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戸郷翔征の新たな覚醒なくして巨人の覇権奪回は実現せず フォークで勝負する安易な投球の組み立てを捨て去れ!【堀内恒夫の悪太郎の遺言状】

 

戸郷は組み立てを改善することで、巨人のエースとしてさらなる進化を遂げることができるはずだ


「伝家の宝刀」は大事な局面で抜け! フォークばかりでは相手に見下される


 今季の戸郷翔征は、菅野智之に代わる巨人のエースとして、チームの屋台骨を支えることができるか。

 とにかく、俺は投手陣の中でこの男に最も注目している。昨季の戸郷は、自分のピッチングスタイルを変えている。それが奏功して、プロ5年目で2年連続2ケタ勝利(12勝)を挙げることができた。

 それ以前の戸郷は、フォークボールを多投するピッチャーだった。だが、俺の知る限り、フォークを多く投げるピッチャーで大成した者はいない。「伝家の宝刀」は、大事な局面で抜くことによって、初めて大きな成果が得られるというわけだよ。

 そのことを自覚するようになって、戸郷は昨季からフォークのほかにスライダーをうまくブレンドして投げ分けるようになった。ピッチングに幅が出てきたわけだよ。だから“巨投”の中心的存在に躍り出ることができた。

 しかし、残された課題は、味方がボーンと先制点を取ってくれたときはいいが、スコアボードにゼロがいくつも並んだときに、プレッシャーに耐えられなくなって相手に先取点を与えてしまうこと。航空機に例えるなら、離陸してから水平飛行へ入るのが早過ぎる。羽田から千歳へ向かうのではなく、アリューシャン列島から北極海を越えて、アメリカ東海岸を目指すような長距離飛行に挑んでもらいたいと思う。

 大きな放物線を描くようになれば水平飛行へ入ったときに、勝ち星は12勝どころか15、16勝くらいは確実に計算できるだろう。

 だから、俺は戸郷がまだ「巨人の屋台骨を支えるエース!」と呼ぶには時期尚早ではないかと思う。「エースなら先に点を与えるな! 1点も与えなければ、悪くても引き分けに持ち込むことができる。だから、敗北は免れる!」というのが、俺の持論だからね。戸郷がその域に到達すれば、「菅野に代わるエース!」としてチームに貢献することができるだろう。

 その不足している部分は、「困ったときにフォークを投げる!」という悪癖だよ。昨季も、正捕手の大城卓三がサインを出したときに、戸郷が首を振ると、その次は必ず「フォーク!」のサインを出していたからね。すぐに妥協してしまう大城のリードの拙さも、戸郷の成長を阻んでいることは間違いないだろう。

 おまけに戸郷は、フォークを投げるときの腕の振りが良くない。真っすぐとスライダーを投げるときは、テークバックで右甲をコックして、掌を下へ向けた極めて理にかなった投げ方をする。だが、フォークを投げるときには、ボールを挟んだ掌を上へ向けたままトップへ持っていってから、腕を振り降ろしている。

 この投げ方では、腕に負担が掛かり過ぎるから、肩を壊すリスクが高くなる。しかし、戸郷は地肩が強いから、普通のピッチャーなら壊れていても不思議ではないのに、故障することなく持ちこたえている。だが、このままでは癖を見破られて、球種を読まれてしまう可能性も高くなる。だから、戸郷にはこの欠点を早く修正してもらいたいね。

 フォークは素晴らしい球種だけど、コントロールミスしたときには最も打ちやすいボールになる。だから、細心の注意が必要だ。

 確かに戸郷は誰にも真似のできない素晴らしいフォークを投げる。だからなのか、カウントを取るときも、ウイニングショットとして使うときにもフォークを多用してしまう。これでは肩肘に負担が掛かるばかりだ。壊れてしまうリスクは計り知れないほど高くなるからね。

マウンドへは鬼の形相で上がれ! 見下すくらいの演技力が必要だ


 かつて中日に在籍していたフォークの名手・杉下茂さんは追い込んでから、「フォークを投げるぞ!」と見せかけておいて、真っすぐを投げ、相手打者を打ち取っていた。伝家の宝刀以外のボールで相手を斬って取ることができるピッチャーが、「球史に偉大な足跡を残す大エース!」と呼ぶにふさわしいと思うんだけどね。

 杉下さんは生前に「俺はフォークを多く投げるピッチャーだと思われていたが、それほどフォークは投げていない」と語っていた。10球投げても、フォークは1球くらいしか投げていなかったのではないかな。俺だって、現役時代に得意の大きく曲がり落ちるカーブを投げる割合は、全体の2割か3割だったと思う。

 だが、戸郷はフォークを全体の4割以上、多いときには5割くらいほうっているのではないかな。実際はそれほどではないにしても、それくらいのイメージを抱かせる。しかもフォークは見逃せば「ボール!」と判定される球種だからね。それでは球数が多くなるばかりだ。反対にストライクゾーンへ入ってくるフォークは威力が半減している。だから、痛打されて試合を落とすケースが多くなる、という悪循環に陥ってしまう。当然、勝ち星も少なくなるわけだよ。

 フォークのほかに戸郷はスライダーという持ち球がある。フォークに頼るばかりでなく、2つのウイニングショットを使い分けることによって、ピッチングの新境地を切り開いてもらいたいと思う。

 投げることに関して、戸郷は新しいものを習得する必要性はまったくない。150キロを超える真っすぐと、現状のフォークとスライダーがあれば申し分ないからね。いまの戸郷に最も必要なのは、この3つの球種の使い方を見直すこと。どれも素晴らしいボールだけど、使い方が安直だから、勝ち星を積み上げることができない。

 球数が増えて疲れてくると、右肘が下がり、ボールの威力がなくなってくる。だから、相手打者に「ストライクか?」「ボールか?」という際どいコースを見切られてしまう。もう、こうなってしまったら打ち込まれるのは時間の問題だからね。

 とにかく俺は、戸郷と大城に「ウイニングショットを的確に使い分ける投球を試みよ!」と忠告したい。

 さらに付け加えると、ボールの威力とは裏腹に「戸郷の投げる姿に迫力がない!」ということ。いつもマウンドでニヤニヤと歯を見せているではないか。ピッチャーは相手をにらみつけるくらい、すごみのある形相をつくらなければ商売にならない。

 現役時代の江夏豊(阪神-南海-広島-日本ハムほか)が走者を出したときに相手をにらみつけてから投球動作へ入る姿とか、俺が現役時代に見せていたマウンドでの「太々しい態度」を真似してみるのもいいのではないか。ピッチャーには、自分を相手より大きく見せる演出力も必要とされている。ところが、戸郷は「どんな状況でも、困ったときにはフォーク!」だからね。逆に相手から見下されてしまうケースが多い。

 今季の戸郷に対して、相手チームは「菅野に代わる巨人のエース!」として、研究を重ねてくることが予想されている。だから厳しい戦いを強いられることは必至だ。

 戸郷の新たな覚醒が今季、巨人の4年ぶりのV奪回へ直結することは間違いないだろう。

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