
広島のルーキー栗林は抑えとして活躍。佐藤輝との新人王争いに注目だ
投打の2人が突出
今年のペナントレースを見ていて目につくのはルーキーたちの活躍だ。プロ1年目から活躍するというのは簡単なことではないが、すでにプロの世界で何年も戦ってきたような落ち着きのあるルーキーもいる。そこで今回は少し早いが、新人王のタイトルを予想してみたい。
新人王は1年目のルーキーだけではなく、前年までの成績が投手なら登板30イニング以内、打者なら60打席以内で5年以内の選手に資格があるようだ。また海外のプロ野球リーグに参加した経験がないことも条件となっている。
まずはセ・リーグからだが、ここは
佐藤輝明(
阪神)と
栗林良吏(広島)の2選手の一騎打ちだろう。打者と投手だから成績の比較は難しいところだが、2人ともルーキーとは思えないほどの活躍ぶりだ。ともに今年のドラフト1位だから、阪神と広島は良い選手を獲得したと思う。
佐藤輝は自慢の打撃力で開幕からスタメンに定着。
田淵幸一が持つ新人22本塁打の球団記録を塗り替え、NPB記録の31本塁打(59年
桑田武=大洋、86年
清原和博=
西武)に迫っている。序盤戦で阪神が好調だったのは佐藤輝の加入によるところが大きかった。打線全体が活気づき、チームに勢いがついた。何しろ当たれば飛んでいくあのパワーは大きな魅力だ。臆することなくこれからもフルスイングしてもらいたいが、一方で注文もある。
それは三振数だ。リーグ断トツの三振王であるが、これをどう見るか。
以前にも書いたが、三振を恐れず、追い込まれてもフルスイングしている証拠と評価する解説者もいるようだが、私の考えは違う。三振するよりもしないほうがいいに決まっているし、それだけの三振をするということは必ず原因があるはずだから、そこを追求してもらいたいのだ。たまに一発が出るから三振の山を築いてもいいというわけではない。相手もプロだから研究して、その弱点を徹底的に突いてくる。最近は不振でスタメン落ちも目立ってきた。打撃フォームをしっかりと見直し、自分の形をつくり上げることだ。
栗林は開幕から広島の抑えを任されてきた。チームの勝利に直結するポジションで22試合連続の無失点を記録したから恐れ入る。40試合近く投げて防御率0点台というのもたいしたものだ。コントロールもいいが、何よりもマウンド度胸がいい。
広島だけでなくオリンピックでも日本の抑えに抜てきされ、全5試合に投げて金メダル獲得に貢献。佐藤輝のパワーもすごいが、栗林の安定感もまた素晴らしい。甲乙つけがたいが、現時点では私の感覚では栗林のほうが佐藤輝よりも少しタイトル争いはリードしているように感じている。ただ、優勝争いをしている阪神に比べて広島は低迷しているから、その面での印象は弱いかもしれない。まだ残り試合も30試合以上あるから、最終的にどれだけの数字を上積みできるかだろう。
2人のほかにも、ルーキーで史上初のサイクル安打を放った
牧秀悟(
DeNA)、俊足巧打の
中野拓夢(阪神)らの名前が挙がるが、やはり成績、インパクトの点において言えば佐藤輝や栗林よりも落ちることは否めない。2人のどちらかが新人王のタイトルを獲得することになると思うが、かなりの接戦になるのではないかと思う。
記者投票で決定
一方のパ・リーグは
オリックスの
宮城大弥が少し抜け出した感がある。先発左腕としてすでに2ケタの10勝をクリアし、オリックスの首位の原動力にもなっている。宮城はプロ2年目の20歳で、ルーキーだった昨年は3試合に登板して1勝しているが、16回しか投げていない。それにしても2年目にここまで飛躍するとは誰が予想できただろう。
真っすぐは140キロ台で目を見張るスピードはないが、スライダーやカーブ、チェンジアップなどにキレがあり、打者にとっては的を絞りづらい。緩急を使った大人の投球ができるのが強みだ。チームに
山本由伸という絶対的なエースがいることも大きいのではないか。現時点ではパの本命だろう。このまま安定した投球を続け、オリックスが優勝すれば間違いないのではないか。
対抗は
早川隆久(
楽天)と
伊藤大海(
日本ハム)だ。宮城も含めて3人とも先発投手だが、早川は前半戦に比べると少し勢いが落ちている。開幕当初はルーキーらしく向かっていけたが、最近は中盤につかまるケースが多く、6月上旬に7勝目を挙げてから白星がない。プロの壁に当たっているように感じる。
早川とは逆に勢いをつけてきたのが伊藤だ。チームは最下位に沈んでいるが、その投げっぷりの良さは見ていて気持ちがいい。東京オリンピックでも代表に選ばれ、小気味いいピッチングを披露した。ここから勝ちまくって勝利数で宮城を抜けばタイトルの可能性も出てくる。それは早川も同じだ。日本ハムは厳しいが、楽天は優勝の可能性も十分に残されているから、早川が活躍してチームも優勝となれば印象はガラリと変わる。新人王は数字では決まらない。新聞、通信、放送各社に所属する記者の投票によって決まるから、印象というのは重要なのだ。
私もルーキーイヤーの1959年にパの新人王に選ばれた。125試合に出場して打率.275、13本塁打に57打点では正直、新人王は無理だと思った。記者の投票だったことも分かっていて、生意気だった私が選ばれるはずはないと勝手に思っていた。だから新人王の連絡を受けたときは驚いたし、本当にうれしかった。このタイトルだけは「来年また挑戦する」というわけにはいかないからだ。これといったライバルがいなかったことも幸運だった。
ちなみにこの年のセ・リーグの新人王は桑田武さんだ。先述したように新人記録の31本塁打で本塁打王のタイトルも獲得した。桑田さんは中大卒で私より4つ上の先輩だったが、非常に気さくで優しかった。
狙えるタイトルはすべて狙うべきというのが私の持論だ。特に新人王のチャンスは一度しかない。可能性のある選手は貪欲に挑戦してもらいたい。タイトルの重みは獲ってこそ初めて分かるものだ。
PROFILE 張本勲/はりもと・いさお●1940年6月19日生まれ。広島県出身。左投左打。広島・松本商高から大阪・浪華商高を経て59年に東映(のち日拓、日本ハム)へ入団して新人王に。61年に首位打者に輝き、以降も広角に打ち分けるスプレー打法で安打を量産。長打力と俊足を兼ね備えた安打製造機として7度の首位打者に輝く。76年に
巨人へ移籍して
長嶋茂雄監督の初優勝に貢献。80年に
ロッテへ移籍し、翌81年限りで引退。通算3085安打をはじめ数々の史上最多記録を打ち立てた。90年野球殿堂入り。現役時代の通算成績は2752試合、3085安打、504本塁打、1676打点、319盗塁、打率.319。