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【インタビュー】巨人・岡本和真 歴史を超える巨人の主砲 強く愛されるチームに「圧倒的な成績を出して、優勝、日本一に『絶対に自分がさせるんだ』という気持ちでいる」

 

岡本和真[巨人/内野手]


四番としてのあり方


プロ野球90年の歩みは、そのまま日本最古の伝統球団の歩みだ。もちろん打撃の神様、伝説のONが系譜に連なる「巨人の四番」はずしりと重い。球団歴代5位となる四番での出場数を誇る男が、キャリアハイで本塁打王を奪還した昨季を振り返りつつ、主将として、四番として、新シーズンへ向けた意気込みを語る。
取材・構成=杉浦多夢 写真=高塩隆、桜井ひとし、BBM

 キャリアハイとなる41本塁打で2年ぶりにタイトルを奪還した昨シーズン。常に目指すのは打撃タイトルだが、その過程で意識していた「35本塁打」をクリアし、通算200本塁打を達成した。

「やっぱりタイトルを獲りたいと思っていつもシーズンには入っていますし、その中で昨シーズンはひとつ獲ることができたというのはよかったかなと思います。2年ぶりにホームラン王になることができたんですけど、特にどのタイトルというのを意識しているわけではないんですよ。どのタイトルでも結果的に獲ることができればうれしい。

 ただ、その過程で節目の記録は少し意識していました。シーズンに入る前から残り35本行けば200っていうのは知っていたので。何とかシーズン中に達成したいなと思ってやっていましたし、その中でそれ(35本塁打)以上、打てたというのはよかったなと思います」

残り35本だった節目の通算200本塁打を昨季のうちに達成できたことは意義がある


 わずか21歳11カ月で巨人軍の第89代四番の座に就いたのが2018年6月2日、京セラドームでのオリックス戦。初打席で本塁打を放つ鮮烈な「四番デビュー」を飾った。その日から多くの試合で四番を務め、球団歴代5位の通算729試合を数えるまでになった。

■巨人の四番歴代出場TOP5


 そして今、同じ四番としてヤクルト村上宗隆の存在は大きな刺激になっている。同時に、令和の三冠王が記録したシーズン56本塁打という高い壁があるゆえに、キャリアハイとなった41本にも自分では物足りなさを覚えてしまう。とはいえ、本塁打だけにこだわるわけではない。「50」の大台を意識することもない。四番として、常にチームへ貢献していくことがすべて。だからこそ、シーズン30本塁打以上を6年連続に伸ばしたことには、大きな意味がある。

「最終的にキャリアハイの41本塁打。40の大台に乗せることができました。でも、達成したら『もっとうれしいかな』と思っていたのですが、それほどでもなかったというのが正直なところです。40本というのは打ったことがなかったですけど、ホームランバッターにとって一つの指標というか、全員が達成できる数字ではないというイメージがあったんですけど。たぶん、前年に村上君(村上宗隆、ヤクルト)が50本(56本塁打)を打っちゃっていたので、次の年に41本と言っても、多いはずなんですけど少なく感じる。きっと感覚がマヒしちゃっているんでしょうね(笑)。

 村上君の存在はすごく刺激になっています。同じ四番を打っていますし、ポジションも一緒だったので。結果的に昨シーズンは数字で上回る形になりましたけど、そのことがうれしいというわけではなくて、自分のバッティングができる回数が多かったというのが結果に結びついたということ。とにかく、めちゃくちゃいい選手なので、これからも刺激を受けながら、僕ももっと頑張らないといけないなと思ってやっています。

 シーズンが終わってからはメディアの方たちに今季の『50本塁打』のことを聞かれることが増えました。でも正直、『50』という数字を意識することはありません。毎年、シーズンに入るときにひとつの目安にするのは、まず30本。僕の中ではそこがラインになっています。その意味では6年連続30本を打てているのは、しっかり通過点をクリアできているのかなと思います。今季も30本を最初のラインにしながら、それ以上に打点にこだわってやっていきたいと思います」

悔しさを原動力に


 集中力。それが本塁打王奪還を成すことができたキーワードのひとつだった。もちろんシーズン前のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)優勝の経験も大きかったが、根底にあったのは反骨心だ。140試合出場、30本塁打、82打点、打率.252に終わった2022年シーズンの悔しさが原動力となり、打席での集中力はさらに高まっていった。

