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【インタビュー】ソフトバンク・小久保裕紀監督 勝つことの素晴らしさを、みんなで「みんなが同じ方向を向かないといけない。それも美しさの一つ」

 


2月1日に違う姿を


新生ソフトバンクの特集のスタートを飾るのに、新監督は外せない。古巣に“復帰”して来季で4年目。二軍監督から一軍監督に“昇格”するにあたっては、これまで以上に熱い思いをみなぎらせる。すべてはホークスの未来のため――。先頭に立って『強く美しいチーム』を築き上げる。
取材・構成=菅原梨恵 写真=湯浅芳昭、BBM

 3年連続V逸という苦境からの脱却を果たすべく、小久保裕紀新監督が立ち上がった。ある意味では満を持して、とも言えるのかもしれない。2年間、二軍で指揮を執った経験と、球団OBとして本来持つチームの魅力を知る新指揮官。ただ強いだけではない、美しさも兼ね備えたチームへと変貌を遂げていく。

――今季まで2年間、二軍で指揮をされました。一軍監督になるにあたって、二軍での経験が生きてくると感じるところはどこですか。

小久保 コーチ陣にしっかり動いてもらえるノウハウ、仕組みというところを、ファームのときに確立できました。何人かは一緒に一軍に上がってもらいますが、そこも含めて、私から直接に、というよりも、コーチからきちんと選手に伝えられる、そういう仕組みはつくれたと思います。それは変わらずやっていきたいところですね。私が直接、選手と接し過ぎてしまうと、結局、コーチが機能しなくなる。それだけは避けたいなというふうに思っていて、その仕組みができた経験は大きかったなと思います。

――監督自身は選手との距離感というところは、どのように考えているのですか。

小久保 ヘッド(コーチ)のときはあえて距離を取ろうと思って、結構ツンケンしていたんですけど、あまりウケが良くなかったんですよ(苦笑)。だから、二軍監督になってからは、たわいもない話なんかはするようにしていました。でも、『指導』というところでは、私からは直接は言わないように。ただ、チームとして決めているルールがあるので、そのルールを破ったときには全員で注意し合えるように、首脳陣全員で選手をしっかり見るということなども含めてやってきました。私の考える選手ファーストというのは、選手が良くなるために何が一番かということを、私らが考えてアプローチしていくことだと思っています。その上で、選手を“迷わす”のは、やはり選手ファーストではない。例えば、私が選手に言う、バッティングコーチも言う、もう一人のバッティングコーチも言う。このときに3人が違うことを言ったら、選手は迷うだけじゃないですか。そういうことは絶対なくそうということでやっていましたね。

――監督から見て、気になったことがある場合には?

小久保 その場合は、担当コーチも中に入れて話をします。担当コーチがそこにいないときは、話したことを必ずあとで共有する。それはルールとしていました。

――その形は、これからも変わらないわけですね。

小久保 変わりません。一軍のほうがもっとスタッフが多いですからね。そこも含めてやっていかないといけません。自分が良かれと思ってやる行動って、実はあまり良くないんだよということを教えていかないと。みんな、悪気があってやっているわけではないので。一個人の意見が入ることによって、選手が迷うのであれば、グッとこらえて、まずは担当コーチに相談をするとか、そういうふうにしていくのがいいと思っています。

今季まで2年間は二軍を指揮し、ウエスタン・リーグ優勝、日本一も経験。一軍にも通じる組織としての基盤もつくり上げてきた


――一軍を指揮するにあたって、二軍監督時代とは変わってくると思われるところは、何かありますか。

小久保 非情さを出さないといけないところもあると思います。やっぱり、勝つためなので。二軍の場合は育成の意味合いが強くて、結果よりも選手の経験というところも考えて起用することも多い。それが一軍の場合はなくなります。もちろん、この選手を伸ばしたいという選手がいれば、育成というところも関係してくるとは思いますが、基本的には『勝つために今日の試合をどうするか』『年間を通して勝ち切るためには、この時期に何が必要か』ということが求められます。そういう部分では、やっぱり選手の調子の良し悪しもしっかり把握しないといけないでしょうし。より『勝つ』ということだけを考えて動くでしょうね。

――勝利というところでは、今のホークスが抱える一番の問題点はどこにあると考えていますか。

小久保 私が言うまでもなく、先発投手をまずは確立する、ということですよね。中継ぎ、抑えはね、しっかりいいメンバーがいるので。先発投手を確立するために倉野(倉野信次)コーチ(投手コーチ[チーフ]兼ヘッドコーディネーター[投手])を呼び戻したというところもありますから。あとは、野手でいうと、どうしても柳田(柳田悠岐)のあとの世代が……。近藤(近藤健介)が入ってくれて非常にいい活躍をしてくれたんですけど、中村晃、今宮(今宮健太)、その下の20代前半の選手までいくと、なかなかいないんですよ。

