
攻守走そろったアクーニャ・ジュニア。その才能をデビュー時から発揮していたが、大ケガのあとからは、選手として成長し、今季はMVP級の活躍を続けている
メジャーで現在、攻守走すべてで魅せられる野手といえば、ブレーブスの25歳、ロナルド・アクーニャ・ジュニアだろう。5月17日のレンジャーズ戦、6回の今季11号は4試合連続。43試合で11本塁打、18盗塁は、シーズン30本塁打60盗塁ペースで、実現すればMLB史上初となる。
ブレーブスのロン・ワシントン三塁ベースコーチは「以前は才能だけでやっている部分があったが、今は細かいことにこだわって試合の準備をしているし、身体にも気を配っている」と目を細める。
2018年、20歳でメジャー・デビューしたアクーニャ・ジュニアは、19年に21本塁打、37盗塁(盗塁王)の活躍で、MVP投票で5位だった。デビューから最初の550試合で120本塁打、120盗塁を達成したのは彼だけである。
しかしながら21年7月10日に大ケガに見舞われた。マーリンズ戦での守備でジャンプから着地したときに右膝を痛め、前十字じん帯断裂。チームはその年ワールド・シリーズに進出し世界一に輝くが、プレーすることができなかった。
22年は復帰して119試合に出たが、膝は治りきっておらず、本人もバットを振るときに腰を回転させるのが難しかったと明かしている。打率は21年の痛める前の.283から22年は.266に落ちた。「こわごわ、だったし、下半身に爆発力がなかった。ただシーズン終盤には状態が良くなっていった」とケビン・サイザー打撃コーチ。
オフは通常のトレーニングを積み、春のキャンプではまったく問題がなかった。そして今シーズンに入って大活躍。ここまで全試合に出て、安打数(58)、得点数(40)、OPS(出塁率+長打率)1.050が全体1位。盗塁数(17)はナ・リーグ1位。打率.345はナ・リーグ2位である。
平均打球速度は95.1マイル(メジャー5位)で昨年の91.2マイルから大幅に上昇した。試合のスイングを見れば明らかで、右足の軸がしっかりしていて、ボールに向かって力強く踏み出していけるし、腰を素早く回転している。個人成績の中で今までと違うのは高打率。これまで3割を超えたことは一度もなかったのだが.345である。
本人も認めているがこれはシフト制限のお陰だろう。もともとゴロの多いタイプで昨季はゴロを打った打席が164回あり、その打率は.268だった。それが今季は74回で、打率.338。シフトで内野手を片側に3人並べられると、どれだけ強い打球でも抜けないが、今年は2人の規定なので抜けていく。
ちなみにアクーニャ・ジュニアは強肩でも知られる。外野からの返球は平均96.3マイルで外野手トップだ。ブライアン・スニッカー監督は「選手としても人間としても大きく成長した」と信頼、今季は162試合フルに出場させる予定だ。今後数字が多少落ちたとしても打率3割、25本塁打、60盗塁は十分に狙える。そうなれば1976年のレッズのジョー・
モーガン、90年のアスレチックスのリッキー・ヘンダーソン以来の快挙だ。
2人とも、そのシーズンはMVPに選ばれた。アクーニャ・ジュニアもこれまでのところ、ナ・リーグのMVPレースの先頭を走っているのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images