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【インタビュー】楽天・松井裕樹 終わりなき挑戦「ドラフトでこのチームに導いてもらって本当に良かったなと」

 


最後を託される意味


プロ10年目で自己最多の39セーブを記録し、2年連続3度目となる最多セーブのタイトルを獲得した。球界を代表するクローザーに成長した左腕は2024年、メジャー・リーグが活躍の舞台となっているはずだ。インタビューで発する言葉の端々から、チームや仲間、そしてファンへの感謝の気持ちがひしひしと伝わってきた。
取材・構成=阿部ちはる 写真=矢野寿明、BBM

 楽天の絶対的クローザーとして抜群の安定感を誇る。史上最年少での通算200セーブや通算500試合登板到達は、若いころからその場所に立ち続けてきた証しだ。シーズン前に掲げた「失敗0」の目標こそかなわなかったが、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での世界一から始まり、2年連続3度目のセーブ王を手にした2023年シーズンを終え、次なるステップを見据えている松井裕樹が考えるクローザーとしての成長とは。

――自己最多の39セーブを挙げ、2年連続のセーブ王獲得となりました。

松井 セーブは自分の力だけで稼げるものではないですし、セーブ数というのはピッチャーの力量を判断する数字ではないと思っています。数多くセーブ機会をいただいた中で失敗もありましたし、たまたま成功した回数が一番多かっただけかなと。セーブ機会試合が多かったこと、調子がいい時期にたくさんセーブを稼がせてもらったことが重なり、たまたま一番になれたというか。あとは、僕に回ってくるまでに前を投げているピッチャーが、バックアップも含めて本当に頑張ってくれていたので、特にブルペンの仲間には感謝したいです。

――3度目の獲得です。それは実力があってこそだと思いますが……。

松井 運が良かったなと思うだけですね。もちろんずっと一番になりたいと思ってやってきているので、タイトルを獲得できたことはうれしいですけど、自分の力で勝ち取っているわけではないので。特に最後を投げるというのは、ボール以外の部分も備わっていないと任せてもらえない場所。そこを継続して任せてもらえていたということ、そこに値する人だと思ってもらえていたことがうれしいですね。

――それを備えるまでに自身の中でもいろいろなことがあったと思いますが、一番成長したなと思う部分とは?

松井 高卒2年目からやらせてもらっていますが、そのときはそこにあてはめられていただけだったと思うんです。ですがその中で、たくさんの先輩たちにもご指導をいただきましたし、最初は自分がただやっていればよかったんですけど、長年最後を投げてきてたくさんのものが見えてきましたし、最初に始めたころよりはファンの皆さんだったり首脳陣の方、チームメートが求めている抑えの像にちょっとずつ近づけていたのかなとは思います。

4月5日の西武戦[楽天モバイル]で通算200セーブを達成[写真左]。史上9人目の快挙は27歳5カ月という最年少記録での到達だった


――2023年はWBCもあり、調整が難しい中でのスタートとなりました。

松井 WBCでは自分の中ではとても悔しい思いをして、早く投げたいという気持ちで帰ってきました。その中で開幕戦(日本ハム戦/エスコンF)から登板があって、そこでしっかり0で抑えられたので、少し安心したというか。シーズンに向けて気持ちを切り替えてスタートできたという意味では、開幕戦でいいスタートが切れたことは大きかったですね。

――WBCでは1試合の登板となり、開幕戦まで実戦が少なかったですね。

松井 オープン戦で1試合は投げたのですが、実際に試合で投げるまではやっぱり不安も結構あったんです。開幕戦での登板は四番の野村佑希選手から始まり、清宮幸太郎選手、マルティネス選手といい打順だったので、そこでつまずいていたらどうなっていたか分からないですね。

――早めの調整となったことでシーズンへの影響はなかったですか?

松井 夏場に体調を崩してしまったことは少しきつかったですね。熱が40度くらい出たので筋肉への影響も大きく、8月は結構しんどかったです。

――ボールを握らない日も多かったのでは?

松井 投げていないだけで、ボールは握っていましたよ。寝ながら(笑)。ただ、オールスター明けだったこともあり、登板自体は空いてしまいましたね。

――その間、鈴木翔天投手やルーキーの渡辺翔太投手が抑えのマウンドに上がるなど、若手にとってはいい経験にもなりました。渡辺翔投手は松井投手にはとてもお世話になったと話していましたよ。

松井 今年はナベ(渡辺翔)もそうですけど、ほかのルーキーや3年目の内(星龍)など、一軍が初めての選手が多かったので、何とか乗り切ってほしいなと思っていろいろ話はしましたね。特別意識していたとかではなく、普通ですよ。

――渡辺投手とはサウナにも行ったそうですね。『松井さんの初めてのプライベートサウナを奪ったんです!』と喜んでいました(笑)。

松井 ハハハハハ! 行きましたね、サウナ。初勝利のプレゼントを一緒に買いに行こうという話になり、そのタイミングでチーム内でサウナも流行(はや)っていたので、1日休みがあった日に2人で行きましたね。

