
オークランドから出て行くために、弱くなったと勘繰られているアスレチックス。移転を前に今後どれくらい地元ファンを魅了する試合ができるだろうか
藤浪晋太郎投手の所属するオークランド・アスレチックスがラスベガスの土地を購入することで合意した。15億ドルをかけて3万5000人収容の開閉式の球場を建てる。2024年から建築が始まり、27年シーズンからプレーするという。
アスレチックスはオークランドとも新球場建設の話し合いをしてきたが、オークランド市長は怒りの声明文を発表した。「球団はわれわれを本当のパートナーと考えていなかった。心底がっかり。1968年からの長い関係があるのにラスベガスから良い話を導き出すために利用された」としている。
「マネーボール」で知られるアスレチックスは、コストを抑えながら、強いチームを作り、過去21年間で11回プレーオフに勝ち進んだ。しかしながら近年球団がラスベガスに移転できるよう、わざと良い選手を放出し弱いチームにしたと、オークランドのファンは疑っている。
昨季は60勝102敗の最下位で観客数は平均で1万人以下。にもかかわらずオフに最後に残っていた好選手ショーン・マーフィー捕手もトレードで放出した。今季は4月19日終了時点で3勝16敗。特にひどいのは投手陣で、防御率7.71。当然スタンドはガラガラだ。
地元ファンは「オークランドには野球ファンがいないから、ラスベガスに移るというが、事実ではない。メジャーで最も給料総額が安く、負け越しているのに、チケット代は値上げ。われわれを見捨てようとしている」と批判する。心配なのは始まったばかりの今シーズンだ。ますますファンは球場に来なくなり、来場したファンも、去っていくチームにどんな態度を取るのか。
19世紀末にクリーブランド・スパイダーズというチームがあった。1889年からナ・リーグでプレー、90年にあのサイ・ヤングが入団したことで強くなり7年連続勝ち越し、2位が3度。しかしながらペナントレースを制することはなかった。そこでオーナーは98年にセントルイス・ブラウンズを買収、セントルイス・パーフェクトズ(後のカージナルス)とし、ヤングをはじめとする主力選手をパーフェクトズに移籍させた。
人口密度が大きいセントルイスのほうが、たくさん客が入ると考えたからだ。見捨てられたスパイダーズはMLBのワースト記録となる20勝134敗の散々な成績で、9000人収容の本拠地リーグ・パークは、最初の16試合で平均200人しかお客が入らなかった。これでは遠征チームにホテル代や列車代も払えない。他球団はクリーブランドに来ることを拒否し、途中からスパイダーズはもっぱらアウェイで戦うことになった。
そのシーズン、ホームゲームは42試合、遠征試合は112試合だった。そのオフ、ナ・リーグは4球団を削減するがスパイダーズもそのうちの一つとなっている。のちにメジャー・リーグの規則で、同オーナーが2つの異なるメジャー球団の所有者となることは禁じられている。
現在のオークランド・アスレチックスは99年に捨てられたクリーブランド・スパイダーズの状況に似ていると思う。藤浪もマウンドに立つのがつらいのではないだろうか。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images