終盤ほど増す集中力
本塁打王のタイトルを獲得したものの、4月の本塁打は3本と前半戦は苦しんだ。波のあるシーズンとなる中、それでも四番として試合に出続け、終わってみれば安打数や打点数、出塁率などあらゆる部門でチームトップの成績を挙げた。 取材・構成=阿部ちはる 写真=井沢雄一郎、BBM プロ15年目となる2023年シーズンは3年ぶり2度目の本塁打王に輝いたが、チームは最終戦に敗れて2年連続の4位に沈んだ。主将として、四番として、責任を痛感している。24年は必ずや巻き返し、ファンにVを届ける。 ――本塁打王獲得おめでとうございます。2023年はどんなシーズンでしたか。
浅村 あの前半戦を考えると、まさかホームラン王のタイトルを獲れるとは思っていなかったので、よく獲れたなと思います。チームとしては最後の最後でAクラスを逃してしまったのでトータルで考えたら、充実というよりも悔しいシーズンだったのかなと思います。
――なかなか思うように結果が出ない前半戦でしたが、振り返ってみてその要因をどのように考えていますか。
浅村 うーん……。やらないといけないという気持ちが強過ぎたのもあるし、自分が打たないと、と思う気持ちが強過ぎたのもあるし、打ち方というか、ちょっとしたことがずれていたり、いろんなことがうまくかみ合わなかった感じですね。
――打たないと、という気持ちは開幕直後なかなか勝てなかったチーム状況を見てそう思ったのか、キャプテンに就任したことで少し気負う部分があったのか。
浅村 全部がうまくいかなかったです。自分がなかなか結果が出ていない中でチーム状態も良くないと、いろんなことを考えるし、もっとやらないと、という気持ちがどんどん強くなってきて、それが悪循環になっていたかなと思います。
――それでも9月14日には連続試合出場パ・リーグ記録を更新(1144)。チームに欠かせない存在でした。
浅村 楽天に来て意識し始めたことではなく、
西武にいたときから自分が出てしっかり活躍する、勝ちにつなげるということを意識してきたので、無事、1年間試合に出られてよかったなと思います。
――普段から自分はホームランバッターではないと話していますが、ファンは浅村選手のホームランを期待しています。その期待や重圧とはどのように向き合って打席に向かっているのでしょうか。
浅村 もちろん声援というのはすごく感じていますし、その声援は本当に自分の持っている以上のパワーになると思っているので、プレッシャーというよりもありがたいです。23年は本当に自分だけの力では全然できなかったシーズンだったと思うので、ありがたかったですね。
――23年は二死走者ありの場面や、9回に最もホームランを打っています。打ってほしい場面、プレッシャーがかかる場面でこそ打ってくれるという印象がありますが、状況によって気持ちの面で変わることはあるのでしょうか。
浅村 一緒ですけど……、ただ、9回にホームランを打っているときは8回にピッチャーが打たれたりとか、9回に松井(
松井裕樹)が打たれたりとか、いつも後ろでタフなゲームを頑張っているピッチャーが打たれているときが多いのかなと思います。そういうピッチャーのために何とか打ってあげたいという気持ちは最後のほうになると、どんどん強くなってくるので。もちろん先発ピッチャーに対してもそういう気持ちはあるのですが、ほぼ毎日試合に投げないといけなかったり、7、8、9回とプレッシャーのかかる場面で登板するリリーフ陣と先発は全然違うポジションだと思うので、そういうピッチャーがやられたりとか、悔しい表情を見ていると、何とかしたいという気持ちが出てきますね。
――その気持ちが浅村選手を奮い立たせているのですね。
浅村 序盤に集中していないというわけではまったくないですけど、143試合ある中で毎試合、初回からできるかと言ったら、正直、きついので。集中力の入れ方というところは、後半になるにつれてより上がる気はします。
――アプローチを変えているわけではなく、終盤になるにつれて気持ちの部分で火が付くものが増えてくる。
浅村 そうですね。試合中は自分の成績ってそんなに考えていなくて。なんとか勝ちたいとか、そのピッチャーのためになんとか打ってあげたいとかそういう気持ちのほうが僕は強いので、回を追うごとにそういう気持ちは出てきます。
熱いプレーは浅村の持ち味。淡々としているように見えるが、勝利への執念は人一倍強い
――このオフ、24年に向けて取り組んでいきたいことは?
浅村 もう33歳になりましたから、ケガでの離脱は一番やったらいけないこと。仕方がないケガはありますけど、なんとかケガをしない体づくりというのは継続して、自分の体のためにも意識してやりたいなと思います。技術面では、いろいろ考えてやっていることはいっぱいあるのですが、そんなにガラッと変えるつもりはないです。
――23年と変えるアプローチもある?
