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23年で強力なチーム力になったレギュラー組も充実期に入った。チームとしての上積みをして気を抜くことなく連覇を目指すよ【岡田彰布のそらそうよ】

 

38年ぶりの日本一になったのは、選手たちの成長が一番大きかった。この喜びをもう一度味わうために24年も連覇を狙うよ


家族、関係者に感謝の旅行 そして24年も、もう一度


ハワイへの優勝旅行も終わり、いよいよ2024年が始まる。あと1カ月もすればキャンプイン。阪神としては球団史上初の連覇を目指すことになる。もちろん、気など緩めていない。もう一度頂点に立つために何が必要か。すでに監督の頭の中には24年度の構想が出来上がっているようだ。
写真=BBM

 携帯の留守電を聞く。久しぶりの声……。「あのー、さっそくですが、今月の『そらそうよ』ですが、締め切りが近いので、よろしくお願いします」。

 週刊ベースボールの担当者、S君からだった。それで急いで原稿となった。12月19日、ハワイから帰ってきたばかり。それでも週ベは容赦ない。ミエちゃんじゃないけど「そんなの関係ない」とばかりに、原稿の催促。分かりました。久しぶりの「そらそうよ」。スタートします。

 12月13日から始まったV旅行。ホンマ、多くの参加者で驚いた。コーチ、選手、球団関係者、裏方さんに、家族も含め、大旅行となった。優勝旅行の上に、今回は「日本一」の冠がついた。球団として2度目の日本一だが、実に38年ぶりのこと。それだけに大いに盛り上がったハワイ旅行になった。

 オレも妻に息子夫婦、2人の孫との旅行となったが、あらためて家族には感謝しかない。今回、出発に際し、オレは言ったんよ。「この旅行の主役は家族」とね。そらコーチ、選手は1年間、ホンマによく戦った。その陰でいつも支えてくれた家族の存在を忘れてはならない。奥さん、子どもたち、そして両親、寄り添ってくれた関係者に感謝する1週間。そういうためのV旅行やった。

 ゴルフをして、海で遊び、ショッピングを楽しみ、みんな、いい時間を過ごしたんやないかな。トラブルもなく戻ってきて、いい時間やった……と振り返る。選手も有意義な時を過ごしたに違いない。そして「こんなに楽しいのなら、来年も……」といった意欲が出る。その気持ちを大切にしてもらいたい。

24年になったらシーズンモードに入るよ


 まあ2023年のシーズンは想像以上の結果になった。久しぶりの監督で、オレは強気で押した。でもね、正直に言えば期待半分、不安半分。いきなり優勝……とは口にできなかったわ。そら優勝争いはできるとは思っていた。半面、優勝はそう簡単にできるものではないことも、オレは経験している。そういう感じでスタートして、日々、進化するチームにビックリする日々が続いた。「どこまで強くなるんや」。手ごたえを通り越し、確信した夏から秋。チームとしての成長は、ホンマ、驚きでさえあった。

 リーグ優勝、クライマックスシリーズ、そして日本シリーズを勝ち抜いた。そのあとに待っていたビールかけにVパレード。ファンが喜んでくれている姿を見て、ジンときた。「おめでとう」ではなく「ありがとう」との声が多かった。選手はどう聞き、どう感じたのか。ファンにありがとう、と言ってもらえるチームになった。これを簡単に手放してはいけないのよね。

優勝のときでも、パレードのときでも「ありがとう」という言葉が多かったわ。それもジンと心にきたよね


 記念すべき1年も残りわずか。年内は日本一の余韻に浸ってもいい。だが、これもどこかで線を引かねばならない。切り替える。ここからはそのメリハリが大事になる。年が明け、24年を迎えれば、気持ちは新たなシーズンに向ける。しっかりと切り替えることを、選手に求める。

 新しいシーズン、阪神には命題がある。それは球団史上初の「連覇」よ。それは簡単なことではない。しかし、いまのチームには強力なチーム力が備わり、自信がみなぎっている。優勝した自信。これは連覇するには大きなファクターになるとオレは感じている。

 評論家時代、オレは自信をつけて、大きく変わっていったチームを目にしている。それが広島カープやった。長い低迷期を過ごし、ようやくAクラスに入りクライマックスシリーズに進出。緒方(緒方孝市)監督の時代やった。オレはネット裏から見て広島が、これから強くなる、と断言した。

 苦しいときを経て、Aクラスにやっと入り「オレたちもできるんや」とつかんだ自信。これは大きい。試合を見ていて、選手の動きが自信にあふれていた。それがリーグ3連覇につながっていく。

 そんな事例があるだけに、阪神も連覇できる下地はできたと思っている。チーム力にプラスして、今回の日本一で得た自信。かつての広島のような成長曲線を描き、24年も戦える。そんな手ごたえは日ごと、膨らんでいる。