「昨季は1打席1打席での集中力というか、ムダにする打席というのがそれまでに比べて減ったかな、というのは感じます。そこが自分の中で一番の課題でもあると思っていたので。特に打席に入るアプローチを大きく変えたりということはなかったんですが、ちょっとした気持ちの持ちようがいい方向に行ったのかなと思います。経験を重ねてきた中で、毎年同じことをしているわけにはいかない。とにかくムダにする打席は減らしたい。何かを変えることで逆に数字が出てこない、ということもあるかもしれないですけど、そうした取り組みというのは絶対に最後はプラスになると思っています。

 もちろんWBCに出場して、優勝することができた経験というのは大きかったです。レベルの高い選手たちを間近に見ることで『もっと頑張らないといけない』と思ったことは確か。でも、それ以上に、前の年の成績が納得いくものではなかった。『今年は頑張ろう』と思って入ったシーズンだったので、そういう部分で集中してやることができていたのかなと思います」

 広角にスタンドへたたき込むことができる、強さとともに柔らかさを備えたスイングが最大のストロングポイントだった。ただ、それだけでは足りない。打球速度をさらに上げるために、メカニックの部分も含めてスイングを見直していた。意識したのは内角への対応だ。その結果、昨シーズンは全41本塁打のうち左翼方向が29本、左中間方向が6本と、左方向への鋭い打球が劇的に増加した。

「僕の打ち方というのは、レフト方向の打球はドライブが掛かってしまうことが多くて、引っ張ってのホームランというのがなかなか打てませんでした。だから昨シーズンは打ち方のイメージを変えたんです。センターや右中間に入っても、左中間にしっかりとらえていきたいというのがありました。もちろんバッティングではタイミングは大事です。ただそれだけではなく、メカニックの部分でも変えるべきところは変えていきました。具体的にお話しするのは難しいのですが、内角への対応というところで、よりスムーズに回れるというところを意識しながらやっていましたね。

 やっぱりいいバッターであればあるほど、引っ張った打球のほうが強い。誰もが強くなると思います。打球が速くなれば、ヒットになる確率、ホームランになる確率は高くなる。その結果としてレフトへのホームランが増えましたけど、もちろんそうした打球でレフトにもライトにも打つことができれば、もっと本数は伸びていく。やっぱり基本はセンター返しだと思っているので」

左方向への打球がより鋭さを増したものの、センター返しが基本であることに変わりはない


 新たな打撃スタイルがひとつの結実の時を迎えたのが昨季の8月だった。1日のヤクルト戦(東京ドーム)で打線が沈黙して0対1の敗戦を喫すると、4打数無安打に終わった四番に対して原辰徳前監督は「いた? 今日」と辛口のゲキを飛ばした。すると翌日の同戦から史上初となる6戦9発の大爆発。自身は「“空気”って言われたんで」とおどけていたものの、決して偶然ではない。爆発には確かな裏付けがあった。

「8月に6試合で9本打つことができたときは良い感覚がありました。むしろその直前は少し落ちてきているなというのが自分の中であって。データを見てくれているスタッフさんとも相談をしながら『ここをこうしたら良くなるんじゃないか』という話をして、それを意識しながら取り組んでいました。

 ちょうど疲れも出てき始めている時期だったので、自分の中で瞬発力というか、出力が落ちないようにということが大きなテーマでしたね。意識的にも開き直ることができたというか、しっかりまた振ることができるようになっていたところに、いいホームランが出てくれて、それがきっかけとなってまた感覚が良くなっていった、という感じでした。

 昨シーズンにできていたことをベースに、今シーズンは『こういうふうにできたらいいな』『ここもこういうふうに変えたら、もっと良くなるんじゃないかな』というイメージも自分の中にはあるので、今シーズンに向けていろいろなことを続けてやっていきたいと思っています」

主将として「変わる」


 昨年は主将という大役を坂本勇人から譲り受けたシーズンでもあった。前主将の背中から学んだものを、今は自分が、いつもどおり、普段どおりに自然体で示していく。キャラクターそのままに、気負いはなかった。

「キャプテンとしてのシーズンでしたが、もともと僕は流ちょうに話せるほうではないですし、取り組みの部分でしっかり見本になれるようにと思ってやっていました。まあ、変なことはできないな、と。そういう意味では(前キャプテンの)坂本さん(坂本勇人)の練習に取り組む姿勢というのはずっと見てきましたし、僕も見て学んでいたので、自然と『やらないといけないな』という気持ちになれました。そうすることで、また僕を見て、少しでも同じように思ってくれる人がいればいいなと思っています。