――ほかの若い投手からもよく名前が出ますし、松井投手はすごく慕われているなと感じます。

松井 試合とかでストレスはかかるので、楽しいほうがいいじゃないですか。若い選手たちにはのびのびやってほしいなあと思っています。

――その中から自身の後継者が出てくる可能性もありますね。

松井 その席が空くのはみんな分かっていると思いますし、もちろん全員が狙っていかなきゃいけないポジション。その中で誰がなるのか僕自身も楽しみですし、今年一緒にやっていたメンバーの中から出てきてくれたらうれしいですよね。

.6月13日の広島戦[マツダ広島]で12セーブ目を挙げ、先発の則本に3勝目をプレゼント。2024年からは則本が新守護神となる


メジャーへの想い


 10年間で積み上げてきた実績と自信を手に、あこがれ続けていた舞台へと歩みを進めることを決断した。現在は移籍先を探しながらも、メジャーを見据えた練習にも取り組んでいるという。

――このオフには海外FA権を行使し、メジャーへの挑戦を表明しました。シーズン中も意識はしていたのでしょうか。

松井 先ほどまで(インタビュー前まで)練習していたのですが、そこでもピッチクロックの話はしていましたね。シーズン中は意識しようと思っても、なかなか難しくて。どうしても日本のバッターは間合いを長くとってしまうので、僕が早く投げたくてもこちらを見てくれず、うまくはいきませんでした。メジャーでは違反をしたらピッチャーはボール、バッターはストライクがコールされます。だからバッターも早く構えると思うので、行ってみて慣れていくしかないかなと思っています。

――メジャー挑戦は田中将大投手と自主トレをする中で芽生えてきた思いですが、現実的に意識し始めたのはいつごろだったのでしょうか。

松井 19年オフに結んだ契約のときに、球団の方には伝えていました。20年は先発として投げていましたが、そのときには日数が足りなくて(海外)FA権の取得が1年遅れてしまったんです。FA権が取得でき次第、挑戦したいという思いだったので、そのあたりからは強く意識していましたね。

――シーズン後はワールド・シリーズも見に行ったとのことで、目の前で見て、気持ちは高まりましたか?

松井 そうですね。やっぱり球場の雰囲気がいいなと思いました。もちろん楽天モバイルパーク宮城も野球だけではない楽しさもあり、魅力的な球場だと感じていますが、アメリカではみんなが野球を見に来ている、という感じ。すごくそこに対する情熱といいますか、見る人たちが情熱を注いでいるというのが客席にいても分かりましたね。

――この10年間で一番成長できたなと思う部分はどこでしょう。

松井 あらゆるポジションで投げさせてもらったので、多くのことが経験できたと思っています。試合数も501試合投げさせてもらって、先発も中継ぎも抑えもしました。その中で勝ち試合、負け試合とありましたし、チームとしていい年が少なかったと言いますか、優勝がなかったのが心残りですけど、楽天だから経験できたことがたくさんあるなと。あらためてドラフトでこのチームに導いてもらって本当に良かったなと思っています。

――10年間の経験を経て、メジャーではどのような姿を思い描いていますか。

松井 僕が先発でやると言ったら、さすがに違うだろってなるでしょ(笑)。もちろん救援で頑張っていきたいと思っています。

――目指すところはクローザー?

松井 最終的にそうなれればいいですけど、まずはレベルの高い場所なのでしっかり自分の居場所というのを力で勝ち取れるように準備をして、結果を出せればいいなと思います。

――自分が思い描いているクローザー像にまだ足りない部分があるとすれば、どこになるのでしょう?

松井 コントロールが良くないですし、数字も積み上げれば積み上げるほど信頼を勝ち取れると思っているので、完成形はないと思っています。もっともっと高い目標を描いて近づいていかないといけないですし、ピッチャーとして人として成長していきたいと思っています。

――新たなステージに挑戦する2024年。意気込みを聞かせてください。

松井 環境が変わるので、まずはしっかり適応すること、そしてしっかりメジャーの環境で自分の力を発揮できるような準備をすること。その中で自分の力をしっかり出して、居場所を勝ち取り、離脱せず1年間できればなと思います。また、相手との勝負なので行ってみないと分からない部分も多いですが、今自分が持っているものを駆使して結果を出していきたいです。それを積み上げていくだけですから。

――最後にファンへのメッセージをお願いします。

松井 楽天ファンの皆さんには10年間応援してもらい、感謝の気持ちしかないです。楽天の試合の傍ら、どこかで僕のことも応援してくれたらうれしいなと思います。


PROFILE
まつい・ゆうき●1995年10月30日生まれ。174cm74kg。神奈川県出身。左投左打。桐光学園高から2014年ドラフト1位で楽天入団。2年目から抑えを任され、3年連続で30セーブ以上をマーク。以後、パ・リーグ屈指の抑えとして活躍。23年は200セーブ&500試合登板を達成し、19、22年に続いて3度目の最多セーブに輝いた。海外FA権を取得し、24年からはメジャーへ活躍の場を移す。

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