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石田雄太の閃球眼

石田雄太コラム「ウソを書くために必要な“ほんとう”のこと」

 

選手との距離を詰めて懐に入り、野球選手として、そして一人の人間としての想いを聞く。そうした時間と手間と覚悟こそ、“ほんとう”を映し出すための術にほかならない[写真はイメージ=Getty Images]


真実を理解する時間と手間と覚悟


 6月12日には特別な思い入れがある。個人的にスポーツライターの師と仰いできた永谷脩さんの命日だからだ。

 長きにわたってプロ野球を追い続け、たくさんの野球人の想いを書き綴ってきた永谷さんは、フリーランスのスポーツライターのパイオニアだった。永谷さんの書く原稿には情報が詰め込まれていて、読むたびに圧倒された。いったい、いつの間に、どこで、誰から……そんなエピソードが文中にこれでもかこれでもかと叩き込まれている。まるで、注ぎこぼしが升にあふれる、なみなみ注がれたコップ酒のような作品だった。

 しかし、永谷さんは急性骨髄性白血病に倒れ、逝ってしまった。それが今から10年前、2014年6月12日のことだ。まだ68歳だった。訃報を聞いて、すぐに永谷さんの自宅へ駆けつけた。永谷さんはまるで眠っているようで、今にもむくっと起き上がってすぐにどこかへ出掛けていきそうだった。『千の風になって』の歌詞ではないが、お墓参りに行ってもそこに永谷さんはいないだろうと思ってしまうほど、いつも神出鬼没で、どこへでも現れる現場主義を貫いた人だった。

 だから永谷さんは“ほんとう”のことを書いた。現場に足を運んでいろんな人に話を聞き、その瞬間に立ち会うことで、まず“事実”を知り、その事実から読み取れる“真実”を解釈し、その先にある伝えるべき“ほんとう”のことを書く。だから永谷さんの原稿からは・・・

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石田雄太の閃球眼

石田雄太の閃球眼

ベースボールライター。1964年生まれ。名古屋市立菊里高等学校、青山学院大卒。NHKディレクターを経て独立。フリーランスの野球記者として綴った著書に『イチロー・インタビューズ激闘の軌跡2000-2019』『大谷翔平 野球翔年』『平成野球30年の30人』などがある。

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