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連覇することは難しいこと。まずは内部強化をしていくよ。オレの理想の四番は…【岡田彰布のそらそうよ】

 

今年も阪神の四番は大山よ。四番の雰囲気も出てきたし、チームの誰もが大山が四番と納得できるだけの人間性もあるよね


今年はアレもソレもないわ 連覇とはっきり言うよ


連覇に向けて動き出した阪神。指揮官はすでに次の手を打っているようだ。その話と同時に今回は、今週号の特集に絡めた「阪神の四番」について語ってもらった。現四番に期待することもあるようだ。
写真=BBM

 このコラム、皆さんに読んでもらっているのは2月になるか。そう、春の沖縄キャンプのスタートだ。

 とにかく忙しかった昨年のオフ。18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一。このおかげで、ホンマ、目まぐるしく時が過ぎていった。昨年12月、ハワイへの優勝旅行。多くの関係者が参加して、そら実に楽しい旅になった。選手の幸せそうな顔を見ると、つくづくよかった……と思った。「優勝すれば、こんなにいいことがあるんや」。そう感じてくれたらいい。勝負事に勝つ。みんなが気持ちをひとつにしたんやないかな。

 1月初めから妻と2人だけで旅に出た。1週間やった。2人きりの旅行って、ホンマ、久しぶりで、あらためて妻に感謝の旅やったな。シーズン中、そら苦しいときもあったし、眠れぬ夜もあった。そんなときもオレに付き合ってくれて。グチひとつこぼさず支えてくれたし……。言葉にするのが照れくさいけど「ありがとう」と心の中で伝えていたわ。

 そこからイベントが重なり、テレビ出演、講演をこなしながら、9日からはルーキーの新人合同自主トレ。これを見守りながら、自然と気持ちにスイッチが入った。いよいよ2024年シーズンが始まる。気持ちの切り替えっていうやつやな。オレは完全に戦闘モードに入った。

 いまキャンプに向かう前にこれを書いている。あらためて考える。オレたちは今年、何を目指すのか。ファンの皆さんは何を期待しているのか。答えは簡単よ。「連覇」。これまで優勝を「アレ」と表現してきたけど、今度はアレもソレもないわ。はっきりと連覇と言葉にする。目指すのは、この一択よね。

 まあ、今さらながら思うのは連覇することの難しさよ。それをオレは過去3度、経験している。それも現役選手、監督としてだ。1985年の日本一シーズンの翌年。86年はレギュラーとして連覇を目指したが、正直、苦しいかな、と。優勝したシーズンで選手はもういっぱい、いっぱいという感じやったからな。

 そらランディ・バースが2年連続の三冠王になったけど、ほかの選手は成績が急落。オレも打率を7分ほど下げていたしね。そこに掛布(掛布雅之)さんがケガで早々と離脱。戦いながら、これは無理かも……と感じていた。弱点と言われた投手力も補えず、そのシーズン、チームの勝ち頭が山本和(山本和行)さんの11勝。カズさんは15セーブをマークしたが、結局、リリーフがチーム最多勝って、やはり先発が弱かったということなんよ。

連覇にはチームの上積みが必要


 2003年のリーグ優勝は星野(星野仙一)さんの下、オレはコーチで、そのオフに星野さんが辞任。オレが監督になり連覇を、となったわけやけど、このときもチームのバランスが悪かったとの思いがあった。特に投手陣なんだが、ベテランが多くて、ここを改善しないと強いチームはつくれないと、そこに着手したわけ。だから連覇を目標にしながら、その先を見据えたシーズンとなった。期待してくれたファンには申し訳なかったけど、Bクラス4位でも、オレなりに手応えがあり、次のシーズンでは優勝を狙えるという自信をつかんだ。

 そのとおり、05年に優勝し、そら連覇を強く意識した翌06年シーズン。オレは優勝できると思ってたわ。05年には届かなかったけどシーズン84勝よ。十分に優勝してもおかしくない数字やのに、それの上を行くチームがいた。中日よ。ホンマ、ガックリときた。84も勝って優勝できないなんて……。それだけ連覇するのは難しいというのが分かったな。

 連覇するには、まずチームをさらに強化すること。必ず前年より戦力の上積みが必要なんです。戦力的に維持していても、他球団は大きな戦力アップを施してくる。ターゲットにされるわけやし、それに対応するだけの内部強化をする必要がある。それには若い力の突き上げが必須であり、オレはこのキャンプから、思い切り若い選手を試そうと考えている。投手なら門別(門別啓人)、野手なら野口(野口恭佑)、前川(前川右京)、井上(井上広大)など可能性ある選手が多くいる。さらに二軍との入れ替えも多くなるだろうし、ここに大きな期待を寄せている。

チーム初の2連覇には若手の突き上げが必要。生きのいい選手も多いからな、期待できるよ


 まあオレが見る限り、選手に慢心や緩みはないわ。優勝して満足……。そこで緩んで停滞しがちだが、それが今のチームにはない。とにかく浮わついたところがないし、チャラチャラした選手がいない。すでに先を見ている。ホンマにたいしたもんよ。気の緩みがないわけやから、あとは伸びしろをどこまで広げられるか。それは1カ月のキャンプで分かる。

