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石田雄太の閃球眼

石田雄太コラム「野球を知らずして野球選手は描けない」

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世界一を決めたシーン[写真]など、今年のWBCは「マンガを超えた」の声もあったが……[写真=高原由佳]


 WBCが終わって帰国してからというもの、「泣いちゃいましたよ」「ホントにすごい試合でした」「マンガみたいな展開でしたね」といった声をあちこちでかけていただく。確かに準決勝の逆転サヨナラ劇も、決勝の出来過ぎたフィナーレも、野球の面白さがぎっしり詰まった素晴らしい試合だった。ガッツポーズや雄叫びはタブーとされている記者席で思わず拳を握り締めてしまったのだが、野球好きが感動のあまり涙したのとはちょっと違う感情だったように思う。

 子どものころから野球を観ることが好きで、好きが高じて野球を観る仕事に就くことができた。好きなことを仕事にしたせいで、純粋に好きだと言えることを失ってしまった。準決勝で日本が劣勢となって厳しい展開に追い詰められれば、もしこのまま負けたら明日以降のスケジュールをどうすべきなのか、原稿はどんなトーンで書けばいいのか、といった仕事の段取りのほうに気を取られてしまう。決勝で大谷翔平マイク・トラウトを三振に取った瞬間も、喜ぶというより取材のためにいつ記者席を離れるべきか、試合後の限られた時間の中で誰に何を訊きこうか、何時までにどの原稿が締め切りで翌日のアリゾナ行きの飛行機は何時発で……そんなことばっかりが頭の中をグルグルする。つまりは試合を楽しむ余裕など、ミクロもなかったということだ。

 もちろん仕事でマイアミまで来ているのだし・・・

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石田雄太の閃球眼

石田雄太の閃球眼

ベースボールライター。1964年生まれ。名古屋市立菊里高等学校、青山学院大卒。NHKディレクターを経て独立。フリーランスの野球記者として綴った著書に『イチロー・インタビューズ激闘の軌跡2000-2019』『大谷翔平 野球翔年』『平成野球30年の30人』などがある。

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