自信がついたレギュラー陣が、個々の力をもっとつけていき、さらに若い力が台頭してくれば、十分に連覇の可能性はあるよ


各チームも戦力補強。阪神も歩みは止めないよ


 ただし、容易でないことも理解している。そらそうよ。他球団も24年シーズンはウチをターゲットにしてくるんやからな。ここまでタイガースは大きな補強はしてこなかった。FA補強をする気はまったくなかったし、それよりもドラフト補強。新外国人投手を一人獲得し、現役ドラフトで漆原(漆原大晟)をオリックスから補強したくらいでオフを終えた。

 他球団の動向が気になる? まあ自分たちの野球が普通にできれば……と考えているけど、他球団もそれなりの補強を進めたからね。気にならないことはない。

 例えば巨人やけど、阿部(阿部慎之助)新監督がどんな野球をしてくるのか。長く戦ってきた原(原辰徳)前監督の野球はよく分かっていたけど、新監督になって、どう変化していくのか。捕手出身の監督だけに、ち密さが色濃く出てくるのか。例年、大補強しているイメージの巨人だが、今回はさほど目立ったものはない。それだけに阿部監督の野球でどんな変わりようになるのか。そら気になるといえば気になるわな。

 補強といえば中日となるのかな。実績のあるベテランを加入させてきた。中田(中田翔)、中島(中島宏之)と攻撃力を強化してきた。もちろん対策は講じるけど、もともと投手力がいいチーム。バランスが取れてくれば、厄介な相手になってくるだろう。ただし本拠地が広い球場だけに、中田といっても、そうは数多くホームランは出ないはず。それなら広い球場にあった機動力を使った野球をされたほうが嫌やな。

 広島、DeNAヤクルトも補強次第で変わってくるだろうけど、いまの段階では神経質にはなっていないわな。他球団の動向にもよるけど、あくまでウチの中でいかに強化できるか。「連覇」のカギはそこにかかっているわけよ。1985年、日本一になった直後、正直、さらなるチーム強化を怠ったという過去がある。要するに野球は、一寸先は闇。歩みを止めれば天国から地獄、ということなんよね。

 ほかのチームのことを気にする前にやることがあるやろ。そういうことなんよ。日本一になったからといって、現状に満足していたら、ホンマ、すぐに落ちていく。だから23年よりチームとしての上積みを。チーム内での新戦力を発掘する。それをオレとコーチのテーマにしていく。

オレの中では井川より球質は上を行くと思うよ


門別はええよ。順調に来てくれたら先発で開幕からでも使いたいと思っているよ


 そういう意味では実に楽しみな素材がいるのよ。それが24年高卒2年目になる門別(門別啓人)だ。23年シーズン、一軍で投げさせてはいるけど、その後の進化が止まらない。ホンマ、惚れ惚れするボールを投げる。これは間違いなく24年の新戦力になる。オレはかなりの自信をもって送り出すつもりなんよね。まあ高卒2年目のサウスポーということで、比較になるのが同じころの井川(井川慶)か。オレは若いころの井川はよく知っているし、03年、05年のリーグ優勝時にエースとしてマウンドで発揮した投げっぷりは目に焼き付いている。

 その井川と比べたら……、2年目という時点でははっきりと言えば、門別のほうが上。それほどの資質があるとオレは感じている。何しろ球質が素晴らしい。伸びがあるストレートはホンマ、上質なんよね。井川は多くのイニングを投げられるスタミナと、チェンジアップという変化球があったが、門別にはそこまではない。それでもあのストレートがあれば……と夢を見させてくれる投手なんです。

 過大評価という声もあるだろうが、24年の2月、キャンプでの成長を見込み、オープン戦での結果次第で、よし、いけるとなれば、オレは起用するよ。まずは中継ぎで? それはない。使うなら先発。この一択よ。高卒2年目だし、なんて関係ないわ。いいものはいい。ホンマ、いくよ。門別先発、これはいきますよ。ファンの皆さん、楽しみにして待っててください。

 野手でも育成から支配下にした野口(野口恭佑)のように楽しみな若手が着実に育っています。未知の魅力にあふれた若手と、いよいよ充実期に入った23年のメンバー。オレは選手の充実期、ピークは28歳から32歳くらいと考えている。それでいけば、23年の優勝メンバーのほとんどがそこにあてはまる。脂の乗ったチームに、加わる若い力。ここをうまく溶け合わせ、戦っていければ、タイガースは連覇に進んでいける。その自信は十分にあるのよ。

連覇への自信はあるよ。選手たちが自信を持ったことは大きいからな。24年も「アレ」を引き続き狙います


 あっ、そうそう、日本一のあとに出版となった『幸せな虎、そらそうよ』はおかげさまで多くの人に読んでいただいているようで。なんでも重版となったと聞き、うれしく思っています。23年のシーズンを振り返り、自分の考えや思いを明かした内容ですが、読んでもらったファンからは「面白かった」「読み応えがあった」との声をいただいた。23年も暮れを迎えるが、この本であらためて日本一を皆さんに喜んでもらえたら、と願っています。

 あらためて23年最後の「そらそうよ」になりました。1年間、ご愛読、ありがとうございました。24年も続きます。皆さん、よい新年を迎えてください。(阪神タイガース監督)

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