏打率もイースタン3位(.297)と勝負強い。さらに、9月6日のヤクルト戦(横須賀)では本塁打を残してサイクル安打に王手をかけた8回の第5打席できっちりレフトポール際に放り込んだ。希望を抱くのに、これ以上の回答があっただろうか。

 つけ加えておきたいのは、真面目な印象とは裏腹に、先輩にちょっかいをかける明るさ。チームカラーにマッチするその性格も推しポイントだ。

 将来は、やはり未来のチームの、そして侍の正捕手になってほしいところ。投手陣をリードすることはもちろん、打って、守って、走れる、ほかの捕手にない魅力を存分に発揮してくれることに期待したい。(R.t)

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