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【MLB】投手にとっては投げにくい死球を怖がらない打者たち

 

大学時代から、死球を怖がらず、よける練習もしていたアロンソ[右]は、骨挫傷も11日で早期復帰。投手にとってはこういう打者は本当に厄介だ


 メッツのスラッガー、ピート・アロンソはフロリダ大時代に死球を怖がらないよう、特殊なトレーニングを受けていたそうだ。普通の打者であれば、本能的によけてしまうところが、ピッチングマシンでスポンジボールを何度も身体に当て、脳に逃げないよう指令、当たることに慣れていく。同時に一瞬で軌道を見極め、少し身体をねじって、大ケガにならない個所に当てる。

 大学の試合で死球から逃げたら、監督に次の練習で走らされたから、必死で取り組んだ。その甲斐もあってか(?)、メジャー5シーズンで56死球。6月7日のブレーブス戦では手首に受け、当初は3、4週間の離脱との診断だったが、骨挫傷で、折れたりひびが入ったりしていなかったため、わずか11日で復帰し、周囲を驚かせた。

 投手にとって逃げない打者は嫌なものだ。1887年に遡って、野球のルールでは、打者は投球が身体のほうに来ればよけなければならないことになっている。しかしあからさまにボールに向かって行かない限り、必ずしもそのようには判定されていない。

 ベースボール・リファレンスによると、メジャーの死球王はオリオールズなどで1891年から1918年までプレーしたヒューイ・ジェニングスで通算287個。気性が荒く、負けん気の強い選手で、1試合に3死球を食らったこともあり、ある試合では、3回に頭部に死球を受けたにもかかわらず、試合の最後までプレーし続けたそうだ。試合が終わるとそのまま倒れ込み、3日間も意識が戻らなかったという。

 1896年の51死球はシーズン最多記録。その年は、209安打で打率.401、70盗塁、121打点、19四球、11三振という成績。四球と三振より、死球が多いなんて、ありえない数字である。

 彼に次ぐのはアストロズで88年から2007年までプレーしたクレイグ・ビジオで285死球。最多は97年の34個だった。180cm、83kgと特に大きな選手でもないため、選手生活の晩年には「この身体でこれだけ死球を食らって、まだ歩けているなんて幸運だ」とコメントしている。

 もっとも彼はかなり大きめの肘当てをしていて、投手はわざと当たりに行っていると嫌った。そこでコミッショナーオフィスが肘当てのサイズを制限するようになっている。

 今の現役選手で一番多いのはヤンキースの左打者アンソニー・リゾで207死球。190cm、108kgの頑丈な体だ。15年が30個、17年が24個、19年は27個で死球王だった。死球が多いのはベースの近くに立つから。得意は内角低めで、そこならなんだってさばけるが、外角も対応できるよう、ベースの近くに立っている。投手は当てないように内角を狙って投げるが、少しでもコースが狂えば、体に当たる。

 本人は別に当たりに行っているわけではないが、結果、出塁率は上がる(通算.365)。リゾは歴代死球数8位で、まだ33歳だ。今季もここまで9個で、ひょっとしたら数年後、ジェニングスの(名誉な?)記録に挑戦するのかもしれない。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

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