 でも、坂本さんからアドバイスをもらったり、相談したりというのは特にないですね。普通どおり、いつもどおりです。実際、キャプテンと言っても自然体でやらせてもらっていたので、難しさを感じる部分もありませんでした。まあ、人前で話さなければいけない機会というのは増えるので、ちょっと嫌ですけど(笑)」


 2年連続Bクラスに終わったチームに対し、主将として思うところは大きい。「客観的に見て、強くない」という率直な言葉を口にするのも、大きな危機感の表れだろう。その現状を打破するために、何が必要となってくるのか。阿部慎之助新監督が掲げた「変わる」というテーマ。10年目を迎える自身も、チームも、変わることを恐れない。

「チームとしては2年連続Bクラスに終わってしまいました。もちろんBクラスどころか、Aクラスになるためにやっているわけじゃない。優勝、日本一を目指して、その中でのBクラスなので。やっぱり現状、客観的に見ても、『強くない』というのはすごく思います。僕たち自身がもっとやらなければいけないことっていうのがたくさんあった。そういうことをしっかりできるように、いろいろなことを変えていって、優勝ができるような、強い勝てるチームにならなければいけないというのは感じています。

 実際に阿部監督(阿部慎之助)も変わるんだというお話をされていました。僕自身も、プレー面もそうですし、人としても、もっと成長していかないといけません。逆に変えていけないものなんてないと思うので、チームが、すべてのことがもっと良くなるように、開幕に向けてやっていきたいと思います。

 阿部監督からキャプテンとして、特に何かを伝えられたということはありません。ただ、『いつでも相談には乗るよ』『困ったら話をしよう』と言われているので、そういうときはしっかり、話したいことがあれば話そうと思っています」

今季も「C」マークを胸に、阿部新監督[右]とともに日本一奪回を誓う


 90年の歴史を紡いできたジャイアンツ。いつの時代も憎らしいほどに強く、多くのファンに愛されてきた。そのベースが今、揺らいでいる。再び強く、愛されるように。そのためにはいま一度、チームが一丸となって投打をかみ合わせていかなければならない。もちろん、その先頭に立つのは四番であるこの男。伝統球団の主将にして四番は「圧倒的な成績を出す」ことにより、自らの手でチームを4年ぶりのリーグ優勝、その先の日本一へ導くことを誓っている。

「阿部監督は『強い巨人軍、愛される巨人軍をつくる』ともおっしゃっていました。やっぱりファンの中には、強いジャイアンツを知っている方がたくさんいます。僕たち選手は今、若い選手が多くなっているので、僕たち以上に球場でジャイアンツの強さというのを感じながら、観戦されていたと思うんです。

 やっぱりまず勝つことが一番ファンに喜んでもらえることだと思いますし、昨シーズンのようにあっさり終わってしまうと、ファンの方もやり切れないと思います。シーズンも、ひとつの試合であっても、最後の最後まで『何かが起こるんじゃないか』と思わせるようなチームになればもっと盛り上がると思いますし、何かを変える必要もなくなっていくんじゃないかなと思います。

 そのためには、『かみ合わせる』ことが大事になります。僕は野手なので、ピッチャーが頑張ってくれているときに野手が何とかしてあげようといつも思っているのですが、そこがうまくかみ合わない。昨シーズンも、その前のシーズンも、やっぱり全然かみ合わなかった。そうした部分をかみ合わせるために、チームとしての粘りだったり、そうした意識を最後まで持ち続けることが必要になる。もちろん、自分も含めてみんな試合に集中はしているんですけど、集中の仕方であったり、ここぞというときに集中力を発揮できるように、普段から準備していきたいなと思います。

 もちろん今シーズンは本当に優勝、日本一。『絶対に自分がさせるんだ』という気持ちでいます。そのためにも僕自身は、本当に圧倒的な成績を出したいと思っています」

■岡本和真の年度別打撃成績 ※赤字はリーグ最多


PROFILE
おかもと・かずま●1996年6月30日生まれ。奈良県出身。186cm100kg。右投右打。[甲]智弁学園高-巨人15[1]=10年。

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