浅村 あります。自分があまり意識していなかったことを、ちょっと取り入れようと思っている部分もあるので。
――それは具体的にはどういったことなのでしょうか。
浅村 ボールに対してのバットの角度、バットの入れ方の部分ですね。シーズン中に気になる部分もあったので、少し変化を加えようかなという感じです。
うれしい中堅の台頭
試合に出続ける意識を強く持ちながらも、チームが強くなるために若手に発破をかけ続けている。その中で23年は村林一輝や小郷裕哉ら中堅選手が台頭。終盤の巻き返しに大きく貢献するなどチームの活性化につながった。楽天が強くなるために、浅村が期待していることとは。 ――23年は村林一輝選手が台頭したことで
小深田大翔選手がセカンドに多く入るようになったり、外野でも小郷裕哉選手の活躍もありました。中堅選手が活躍した状況をどのように感じていますか。
浅村 自分のことのようにうれしいです。でもまだレギュラーが決まっているわけではないので、何とかそのチャンスをつかんで何年もレギュラーでやってもらいたいなと、本当にすごく思います。
――レギュラーが確約されているわけではないということは、まだ出てきていない若手にもチャンスはあるということ。
浅村 もちろん。現に(スタメンが)コロコロ変わっていますから、レギュラーを取れる場所が楽天にはいっぱいあると思うので、僕自身もそうですし、争いながらやれればもっといいなと思います。
――若手が出てくるために必要になる条件は何だと思いますか。
浅村 経験と練習じゃないですかね。こういう人になりたいと思ってもそんな簡単にはなれないので、経験して失敗して、を繰り返しやることが大事ですね。
――チームは2年連続のBクラスという悔しい結果になりました。さらに上に行くために何が必要だと感じていますか。
浅村 やはり外せない選手も必要だと思うので、一人でも多く出てきてほしいですね。若い選手がどんどん力をつけて出てくれば本当に強くなると思います。
――23年の最終戦の
ロッテ戦(楽天モバイル)では勝てばAクラス、負ければBクラスという状況の中、0対5で敗れて4位となりました。
浅村 ほんと、緊張しましたね。でも、こういう試合をやるために僕たちはやっているので。もちろん、あそこで負けてちゃダメだなとは思いますが、あんな試合ができるって幸せなことなので、僕はそういう思いで試合前はいました。こういう気持ちでずっとやれればいいなって単純に思いましたね。
――無得点で終わりましたが、やはり独特の緊張感が影響していたのでしょうか。
浅村 143分の1ですけど、全然意味合いが違うし、力の入り方も違う。硬くなるのは当然だと思うので、その中でもいかに平常心でできるかが大事になるなと感じました。あんな試合はなかなかないし、負けはしましたけど、僕自身もめちゃくちゃいい勉強になったし経験になったので、またそれを24年はクライマックスシリーズとかでやりたいですね。
100打点の難しさ
今江敏晃新監督の下、楽天は新しく生まれ変わろうとしているが、その中心でどっしりと浅村はチームの柱であり続ける。ファンとともに歩む新シーズンへの思いとは。 ――監督やコーチ陣が変わる中、浅村選手は野手キャプテンとなりました。チーム自体も若返っていく中で、自分の役割をどのように感じていますか。
浅村 僕も含め、ベテラン選手や同じ年齢の人たちも危機感を持ってやらなくてはいけないと思います。どんどんチームは若くなっていくので、毎年覚悟をもってやりたいなと。
2023年はキャプテンとしてチームをけん引。24年からは今江敏晃新監督でスタートの下、野手キャプテンとなる
――引っ張るというよりは覚悟を持ってやるんだという姿勢を見せていく。
浅村 引っ張りたいんですけどね。なかなかできないので。とにかくグラウンドに立ち続けることはしたいなと思います。
――連続試合出場の記録も更新中です。簡単なことではないと思いますが、意識していきたい数字だとも思います。
浅村 自分としては意識していますが、試合に出る出ないは監督だったりコーチだったり、いろんな人が決めることなので、まずは試合に出られるように結果を出し続けないといけないですから、そこが一番大事ですね。体の部分はどこかでカバーできると、自分はそう思ってやってきているので、結果ですね。
――2000安打まで残り155本。24年にも達成可能な数字かと思います。
浅村 簡単ではないですね。楽天に来て150本以上のヒットは打ってないですし。でもやっぱり意識して達成したいですね。それくらい、この1年で必ず達成するって強く思ってやりたいです。
――契約更改の際には何かタイトルを獲れればという話もありました。打点へのこだわりを強く持っていますが、24年も打点数は意識していきたい?
浅村 それを一番大事にして、23年はやっていたので。打点が多ければ多いほどチームの勝ちにつながると思うので、そこは毎年意識しています。ただ、パ・リーグのピッチャーはいいピッチャーが多いので、23年はあらためて、100打点という数字の難しさを感じました。ただ、難しくなってきているなとは思うのですが、挑戦したいです。
――では24年の目標と、ファンに注目してほしいポイントを聞かせてください。
浅村 もう優勝しかないので。ファンの皆さんは待ちわびていると思いますから、結果で見せたいなと思います。そのためにも自分が、レギュラー陣、そしてチームの先頭に立って、やり続けるということを意識してやりたいです。注目ポイントは、ずっとグラウンドに出続ける姿を見てほしいですね。