――先日の侍ジャパン(アジアチャンピオンシップ出場メンバー、原則24歳以下または入団3年目以内の選手が対象)の選出も、12球団で唯一ゼロでした。

小久保 これが現状です。だから、レギュラー選手の高齢化というのが、やっぱり一つ、大きな課題になりますよね。もちろん、今はまだ、彼らが仕事をしてくれているんですよ。でも、そこを脅かす存在が出てこないと、チームの活性化にはつながらないでしょうね。

――若い選手たちには何を求めますか。

小久保 よーいドン! から、誰が見ても「この選手、スタメンでずっと見たいよね」というものを示さないといけないと思います。周囲の声があって初めて、われわれも決断を下せる部分があるので。まずは今秋のキャンプの取り組みから継続して、このオフの自分の動き、課題を、どう目的意識を持ってやっていくか。来春、2月1日のキャンプインのときには、まったく違う姿を見せてくれたらいいのですが。見た目の変化というのは、分かりやすいのでね。もちろん、ただウエート・トレーニングで体を大きくすればいいというわけではありません。やっぱり、しっかりとした自分の基礎が出来上がってきた状態で、見た目にも変化があれば、一番分かりやすいですよね。

――オフシーズン、自身の課題に対して、それぞれの選手が、いかにアプローチするかが大事になってくる、と。

小久保 免除されている選手に関しては、自主性というか、自分たちで管理できるだろうというところで、こちらから特に課題は与えません。一方で、(秋の)キャンプに参加したメンバーは今回、『ドライブライン(・ベースボール)』(アメリカのトレーニング施設)の測定、フィードバックをしながら、自分の課題、それを克服するにはどうしたらいいのか、というようなところが、はっきり出ている。そこがちゃんと分かった上でオフに入らせています。そのためのキャンプでもあったので。

今秋のキャンプは投手が筑後、野手が宮崎と分離キャンプを敢行。アメリカのトレーニング施設『ドライブライン・ベースボール』による最先端のデータ解析も取り入れ、選手一人ひとりの課題も浮き彫りに


――あとは、その課題に対して、どう取り組んでいくかは選手次第というところもありますね。

小久保 だから、キャンプが終わった、やったー休みだ! と言っているようでは、(レギュラー陣を)脅かす存在にはなれないでしょうね。

一人ひとりの意識の中に


――監督就任会見では「いかに美しくあるか」というお話が出ました。すごく印象的なフレーズだったのですが、美しさと強さの関係性というのは、どう考えていますか。

小久保 強さを求めて、優勝するという目標は一緒です。ですが、その中にもいろいろある。例えば、私のことで言うと、結構、ホームランの角度にはこだわりを持っていました。滞空時間の長い放物線、バットの軌道、バットが離れたら勝手に(バットが)クルクルと飛んでいく、というようなホームランを、より多く打ちたいと。それがファンの人からすると、「放物線が美しい」という。そういうことも美しさの一つです。あとはやっぱり、自分が見られている存在である、その見られている存在という意識を強く持ったほうがいいのかなと思っています。具体的にどうしろとは絶対に言わないんですけど、自分を映像で見たときに、美しいと思うかどうか。自分の中にある美意識みたいなものを持っていたほうが、見る人に対しても気持ちのいいチームに映ると思うんです。だから、個々の中に「今、自分が取った行動は美しいのかな」というところを感じてほしいですね。一人ひとりの意識の中にそれが少しでもあると、みんなが応援したくなるようなチームの強さになっていくのではないでしょうか。

――ただ、強いだけではない、と。

小久保 そうです。球団があって、ファンがあって、選手があって、という中で、球団とファンと選手の真ん中には『愛される』というワードがないといけないと思うんですよ。やっぱり、ファンから愛される選手であり、球団から愛される選手であり、選手から愛される球団であり、ファンから愛される球団である。美意識とか美しさがあると、比較的にそういう関係性になりやすいんじゃないのかな、と。会見のときのメッセージとしては、それが今のホークスには欠けていると思ったんです。


