
日本のトップ選手たちのメジャー挑戦は仕方のないことだが……[写真=Getty Images]
日本はメジャーの下請けか
阪神対
オリックスの日本シリーズ真っ只中だ。59年ぶりの関西ダービーということで、関西はさぞ盛り上がっていることだろう。どちらが日本一になるかは神のみぞ知るだが、ともに投手力が良いチームだけに最後の最後までもつれそうだ。
さて、今回は日本選手のメジャー挑戦について述べたい。このオフにも
山本由伸(オリックス)、
今永昇太(
DeNA)らのメジャー挑戦が濃厚のようで、そうなれば日本シリーズ後には大きな注目を集めることになるだろう。
私は別に日本の選手がメジャーへ挑戦することに、どうこう言うつもりはない。プロ野球選手であれば、野球発祥の地でもあるアメリカ、メジャーの高いレベルで自分の力を試してみたいと思うのは当然のことだ。
もっと本音を言えば、メジャーはお金が違う。プロの評価はお金だから、自分に最もお金を払ってくれる球団に移籍するのは、プロなら当たり前のこと。周りがとやかく言うことではない。私がメジャー嫌いだと思っている読者もいるかもしれないが、とんでもない。私だって現役時代、日本の何倍もの年俸がメジャーの球団から提示されていたら、喜んで挑戦していただろう。
ただ、私が口を酸っぱくして言い続けているのは、メジャーに挑戦するのは構わないが、日本球界に戻って来るのも自由というのはおかしくないかということだ。
「それは選手の自由だし、選手の勝手じゃないか」という声もあるが、果たしてそうだろうか。よく考えてもらいたい。
以前にも例えたことがあるかもしれないが、あなたの会社にやり手で優秀な社員がいたとする。その社員が「海外のもっと大きく、給料も高い会社で働きたい」と思っていたとしよう。実際に声も掛けられていたとする。その社員が抜けてしまうのは会社にとっては大きな痛手だが、新しい会社に行くのか、あるいは残るのか、それは本人の自由だ。
しかし、その社員が何らかの理由で新しい会社から戻ってくることになったとしたら、あなたはどう思うだろうか。「お帰りなさい」と迎え入れる気持ちになれるかということだ。私はなれない。「勝手に辞めて勝手に戻って来やがって」と思うだろう。それと同じだ。
退職するのは自由。しかし戻って来るのなら、そこに規制を設けるのが普通だろう。そうすれば退職するときに、より慎重に考えるようになる。もちろん、これまでの選手たちが「ダメだったらまた日本に戻ればいい」と軽い気持ちで挑戦したとは思わない。相当な覚悟を持って渡米したとは思うが、日本球界への復帰に関する不安はそれほど大きくなかったはずだ。
私は何も意地悪で言っているわけではない。ただ、行くのも自由、帰って来るのも自由なら、日本のプロ野球は何なのかということだ。日本を代表するトッププレーヤーが次から次へと去っていく。日本である程度の成績を残したら、次はメジャーに挑戦するのが筋。それが当然という流れはおかしいし、それではまるで、日本はメジャーの下請け会社ではないか。何だか日本球界、日本の選手たちがメジャーから見下されているような感じで、私はそれが我慢ならないのだ。
日本プロ野球の空洞化
前号でも少し触れたが、以前は日米野球の差はとてつもなく大きかった。オリオールズが日米野球で来日した際、三冠王を獲得したことのあるフランク・ロビンソンの打撃練習を見たときは驚いたというか、信じられなかった。同じ競技かと思うほどケタ外れのパワー。そう言えば、日米野球でメジャーのスーパースター、ウイリー・メイズ(ジャイアンツほか)がバットをプレゼントしてくれたことがあった。王(
王貞治、
巨人)とじゃんけんして私が負けてメイズのバットは王のものになったことを思い出すが、王も私もメジャーでやれるとも、やりたいとも思わなかった時代だ。
そのときに比べれば隔世の感がある。日米の野球の差は大きく縮まっているし、それは毎年のようにメジャーに挑戦する日本選手が増えていることからも分かる。WBCでは決勝でアメリカを下し、
大谷翔平(エンゼルス)がメジャーで日本人初の本塁打王を獲得した。日本がメジャーより上になったとは言わないが、日本のプロ野球も十分に強くなり、夢も魅力もあるのだ。
では、歯止めをかけるべく規制をつくるのは誰の仕事かと言えば、これはコミッショナーしかいない。規制は日本球界への復帰へ一定の期間を設けたり、海外FA権の期間見直しなど、いろいろとあるだろう。メジャーに行かせない規制ではなく、メジャー流出に歯止めをかけるための規制だ。それをしなければ日本のプロ野球はますます空洞化してしまう。コミッショナーには、その危機感を感じて動いていただきたい。
その中でも、私がもう一度よく考えてもらいたいのが、ポスティングシステムだ。私から言わせれば、これは人身売買ですぐにでも廃止してもらいたいルール。球団は選手がFA権を取得する前にメジャーの球団に売って多額のお金が入る。本人は希望が叶う。メジャーの球団も才能ある日本の選手を獲得できる。誰も困らないどころかハッピーなのだから良い制度ではないかという声もあるが、こんなことをしていては日本のプロ野球の発展はない。すぐにでも廃止し、その代わりに海外FA権取得の期間を短縮するなど、いろいろと手を打つべきだ。
日本のファンは優しい。誤解を恐れずに言えば甘い。メジャーへ挑戦した選手が日本球界に復帰したら大歓迎だし、古巣の球団に戻れば「男気がある」だ。快くメジャーへと送り出してくれた球団に戻るべきだという風潮もある。最近の日本では長い故障から復帰した選手に「お帰りなさい」と美談にする記事にあふれ、本来ならそれは何をしていたとブーイングを飛ばすべきなのだ。これはメディアにも責任がある。
ともかく私が言いたいのは、メジャー流出に歯止めをかけるべく、「規制を設けよ」ということだ。日本のプロ野球の将来を考えれば、これはとても重要なことだと考える。
PROFILE 張本勲/はりもと・いさお●1940年6月19日生まれ。
広島県出身。左投左打。広島・松本商高から大阪・浪華商高を経て59年に東映(のち日拓、
日本ハム)へ入団して新人王に。61年に首位打者に輝き、以降も広角に打ち分けるスプレー打法で安打を量産。長打力と俊足を兼ね備えた安打製造機として7度の首位打者に輝く。76年に巨人へ移籍して
長嶋茂雄監督の初優勝に貢献。80年に
ロッテへ移籍し、翌81年限りで引退。通算3085安打をはじめ数々の史上最多記録を打ち立てた。90年野球殿堂入り。現役時代の通算成績は2752試合、3085安打、504本塁打、1676打点、319盗塁、打率.319。