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プロ野球選手と記録やタイトルは切っても切れない関係です。ただ、私は現役時代、そこまで数字に対して意識したことはなかったです【辻発彦のはっちゃんネル】

 

93年、首位打者に輝いた筆者だったが、胸を張れない気持ちもあった!?[写真=BBM]


 今週号は1年間のプロ野球の記録をまとめた「記録集計号」です。プロ野球選手と記録は切っても切れない関係です。選手は数字で評価されます。ただ、私は現役時代、そこまで数字に対して意識したことはなかったです。当時、メディアの皆さんからシーズン前に目標とする成績は? と聞かれても明確な数字を挙げることもなく、「数多く出塁し、数多くホームベースを踏むこと」と答えていました。

 黄金時代の西武では主に一番、九番の打順を任されていました。それは出塁することだけではなく、次につなぐ打撃や走者をかえす打撃もあり、チームとしてさまざまなサインがコーチから出ていました。とは言っても、当時の西武には秋山幸二氏、清原和博氏、デストラーデといった球史に残る長距離砲がクリーンアップに座っていました。彼らの前に走者をためれば得点につながり、勝利も近づくので、とにかく数多く出塁し、数多くホームベースを踏みたかったのです。

 ところで、近年の野球は打者が早いカウントから積極的に打ちにいく傾向が強いと感じていました。私の現役時代は自チームの先発投手がなるべく長いイニングを投げることを考えていましたから、相手チームの投手の球数をかさませるためにとにかく打席で粘ることが求められていました。今は先発投手が5、6回でマウンドを降り、終盤をリリーフに託すことが多くなってきました。打者はたくさん投げさせようという考え方も変わらずありますが、それとは逆で、勝負が早くなってきたことで、投手リレーの考え方が変わってきたのかなと思います。

 今年は阪神監督に就任した岡田彰布監督が四球の重要性を説き、打者が実践しました。昨年はチーム全体でリーグ3位の358四球でしたが、今年は1位の494四球に数字が上がりました。なので、おのずと出塁率も.301から.322に上がりました。今年のチーム打率は3位の.247、本塁打は最下位の84本でしたが555得点はリーグトップ。やはり四球の効果は大きかったと感じましたね。来季以降、四球が“復権”する可能性は大いにあると思います。

 一方で、盗塁に関しても数字を気にしませんでした。私は86年に35盗塁しましたが、1個差でタイトルに届きませんでした。盗塁も自分のためにやっているわけではありません。走ると見せかけて走らない。これだけで十分相手にプレッシャーをかけられる。チームの得点と勝利に貢献するための手法でした。

 皆さんも記憶に残っていると思いますが、87年、巨人との日本シリーズで“伝説の走塁”と呼ばれるプレーが生まれました。第6戦の8回二死一塁、一塁走者だった私は中堅・クロマティの緩慢な守備を突き秋山氏の中前打で一気にホームへ。3対1とリードを広げ、日本一を手繰り寄せた走塁でした。私は基本的に“グリーンライト”でしたが、このときベンチからのサインは「走るな」。ベンチは秋山氏の打撃に懸けたのですが、その結果、“伝説の走塁”が生まれたわけです。

 最後に、実は93年のシーズンでは終盤にタイトルを意識してしまいました。打率.319でタイトルを獲得したのです。さすがに争っている打者の打率は気になりましたが、それでもやはり第一に勝利優先。そして、チームは優勝しその結果、首位打者になったことが何よりでした。ただ、この年はケガで出遅れて、出場は110試合(当時は130試合制)でした。20試合欠場しており、胸を張って「首位打者だ」と言えない気持ちもありましたが、ここは皆さん褒めてください(笑)。

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