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【インタビュー】楽天・今江敏晃監督 てっぺん目指して。「あの一戦の経験を必ず生かしていかないと。あの雰囲気で野球をやることこそプロ野球」

 

2024年は球団創立20年目。節目の年に2年連続4位に終わったチームを、どう立て直すのか。その手腕に期待がかかる


一軍と二軍の壁


他球団に比べても補強が進んでいるとは言えない楽天だが、指揮官の交代こそ、最大の補強かもしれない。2016年から楽天でプレーし、19年限りで現役引退。翌年からすぐに楽天で指導者のキャリアをスタートさせた。2023年まで一軍、二軍、育成コーチとして選手たちを見続け、誰よりもチームを知り尽くした男が東北を熱くする。
取材・構成=阿部ちはる 写真=齋藤豊、大泉謙也、BBM

 楽天は今、変わるべき時なのかもしれない。2023シーズンは5月に5年ぶりとなる借金2ケタまで落ち込むなど、2年連続のBクラスに沈んだ。若手からベテランまで実力を兼ね備えた選手たちがいる中で、チームとして勝ち切れない試合が多かった。そこで就任したのが12球団最年少となる今江敏晃監督。良き兄貴分として選手を支えてきた若き指揮官がチームに新風を吹き込み、新しい楽天を見せてくれるはずだ。

──23年5月に二軍打撃コーチから一軍の打撃コーチに昇格し、一軍と二軍のどちらも見たシーズンとなりました。その中で感じたチームの課題とは?

今江 一軍と二軍の間にはレベルの壁があるなと感じました。二軍打撃コーチをしていたときは「この選手を一軍に上げてよ」とか「何とか使ってほしい」という思いでいたのですが、いざ自分が一軍に行き、今いる一軍の選手と代われる選手がいるかと考えると、やっぱりまだちょっと違うなと。それは(一軍、二軍)両方経験したから分かることで、それほど高くないと感じていた壁がすごく高いような気がしたんですよね。それを二軍の若い選手にも伝えました。その壁を乗り越えるためには、しっかり秋に練習しないといけないのだと。

──その壁は一軍の投手に対するアプローチの部分が大きいのでしょうか。

今江 それもあります。あとは一軍の戦力というのは、ただ打てればいいというだけではないんですよね。やはりある程度、守れて走れたりしないと。全員で戦っていますからバランスよくやっていかないといけない。その中でそこにはまるような選手が少なかったなと思います。

──今江監督は現役引退後、育成コーチ、2度の二軍打撃コーチ、一軍打撃コーチを経て監督に就任しました。これまで以上にチームづくりに意識を向けることになりますが、今はどういったプランを描いているのでしょうか。

今江 正直、プランというのはまだ明確には出ていないですね。まずはチーム全体を把握するということが一番。春季キャンプが始まる前にチームを把握し、その上でしっかり組み立てていく準備をしていかないといけないと思っています。

──秋季キャンプでは、投手が練習している二軍のウェルファムフーズ森林どりスタジアム泉と、野手が練習している楽天モバイルパーク宮城とを行き来しながらチームを見ていました。

今江 コーチのときは担当があったので、その役割を全うするという意識で取り組んでいたのですが、監督になると全体を見渡しながら把握していく必要があります。野手に関してはこれまでも近くで見ていたので把握はできているのですが、投手に関してはなかなか見る機会がなかったので、秋はどちらかと言うと投手の練習に比重が多くなっていましたね。やはり野球はピッチャーが大事。その中でまずはくすぶっている若い選手たちもたくさんいるので、その子たちが少しでも力を発揮できるように何かできることはないかと考えながら、コーチと話をしながら練習を見ていました。

40歳と12球団最年少監督となるが、その分、選手との距離は近い。兄貴分として先頭に立ち、ともに熱くシーズンを戦い抜く覚悟だ


強気の投球で勝負


──投手陣はリーグワーストの防御率となりました。立て直しのために、この秋はどういったことに重点を置いて取り組んでいたのでしょうか。

今江 プロに入ってくる子たちですから、一人ひとりにそれぞれの持ち味が必ずあります。ただ、プロの厳しさを知って、一つステップアップできる選手もいれば、怖さを知って一つレベルダウンしてしまう、もしくは2つも3つも下がってしまう選手がいたりもするんです。ですからまずは自分の持っている力を発揮できるような状況をつくってあげたい。そのためのアプローチですね。

──打者と対戦するときにはコースを狙い過ぎたり、低めに投げる意識が強くなってしまうものでしょうか。

今江 全員ではありませんが、その意識が強くなり過ぎると自分の強い球が放れなくなってしまう選手が多いんです。ベース板の中で勝負し、思い切って腕を振ること、心の中ではどこでもいいよという思いで投げられるピッチャーってなかなかいないんですよね。打たれるのが怖いので、どうしても四隅に投げようと逃げるピッチングになってしまい、気持ちも少し弱気になってしまう。

──抑えたいという気持ちが強くなり、逃げの投球になってしまう悪循環……。

今江 そこをコーチや選手と話しながらとにかく思い切って自分の腕をしっかり振れる状況をつくってほしいと、自分が持っている一番最高の球を投げられるようにやってもらいたいという話をしました。強気に行けるようにと。

──技術よりも、まずは考え方の部分。

今江 そうですね。あとは基本的なフィールディングも。一つのアウトを取るためにあんなに必死に考えて一生懸命投げているのに、フィールディングの部分で散漫なプレーをしてしまう選手もいます。ピッチャーゴロやバント処理でも1つのアウトを取れるのに、なぜそこはしっかりやらないの? と思ってしまうんですよね。難しいことはできなくてもいいけども、取れるアウトはちゃんと取ろうよという話をしました。