――あとは選手たちが何を感じるか、ですね。

小久保 私が言葉に出すことによって、少なからず『美しさとは――』というところが、脳には入ったと思います。みんなから愛される球団であるためには、美しさも大事だよね、と。また、最初のミーティングでは「勝利の女神は細部に宿る」という話もしました。ここ2年のホークスは、2022年が最後、引き分けでも優勝というところで勝ち切れず、オリックスとの対戦成績によって2位になった。今年は優勝ではありませんでしたが、あと1つ勝てばというところを負けて2位を逃しました。一つの勝利の重さというところが、こんなにクローズアップされる年が2年続くというのは、普段から細かいところにしっかりと気を配っているか、というところも関係しているのではないかな、と。

――3年リーグ優勝から遠ざかっていますが、ホークスというチームの本来の魅力というのは、小久保監督はどこにあると思いますか。

小久保 私は王さん(王貞治、元監督、現球団会長兼特別チームアドバイザー)の下で長くやらせてもらいました。当時、一番言われていたのが「若い選手に手本を示しなさい」ということ。主力、ベテランは「鏡になれ」と、ずっと言われてきました。今の選手たちにもそういう姿、そういう意識を持って、やっていこうなと。柳田しかり、中村晃しかり、今宮しかり、近藤しかり。主力、ベテランがしっかりと若手に手本を示す、そういう歩みをともに築いていきたい。そこをもう一度つくり上げたいなというところがあります。

――それがまた下の世代に、と続いていくわけですね。

小久保 そうです。それがホークスの良さなのでね。

――監督が今のチームに感じる期待感というところはいかがですか。

小久保 あれだけの選手がそろっているので、やっぱり(期待感は)大きいですよ。あとは、みんなが同じ方向を向かないといけないですよね。それも私の美しさの一つに入っているんです。だって、2月から10月まで家族といる時間より長い時間、一緒に過ごしているわけなので。それだけの時間、一緒にいるのだから、やっぱり目指すべきところは同じじゃないと。自分だけが良かったり、ということでは美しくない。スタッフを含めて、みんなを同じ方向に持っていくのが、私の仕事だと思っています。やっぱり、みんなで本当に「勝つっていいよね」と。これまでは勝ちに慣れてしまっていたときもありましたが、ここ3年、勝てていなくて、勝てていないときに入団してきた選手が今、増えてきているわけです。勝ちを知っている選手がいる間につないでいかないと、それこそ本当の暗黒時代になる可能性もある。そうならないためにも、全員が同じ方向を向けるように持っていきたいですね。

――小久保監督が指揮を執る上で掲げるテーマ、信念は何でしょうか。

小久保 『強く美しい』。新チームのテーマ、ワードは、やっぱりこれですね(笑顔)。その中で、来年はパ・リーグ制覇、日本一は当然に。そこに向かって全員で進んでいきます。それがもう究極の目標なので。そのために必要なこととしては、やっぱり戦術的、戦略的には先発投手とかいろいろとあります。ですが、まずはやっぱり、3年リーグ優勝から遠ざかっているチームが、もう一度、勝つっていいよねという方向に、目指せるように、私が舵を取らないといけないという思いです。あとは、もちろん勝つのが目標なのですが、全員が本当に勝とう、と心の底から思えるように。このチームで、たくさんのファンを喜ばせよう、というところを目指します。

――それこそが、真の強さなのだという感じがしますね。

小久保 組織が大きいですし、人も多いのでね。どこに所属していても、やっぱり同じ方向を見るというのは一番、大事なことだと思います。好き勝手にわがままを言うのではなく、勝つためなら一旦、自己中心的な考えは自分の中に収められるような。そういう組織、集団を目指していきます。

チームとしての一体感、その先に勝利、リーグ優勝、日本一を見据えて――。来季はたくさんのファンを喜ばせる


PROFILE
こくぼ・ひろき●1971年10月8日生まれ。和歌山県出身。右投右打。星林高から青学大を経て1994年ドラフト2位でダイエー(現ソフトバンク)入団。2年目の95年にレギュラーの座をつかみ、後半戦から四番を任されて本塁打王に輝く。97年は打点王を獲得。99、2000年とリーグ優勝に貢献(99年は日本一)。03年は右膝の手術でリハビリに費やし、オフに巨人へトレード移籍。07年にFA権を行使して古巣に復帰すると、09年からはキャプテンとしてもチームをけん引。11年には史上16人目の通算400本塁打、日本シリーズでは最年長MVPに輝いた。12年に通算2000安打を達成し、同年限りで現役を引退。通算成績は2057試合、2041安打、413本塁打、1304打点、58盗塁、打率.273。引退後は13年から17年まで侍ジャパン代表監督を務め、21年にソフトバンクに入閣。同年はヘッドコーチ、22、23年は二軍監督。

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