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2人の先輩キャッチャー「若月さんも森さんも優しくて頼れるキャッチャーですが、頼ってばかりもダメなんです」【宮城大弥の一生百錬 僕が僕であるために】

 

普段のまま自然体でリードしてくれる若月さん[写真左]、気持ちの面の指摘もしてくださる森さん[右]。頼れる先輩の考えを理解しつつ、時に自信を持って首を振れるようになっていきたいと思うんです


気を使わない関係


 キャンプ、そしてシーズンに向けて自主トレで体をつくっています。今年も優勝できるように全員で戦っていく。この思いを忘れないでいられるのは、支えてくれる人がいるからです。裏方さんを含めたチームメート全員がそうで、前回はお母さんのような比嘉(比嘉幹貴)さん、お父さんのような平野(平野佳寿)さんの優しさをお話しました。今回はキャッチャーの先輩についてお話しましょう。

 そもそも僕がキャッチャーに求めていることは……構え方とか、サインの出し方とか技術の部分ではなく、強いて言うなら『仲良くしたい』(笑)。コミュニケーションをしっかり取れば、呼吸が合っていく。お互いの考えを分からずにバッテリーを組むより、理解しているほうが絶対に息が合うのは間違いないので。ただ、別にすべての考えが一致する必要はないんです。お互いの考えに違いが出ても良い。正解はないからこそ、まずはお互いの考えを知ることが大事。僕の考え方の幅も広がってきますから。

 今は、主に若月(若月健矢)さんと森(森友哉)さんとバッテリーを組む機会が多いですが、お二人ともコミュニケーションをしっかり取ってくれます。試合後のロッカールームでは、その日の投球を振り返ることを欠かしません。『コミュニケーションを取る』と、意識しているわけではないんですけど。先輩お二人の優しさがあるから、自然と関係性を築いてくださっているなと思うんです。

 そもそも、若月さんは試合中も普段と変わらない。良い意味で、何も特徴がないんです(笑)。良い意味なので誤解しないでくださいよ(笑)。何と言いますか、先輩ですけど気を使うことがないというか……。『キャッチャー・若月さん』は『普段の若月さん』のまま。僕の意見もしっかり聞いてくれるし、引っ張っていってくれるときもある。だから若月さんに対して、特別に思うことや、特徴を挙げることはできないんです(笑)。

 自然体でいられるのは、リードにも通じること。その日に調子の良いボールがあれば、その球種を生かすように自然とリードしてくれて。僕の良さを最大限出してくれるんです。まあ、練習のときはいつも冗談ばかり言ってきて「打たれたらお前のせいだから」「リードの問題じゃないからな」って。そんな若月さんに僕はいつもこう言うんです。

「いや、若月さんのリードの問題です」

 こんなやり取りばかりで(笑)、先輩ですけど気を使わない関係なんです。でも、本当に試合で打たれると「ゴメンな」と言ってすごく気にしてくれて。若月さんの優しさを知っているからこそ、練習では冗談交じりに肩の力を抜いてくれるし、僕の意見も伝えやすいんですよね。

立ち居振る舞いも大事


 一方で森さんは、いろいろと言っていただける存在です。『言ってくれる』のは投げるボールだけでなく、姿勢や表情に対しても。顔に出しているつもりはないんですけど……、打たれたとき、落ち込んでいるような感じが出ていることがあって。森さんには、気持ちの面を指摘していただくことが多いんです。言われたことがなかったことも多く、気付かされることもたくさんありました。その一つが昨年6月11日のDeNAとの交流戦(京セラドーム)。初回に4失点、2回にも3失点し、5回8失点で降板と、先発の役割を果たすことができず、悔しさもあって『なんで打たれたんだろう』とずっと考えていたんです。そんな思いが表情や態度に出ていたのだと思います。僕の『気落ち』を感じ取った森さんは、ロッカールームでこう言ってくださったんです。

「試合中に下を向いてはダメ。そういうところを野手も見ているから。投げているときはお前が主役だから、打たれても気にしないで、堂々としていればいい」

 ハッとさせられました。先発として試合を託していただけているのに下を向いてしまった。野手の方も、ファンの方も見ている。そういう立場にいるのに、自分は何をやっていたんだろうって。みんな勝ちに向かって戦っているのに、一人だけマイナスな考えだったことは、最悪なことだったと気付かせてもらいました。

 試合後に映像で自分を見返すとき、バッターの反応など投球を中心に、技術的なことに目を向けてしまうことが多い中で、立ち居振る舞いを指摘していただいたことは本当にありがたいことでした。自分では分からないこと、見えない部分を指摘してくださるキャッチャーは、ピッチャーにとって本当に大事な存在。自分の良さを最大限に引き出してもらい、悪い部分を正してくれる。『女房役』と表現されるのは、すごく腑に落ちます。ただ、僕の課題はキャッチャーに頼りきってしまうことでもあるんです。

 例えば配球。僕なりに打ち取り方をイメージし、配球の流れも頭に入れていますが、良い当たりのファウルを打たれると『あれ!?』となる。間近でバッターを見ているキャッチャーも、もちろん感じていることなので、あまりサインに首を振りたくなくて……。

 これが『頼り過ぎる』ことなのかなと。時として『その球種じゃない』と首を振れるようにしないといけない。そのためには、確かな考え、根拠、何より自信がないといけないんです。

 若月さんも森さんも優しくて頼れるキャッチャーですが、頼ってばかりではダメ。しっかりと意見を交換しながら『頼らない』こともできれば、もっと良い関係になっていく。僕も一人のピッチャーとして成長していかないといけません。

 と、考え過ぎても力みの原因になってしまうので、良い意味で自然体で勝負するのが理想でもあります。そんな“自然体”を生み出してくれる存在もいるんです。次回は、そんな二人の話をしたいと思います。

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