──技術面でもメンタル面でも、土台を作り上げる秋になったわけですね。

今江 まず意識改革をしないとすべてが変わらないので、コーチ陣にもしっかり意識付けしていこうと強く伝えました。結果が出る出ないは、試合になってみないと分からないですから、練習段階での意識や、何を考えているのかが伝わるような練習、そういうことも大事なのだと。秋季キャンプの後半には初日に見た姿とは見違えるようなボールを投げる選手もいましたから、コーチ陣がしっかりと伝えてくれていたのだと感じましたね。

2023年はシーズン途中に二軍打撃コーチから一軍打撃コーチに配置転換。後半戦の打撃向上、巻き返しにつながった[左から3人目が今江コーチ]


最終戦の敗戦を糧に


──就任会見ではファミリーのような団結力のある、信頼し合えるようなチームをつくっていきたいと話していました。

今江 チームが一つになって勝利に向かっていくためにはみんなで助け合って戦っていかないといけないと思っています。野球は失敗が多いスポーツですし、ミスが出るスポーツですから、それをどうカバーしていくかが大事になる。誰かがミスしたら誰かが助けてあげる。それを投手同士、野手同士だけではなく投手と野手でやっていければ投打のかみ合いの良さにもつながり、一つの勝利というものに導かれていくのではないかと思っているんです。投打がかみ合うためにはどうすべきか、僕らも選手の起用面などから考えてやっていきたいですね。

──23年シーズンはCSをかけた大一番の最終戦で完封負けして4位。今の楽天には何が必要だと考えていますか。

今江 やはり最終戦のあの戦いは、今のイーグルスにとってはすごく大きな一戦になったなと感じています。1年間死に物狂いでみんなで頑張ってきたことが、あそこですべて終わってしまった。でもそれを突き詰めると、あのときの一戦がなければ、となってくるんですよね。1試合1試合の重みを感じた試合でした。負けたら終わり、勝ったら次のステージに行けるという状況を経験したというのは、われわれスタッフ陣にとってもすごくいい経験になりました。

──球場の雰囲気や緊張感も独特のものがありました。

今江 あの一戦にはいろんな人の思いがすごく凝縮されていて、それが選手にはプレッシャーにもなったと思うんです。そこで負けてしまったということは力を発揮できなかったということ。では力を発揮するにはどうしたらいいか。それは開幕戦はもちろん、さらにもっと前のキャンプの紅白戦や練習試合、オープン戦でも、同じような気持ちで戦っていれば、あの一戦でも普段どおりにやって、いつもの力が発揮できたはずです。その意識付けはなかなか難しいことではありますが、そこをやっていかないといけない。あの試合ではいい緊張感にならないといけないところが、プレッシャーになってしまっていた。また、そういう状況を経験したことがない選手も多かったので、今回の一戦の経験を今後に生かしていかないといけないんです。

──この経験こそが、強くなるためのきっかけだったと言えるのが理想です。

今江 そうですね。ただ、新シーズンではどういうメンバーが試合に出てくるかは分かりません。この経験をした選手がそれを生かして出てくるのか、そこを経験していないイケイケの若い子が出てきてくれるのか、それは分かりませんが、どちらにしろ、あの一戦の経験というのは必ず生かしていかないといけない。そしてやはりあのときの応援、球場の雰囲気というのは特別なものがあり、あの雰囲気で野球をやることこそプロ野球なのだと。もっとすごいのが日本シリーズ。もっともっといい舞台があるんだよというのを伝えていきたいですし、そこで戦えるようにやっていきたいですよね。


ファンの応援が選手の力に


──ファンの方との交流も深めていきたいとのことですが、それは選手時代から大切にしてきた思いでもありますね。

今江 僕自身がこうやってプロ野球の世界に入って、今は監督という立場にまでならせてもらえたのは本当にいろんな方の支えのおかげです。プロ野球界もファンの方々が応援してくれて、チケットを買ってくれて球場に足を運んでくれることで仕事として成り立っている。今の自分があるのもファンの方、支えてくれるたくさんの人のおかげですので、ファンの方というのは絶対に大事にしないといけないと感じています。

──ロッテ時代にボビー・バレンタイン監督の下でプレーしたことも大きかった。

今江 そのおかげでエンターテインメントとしての考え方も僕の中にはあります。野球で楽しんでもらうのはもちろんですが、野球以外のところでも魅力を感じてもらいたい。例えば、この選手にはこういう一面があるんだと知ると、もっともっと興味を持ってくれて、もっと応援したくなったりのめり込んでくれる。それがまた選手の力にもなるのだと、僕自身が感じていたことなんです。あのロッテの応援というのはものすごく選手を後押ししてくれましたから、ファンの方の力ってすごいなというのを強く感じることができました。そのときの経験がファンサービスへの考え方の土台にあると思っています。

──チームもファンも一つになってファミリーのように団結していきたいというのは、そのような思いからだったのですね。では今後、チームが目指していく姿について教えてください。

今江 分かりやすく言えば、投打のかみ合いですよね。どっちが良くてどっちがダメというのでは勝ち切れないのかなと。23年のチームはそれが少なかった。やはり1年間通して、そういう状態じゃないと上に行けないのは明確なので、しっかりみんなで力を合わせて助け合っていけるチームをつくっていきたいなと思います。やるからにはもちろん一番上を目指してやっていきたい。そんなに簡単ではないというのは重々分かっていますが、だからといってあきらめるものでもない。やるからにはてっぺん目指してみんなで頑張っていきたいと思っています。応援よろしくお願いします。

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