独特の逆方向打ち カケさんから教わったこと


 さて、今週号の週べだ。各球団の歴代ベストナインが特集されるとのこと。そこでオレには阪神の最強四番について語ってくれとの指令があった。四番バッターね。小さいころから甲子園に通っていたオレの記憶にある四番と言えば藤本(藤本勝巳)さんかな。ホームラン王にもなっているけど、本数は22本。そういう時代やった。あとは遠井(遠井吾郎)さんが四番を打ち、そののちが田淵(田淵幸一)さんよ。オレは田淵さんとは入れ違いで一緒にやっていない。となると四番は掛布さんやね。

 あれは80年、いまから44年も前の1月。当時はチームとして合同自主トレがあり、ルーキーのオレも参加。そこで目の当たりした光景が忘れられない。室内練習場での打撃練習で、ティー打撃の佐野(佐野仙好)さんの迫力に圧倒された横に、カケさんがいた。佐野さんはインパクトの時、息を止めているのに、カケさんは逆で「ハッ、ハッ」と息を吐き出す。

 そんな練習を見たことなかったから、驚いた。息を止めるのが普通。それを逆に声を出して振る。カケさん独特の練習法やったな。そんなカケさんとクリーンアップを組んだ。カケさんには独特の打法があった。反対方向、レフト側に打つとき、ファウルにならないようにバットを出すと教えてもらった。どうしてもスライスする打球になりがちなところを、インパクトのとき、バットを内にかぶせるように振るというものやったと記憶する。だからレフトにもホームランが打て、ファウルにならない強い打球になったわけなのだ。

阪神最強の四番は何と言ってもカケさんよ。レフトに本塁打を打つテクニックは必見やった


 オレも四番を打った経験があるから分かるのだが、タイガースの四番って、やはり重圧というか責任の重いポジションなんよね。結果を出せば、そら神様のように扱われるけど、逆ならボロカス。戦犯扱いされる。そういう立場でありながら、長い期間、四番を張ってきたカケさんが阪神最強の四番なんじゃないかな。

 もうひとり、それは金本(金本知憲)やろな。広島からFAで阪神に移り、星野監督は金本を三番で起用した。だがオレが監督になった04年からは四番を任せ、そこから変えることはなかった。とにかく全打席、ホームランを狙えと伝えたんだが、まあ休まない四番。監督としても頼りになる存在やったわな。骨折してもゲームに出る。それが当たり前やし、オレもあえて「どうする?」とは聞かなかった。どうせ出るんやから、聞かずに先発メンバー表の四番のところに金本と書き込むだけやったわ。

オレの最初の監督のときに四番を任せたのが金本。いつもスタメン表には、まず四番の欄に金本と書くことから始まったていたわ


24年の四番はもちろん「大山」よ


 カケさんと金本。この2人に近づき、超えてもらいたいのが今の大山(大山悠輔)である。昨年のオフに虎番から「来年の四番は?」と聞かれ、オレは「そんなん、まだ分からん」と答えたけど、ここで初めて明かすことにする。24年シーズン、タイガースの四番は大山。これ一択である。

 昨年、四番を1年間打ち続けた。苦しいときもあったと思うけど、それを乗り越えた自信は大きかったと思う。それとともに、阪神の四番は大山と認知された。そしてチーム内でも、誰もが認める四番になった。これが大きいとオレは思っている。

 四番とはみんなに認められるバッター。「なんでアイツが四番?」とか「おかしいやろ」とかの声があってはならない打順、それが四番なんよね。そこには四番らしい風格が必要で、大山もそれが身に付いてきた。

 現在の球界を見渡し、オレが思う四番バッターは2人。まず巨人の岡本(岡本和真)、そしてヤクルトの村上(村上宗隆)である。2人に共通するのはホームランを量産するところなのだが、彼らには独特の空気感がある。先に書いたような四番に必要な風格。それが2人には備わっている。ほかを圧倒するような空気を醸し出し、打席での立ち姿がいい。どっしりした姿。これが四番には必要なのよね。

 大山にも匹敵するようなムードが出てきた。彼の野球に取り組む姿勢。それは誰もが認めているし、今後も変わらないだろう。23年にひと皮もふた皮もむけた大山である。24年は必ず、さらなる進化があるとオレは見ているし、四番・大山ははっきりとオレの頭に刻まれている。

 そうなれば「えっ、佐藤輝は?」って聞いてくるファンは多い。もちろんすべての面で佐藤(佐藤輝明)には期待しているけど、要は伸びしろの問題。今年、どこまで伸びるか。バッティングもそうだが、守備での成長も必要。とにかく大山と佐藤輝、この2人に引っ張ってもらえたら……と考えている。(阪神タイガース監督)

佐藤輝も四番の可能性もあるけどな……まあ、今年どこまで伸びるかな。楽しみでもあるよ


PROFILE
おかだ・あきのぶ●1957年11月25日生まれ。大阪府出身。北陽高では1年夏の甲子園に出場し、早大では東京六大学リーグ歴代1位の打率(.379)と打点(81)をマーク。80年ドラフト1位で阪神に入団。1年目からレギュラーとして新人王を獲得。21年ぶりのリーグ優勝、日本一を達成した85年は五番打者としてベストナイン、ゴールデン・グラブ賞。94年にオリックスへ移籍し、95年限りで現役引退。通算1639試合、打率.277、247本塁打、836打点。オリックスで2年間指導の後、98年に阪神復帰。二軍監督などを経て、04年から08年まで監督を務め、05年はリーグ優勝に導いた。10年から12年はオリックス監督。2022年秋に15年ぶりに阪神の監督に復帰し、23年シーズンは18年ぶりにリーグ優勝&38年ぶり2度目の日本一に導いた。

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