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石田雄太の閃球眼

石田雄太コラム「準備、信頼、そして覚悟 捕手の生き様こそ“矜持”」

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今季、ソフトバンクからFA移籍した巨人甲斐拓也。思いの端々に、本塁を守る男の矜持がにじむ[写真=桜井ひとし]


正捕手が他リーグへ 実は例がない移籍


 前年、100試合以上に出場していたレギュラークラスのキャッチャーが国内の他球団へ移籍したケースは、これまでに何度かある。21世紀に入ってからの球史を紐解くと、谷繁元信(ベイスターズ→ドラゴンズ)、相川亮二(ベイスターズ→スワローズ)、細川亨(ライオンズ→ホークス)、鶴岡慎也(ファイターズ→ホークス)、森友哉(ライオンズ→バファローズ)と、いった名前が挙がってくる。

 そんな中、昨年までホークスの正捕手として7度のゴールデン・グラブ賞を獲得した甲斐拓也が今年、ジャイアンツへ移籍した。100試合以上に出た正捕手の移籍を5人挙げたが、実はすべて同一リーグ内の移籍で、リーグを跨いでの正捕手の移籍は例がない。過去に遡っても1979年、ライオンズからタイガースへ移籍した若菜嘉晴(トレード相手の田淵幸一も前年100試合以上に出場していたが、キャッチャーとしての出場は79試合)くらいで、ほかに思い浮かばない。交流戦があるとはいえ、違うリーグともなれば、相手バッターはもちろん、味方のピッチャーの知識にも乏しい。だからこの春のキャンプ、甲斐はやらなければならないことに追われていた。

「チームが変わればやることが増えますから、大変です。まずはみんなの話を聞きました。事前にネットを見たり去年の映像を見ながら材料を集めて、どうやってこの人を料理しようかと、イメージしながら話を聞くんです(笑)。それってピッチングスタイルにも通じるんですよね。相手が何を持っているのかを把握した上で、選択肢が2つ出てきたとき、僕は『これで行こう』とハッキリ言えるようでいたい。『……だと思う』という中途半端なことは言いたくないんです。それが楽しいポジションでもありますし、この歳になって、またそういう大変な思いができることがうれしいんです。立ち位置も分からない、何も知らないピッチャー陣と向き合って、ゼロから信頼を勝ち取る……そこへ行くまでの過程をもう一度味わえるのは、ジャイアンツへ来たからです」

 実際、今シーズンの開幕から1カ月・・・

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石田雄太の閃球眼

ベースボールライター。1964年生まれ。名古屋市立菊里高等学校、青山学院大卒。NHKディレクターを経て独立。フリーランスの野球記者として綴った著書に『イチロー・インタビューズ激闘の軌跡2000-2019』『大谷翔平 野球翔年』『平成野球30年の30人』などがある。

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